第50話 聞屋美少女の見解-NTR男-

 放課後に新聞部の倉庫に戸成を連れてお邪魔したいという事を舞花ちゃんに連絡しておき、放課後を待って戸成と倉庫を訪れた。

 それぞれの挨拶もそこそこに、昨日起きたことを説明する。あと朝真島先輩から聞いた話も一緒に。一応、桜那先輩とサッカー部を改心させたことなどは都度舞花ちゃんには説明しておいたのだが、舞花ちゃんも舞花ちゃんで色々と調べていたようだ。


「そうでしたか。彼女の行動も調べていたらタロー君の周りを動いていたので、タイミング的にタロー君が一人で帰るであろう昨日に動くと踏んで犬井さんに動いてもらっておいて正解でしたね」


 ともちゃんも言っていたが、昨日ともちゃんを俺の所に寄越したのはやはり舞花ちゃんの手腕だった。相変わらずの完璧な読み、いや舞花ちゃんだから俺が読んでる本とかどこで本を買うかとか把握してるもんね、知ってる。


「昨日はそれを想定して、そう言う状況になった場合に同じ幼馴染という立場を持つ犬井さんのあの性格とその……珍奇なキャラクターなら場が上手く収まると考えて犬井さんにお願いしました」


 大正解でしたねぇ!!お陰様で綿貫の企みは潰えて俺も助かりました。あと、ともちゃんが綿貫フルボッコにしてくれたよ。

 しかしともちゃん……珍奇……そうね……舞花ちゃんから見てもそういう印象何だね。空を見上げると『あははー』と笑っているともちゃんの顔が思い浮かぶ。珍奇、だよなぁ。

 そしてそんな話を聞きながらも思いつめた表情をしている戸成。


「そう思い詰めるなって。今のお前は一人じゃない。たとえ古部都や綿貫が何を考えていたとしても、お前を助ける愉快な仲間達がいっぱいいるぞぉ」


 安堵させるように言うと苦笑して頷く戸成。まったく手のかかる奴だ、放っておくとすぐ一人で思い詰めようとするんだから、もう。


「最初に戸成さんにお話ししておきますが、これからの話で私は古部都・綿貫の両名の敬称を省略して話をすすめますが、どうか気を悪くされないでください」


 律儀に確認を取る舞花ちゃんに頷く戸成。


「では続けますね。まず、私が調べた情報からお話しします。

 古部都がサッカー部を扇動していたのは事実のようです。複数のサッカー部員から話が聞けています。古部都は自分のナンパ行為を隠すためにサッカー部を利用したのだと考えていいでしょう。木を隠すには森の中、という事ですね」


 あー、やっぱりそうなのね。というか舞花ちゃんそこまで裏取りを先にしててくれて助かるけど賢いよね本当に。


「そしてなぜ古部都がそんな事をしているか、という事です。これは聞き込みした情報と状況証拠からの推測ですが、今現在古部都と綿貫の2人は上手くいっていないのではないと推測しています。タイミングとしては高校に入って暫くしてから、丁度、蟹沢弥平を退治したあたりですね。2人が口論する姿も目撃されています」


 なぜそんな変なタイミングで仲違いしてるんだ?と首をかしげるが同じ疑問を思ったのか戸成も首をかしげている。


「原因は幾つか考えられますが、まずは戸成君が注目されだした事です。元々バスケ部期待のルーキーとして女子から注目されていた戸成君ですが、蟹沢をめぐる騒動の中で活躍した、“イケメンで性格も良い戸成君”の存在は学校に広く知られることになりました。タロー君はトラブルメーカーという側面が大きいですが、戸成君は暴力を振るう蟹沢から友達を助けた、という部分が広まったんですね。そしてそこに加えて、戸成君のお姉さん、桜那先輩という強烈なカリスマを持つ人が生徒会長代行として生徒会の権力を一手に担う事になりました。古部都からしたら面白くないでしょうし、綿貫も保身に走ろうとしたのは予想ができますね」


 成程、そこまで説明をしてもらえると凄くわかりやすい。つまり、素行不良のサッカー部のマネージャーをするより、注目のイケメンである戸成の元に戻った方が綿貫としては得。ついでに昨日の話だと出来る事なら悪評を古部都にすべて押し付けれたらなおヨシッ!ってところだろうか。


