第53話 皆でプールに行こう!

 古部都が学校を去り、綿貫が絡んでくることもなくいったんは静かな日常が戻ってきた。

 戸成も色々と気分が落ち込む様子をみせたりもしたが、日がたつにつれて元気になってきた。

 ほぼほぼいつもの毎日に戻ったのだが、俺はと言うとサッカー部の事にバタバタしたり生徒会が続いたのもあり、アオ先輩がタロー君が全然かまってくれなぁいと嘆いていたので今はアオ先輩にだっこされながらヒメ先輩たちの被服室にいた。


「まーたあんたは変な事に首を突っ込んでたのねぇ。でも友達の為ならよくやったわ」


 呆れながらも労ってくれるあたりがヒメ先輩らしい。


「お友達のために頑張ったタロー君はえらいので~、ご褒美にチューしちゃいま~す!」


 そういってしっかり抱き着きながらムチューと唇をのばしてくるアオ先輩をブロックしていると、アカ先輩が何やら珍しく思案するような顔をしていた。あのウェーイしながら笑ってるアカ先輩が考え事してるとか明日は空から鮫でも降ってくるんだろうか。


「綿貫、綿貫ささらか……なんだったっけなぁ。思い出せないや」


 何かあるなら教えてくださいとアカ先輩にお願いしておいた。


「むず、タロー君とアカちゃんが意味深かも。これは……負けないようにタロー君をかぷかぷあまがみとかするしかないよねっ?」


「ノーテンキューです、ブロックブロック」


 今日もアオ先輩は相変わらずだった。


「あ、そういえば夏も近づいてきたでしょ~?うちが出資してる温水プールみたいな?何かそう言うのがねぇ、完成するんだよ~」


「そういえばあのプールはアオん所が噛んでるんだっけ。いい立地の所にしっかりマーケティングしてたててたよね、うちのおじいちゃんも褒めてたよ」


「難しい事はわからないけどお父さんが色々やってたよぉ」


 ……前言撤回、アオ先輩とヒメ先輩の会話はちょっと雲の上の話だった。ヒメ先輩もだけどアオ先輩も結構なお嬢様なのでは??



「ジャジャーン!というわけで関係者入場券がいっぱいあるから、今週末のプレオープンに皆でいかない~?」


 そう言って結構な枚数の入場券を取り出すアオ先輩。


「えー、マジ?!チョーテン上げよいちょまる!行くしかないじゃん!」


 真っ先にアカ先輩が反応した。ヒメ先輩も興味があるのか意外と乗り気である。


「あとぉ、タロー君のお友達も誘ってあげて~?男の子も女の子も、こういうのってたくさんいたほうが楽しいよねっ!」


そう言ってチケットの束を渡して貰った。余らせるのは勿体無いので一緒に行く友達を探さなければ。

 ヒメ先輩達が放課後カラオケに向かったので、そこで別れてバスケ部に声をかけに行ったら丁度戸成に遭遇したので声をかける。


「―――というわけなんだけど今週末に皆でプールのプレオープン行くけど戸成一緒に行かないか?」


「行く(1秒)」


 よし、まず一人。まずは戸成だよなー。女子ばっかりなので男子がいてくれるとタローちゃん心強い。


「何々何の話?」


「お、あきら。丁度良かった、今週末一緒にプールに行かないか?」


「エッ?プ、プール?!えっ、それってデ、デデデ…!!」


 大王かな?ペンギンの。あれ、あの大王ってペンギンだっけ。


「……タロー、誤解を招く言い方をするな…」


 横にいた戸成が溜息混じりに横から補足すると、なぜかあきらは肩を落としたが、プール自体は一緒についてきてくれることになった。これで2人。

 この流れならともちゃんも誘おうとメッセージを送ったら即座に


『プール!!!!!!!いく!!!!!!!!!』


 と帰ってきた。子供はプールとか好きだもんね。

あと舞花ちゃんにメッセージ送ったら二つ返事で来てくれたのでヨシッ!

さて、これで券の残りは2枚。

 はじめちゃんやすずめちゃんにメッセージを送ったが、はじめちゃんは家の手伝い、すずめちゃんは道場の遠征で無理だった。うーん、あと2人どうしようかな。

 …そうだ、桜那先輩も誘ってみようか。ヒメ先輩とは知り合いって言ってたし、沖那も来るんだし。そう思って生徒会室に行くと、丁度桜那先輩がいた。


「こんな時間にどうした太郎。私に逢いにでも来たのか?」


「はい、そうです」


 あれ、何か顔赤くして固まってしまった。

 皆でプールに行くから誘いに来たんですという説明をすると、咳払いをしてからもプールに一緒に来てくれることになった。でもなんかちょっと拗ねてるようにも見える。どうしたんだろうね?

 沖那や他の友達、それに俺の友達や、ヒメ先輩達も一緒です……というかアオ先輩からいただいたものです、というとほう?と興味深そうにしていた。そういえば桜那先輩ってヒメ先輩と古い友達なんだもんね。

 そうして話し込んでいたところで、ふと目を向けると生徒会に詰まれていた書類がいつもより減っているのに気づいた。


「あれ、桜那先輩。書類が減っていますね」


「あぁ。一人、一年が臨時で生徒会に加入してくれてな。今は臨時書記として手伝ってくれている。いずれ正式に生徒会選挙で出馬すると思うが、太郎とはまだあった事がなかったな」


 可児さんという一年生の女の子が折をみて手伝ってくれているらしい。図書委員をしながら、生徒会の窮状を見かねて手伝ってくれているとの事。どんな子なんだろう、俺も会ってみたいな。


「会長代行!本日提出の反省文をお持ちしました!!」


 …なんてそんな事を考えていると、ノックの後に真島先輩が生徒会室に入ってきた。すごく元気だけど部活動が終わってもこの元気を維持できるのってすごいなぁと思う。タローちゃん体力ないからさ。


「む、桃園太郎!!今日も壮健そうで何よりだ!!」


「真島先輩も相変わらず元気ですね」


 そんな挨拶をかわした後、作文用紙の束を桜那先輩に手渡す真島先輩。


「反省文はこちらになります!サッカー部の仕上がりも順調です!!―――次の公式戦、必ずや会長代行に勝利を!!」


「そうか、期待しているよ。部活動に奉仕活動大儀であったな。気をつけて帰るのだぞ」


「ハッ!!事故問題ないよう細心の注意を払って下校いたします!!」


 真島先輩の動きが凄くキビキビしていて面白いけど、そうだと閃いて真島先輩もプールに誘った。


「む、私で良いのか?」


 急にそんな話をされて素直に驚いているが、ここ最近の真島先輩はだいぶん面白い人なので一緒に来てくれたら面白そうだなと思ったのもある。

 今の真島先輩は、サッカー部を率いて熱心に朝夕の奉仕活動や挨拶活動、下校時の声かけ運動などに精を出しているので、校内でも以前のやさぐれヤンキーから騎士道マニアで厨二病を拗らせている面白い残念イケメンへという評価に変わりつつある。良い事だ。

 サッカー部全体のイメージが良くなるのは良い事だし、実際問題行動も起きなくなった。学生のうちに更生するのって大事だと思うのだ。


「はい。真島先輩面白いしこの機に仲良くなれたらと思うので」


「そうか。ならばありがたく招待されるとしよう。なに、体力には自信がある。荷物持ちは任せるが良い」


「それは助かりますね、女の子が多いので俺含めて荷物持ちは何人いても足りないでしょうし。あ、桜那先輩も一緒に来てくれるんですよ」


 そんな俺の言葉に頷く桜那先輩。そんな桜那先輩の様子に目を見開き、ビッ!と気合を入れなおす真島先輩。


「会長代行も?!―――ハッ。不詳この真島晴朗(ましませいろう)、一命を賭しても会長代行をお守りいたします!!」


 プールに行くだけなのに迷わず命をかけようとしないでほしい。

 しかし真島先輩、晴朗って名前なのか。晴朗、せいろう、ね。…天気が晴れ渡って明るき気持ちよいさま、だったっけ。若干アホなところはあるけれど、更生して元気で面白い人になった今の真島先輩にぴったりだと思う。名は体を表すだなと笑みがこぼれた。

 さーて今週末はプールか、楽しみだなぁー!

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