 ……おっそろしい子だなぁ。


 これから学校の権力の中枢に入り込むであろう桜那先輩に敵視されることは避けたい、という意図もあったのかもしれない。。桜那先輩は心中はどうあれ個人の感情で生徒にどうこうしたりする人じゃないと思うけどねぇ。心にやましいものがある人程そう考えてしまうのかもしれない。


「どこまで考えていたかは読めませんが、戸成君に取り入る事が出来ればよし、そうでなくても古部都を切り捨てて自分が逃げ出せれば良し。それぐらいは考えていたのかもしれませんね。とはいえ今更戸成君に近づいてもそう簡単に関係を修復できるとは思っていないと思うので意図を測りかねている所は在ります」


 因果応報、とはいえないけれど人から奪った彼女に見限られて捨てられる、か、そう考えたら古部都も可哀想な奴かも知れない。一切同情はできないけれども。


「なんていうか……複雑な気持ちだよ。あの2人は許せないし、多分どんな話をしても許す事は無い。けど……哀れだなって思う気持ちもある。こういう時どんな顔をすればいいのかわからないんだ」


 戸成がなんと言ったらいいのか、言葉を濁しながら言っている。笑えばいいと思うよ。笑えよ沖那。


「良い事も悪い事もめぐり巡って自分に帰ってくるんですよ、戸成君」


 そんな言葉舞花ちゃんの言葉に静かに頷く戸成。


「で、この2人を放置するわけにもいかない。取り急ぎ、問題行動をしていて放置しておけない古部都は呼び出して話をしようと思うけれど―――」


 綿貫も捨て置けないのはあるけれど、今の所俺に変に絡んできた以外の被害は無い。ともちゃんにフルボッコにされたからすぐになにかしてくるということもないだろうし。


「アイツと直接話すのは俺にやらせてくれないか」


 戸成が静かに言う。お前ならそう言うと思ってたよ、と思いつつ、俺も頷く。古部都には俺も俺の友達も迷惑をかけられたが、古部都との決着は戸成がつけるべきものだと思う。そう思いつつ舞花ちゃんの話の続きに俺と戸成は耳を傾け、明日の放課後古部都を呼び出そうという事になった。



「学校だと剣道場あたりに呼び出せたらと思うのですが」


 舞花ちゃんが提案するが、俺ももしもの事を考えてその方がいいと思う。あまり人目につくところで大事になってもよろしくない。

 はじめちゃんに事情を話したらそのあたりでも協力してくれるかもしれない、すずめちゃんも剣道部にいるしな。


「ただ、肝心の古部都を呼び出す方法についてですが、最近の古部都は授業を欠席したり遅刻早退をしているから捕まえにくくなっているのですが……」


 そう言って俺に申し訳なさそうな顔をする舞花ちゃん。

 ……あぁそうか、舞花ちゃんは俺のことを知っているから“あいつ”の事も知ってるか。そうね、こういう時はあいつに頼むと古部都を呼び出してくれそう。


「あー、こういうときに頼りになりそうな奴がいるから、ちょっと頼んでみる。多分、古部都を呼び出すのも問題ないと思うよ」


 中学時代の友達に古部都みたいな奴を呼び出すのを上手くやってくれそうな心当たりがあるのだ。敵にすると厄介だけど仲間にすると面倒くさい変人。でも今の状況では頼りになると思う。

 スマホのメッセージ画面から因幡という名前の会話画面を開き、メッセージを送る。軽くやり取りをした後にサッカー部1年の古部都凌兵を剣道場に呼び出したいんだけど、と頼むと短い返信が来た。


『理由は聞かないでおいてやる。貸し一つな』


 うーん、背に腹は代えられない。なので俺もその条件を呑むと、暫くしてからスマホに着信音が鳴った。


『明日の放課後剣道場で。はじめちゃんと教師にも連絡しておく』


 流石因幡、判断が早い。あと行動も早い。もう古部都に連絡ついたのか、恐ろしい奴ぅ!

 とはいえあいつに貸りを作ると絶対それ以上に面倒な頼まれごとが返ってくるのであまり頼りにしたくなかった奴ではあるがこの状況だと因幡に頼るのが一番早い。


「……という事で早速で悪いが明日の放課後、剣道場だ。古部都ときっちり話しつけてこい沖那」


「本当に早いな?!けど、わかった。恩に着るタロー……って今俺の事沖那って呼んだ???ねぇタロー!」


 下の名前で呼ぶたびに喜ぶのはやめろ戸成ィと呆れつつ苦笑する。

 ……明日は頑張れよ、俺も一緒にいるからさ。

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