第49話 サッカー部扇動の犯人


 綿貫が接触してきた次の日の朝、校門でサッカー部が挨拶活動していた。爺さんにボコボコに打ち込まれたので全身が痛いが泣き言を言ってても学校には行かなきゃいけないのである。


「おはよう桃園太郎!!今日も元気そうで何よりだな!!」


 そんな事を考えながら校門を通り過ぎた矢先、さわやかな笑顔で話しかけてきたのはサッカー部の部長の真島先輩だ。なんか雰囲気が違うな、と思ったら髪が黒くなってるんだな、これがァ!


「おはようございます真島先輩。髪黒くしたんですね」


「公式戦が近いからな。部員にも試合が近づいたら身なりを整えるように言い含めているので私が手本を示さねばな。無論、公式戦が終わったらまた染め直すが」


 部活動にかけてはきちんとしてるんだなこの人、と笑ってしまう。桜那先輩の見立て通り、サッカーへの情熱は本物だったみたいだ。


「ところでその薔薇はなんなんですか」


 真島先輩の胸ポケットには薔薇の花が刺さっていた。


「よくぞ聞いてくれた桃園太郎!この薔薇は生徒会に作文用紙64枚に及ぶ入魂の反省文を提出しに行った時に、会長代行から労いと共にいただいたものなのだ。以来、プリザーブドフラワーにして胸に飾っているのだよ」


 64枚の大作反省文ってちょっと気になってしまうので悔しい。そもそも反省文を提出しに行くことは胸を張って言う事だろうかという疑問もあるけどこの人は幸せそうだからそっとしておこうね。

 そういえば生徒会に飾ってあったな薔薇の花だ、この薔薇。桜那さん一輪あげたんっすねー。

 しかしまぁこの人濃い。キャラが、濃い。色々吹っ切れたのかすっかり(見ている分には)愉快な人になっている。


「私はこの薔薇に恥じぬよう鋭意努力し邁進せねばならん。女子にやさしく、強きを挫き弱きを守る、そういう男に!私はなる!!」


 振り上げた腕を上げ下げしながら叫ぶ真島先輩、いやぁ朝から元気ですねぇ。やさぐれ素行不良生徒よりは万倍良いですよ。

 周囲を通り過ぎていく生徒もクスクスと笑っているがこの人は全然気にしてない。ナナメ上に進化していってだいぶん変な人になってきたなぁ、とじわる。

 拗らせてるっていっちゃっていいのかわからんけど、結果だけで見ると悪いことしなくなって奉仕活動や学校の活動に積極的に取り組んで女子にも優しくなったからいい事なんだよね。


「はぁ。騎士道とかそういう感じのアレですか。なんかうちの図書館にもそんな翻訳本ありましたよね」


「なるほど騎士道!そうか、私に足りなかったものはそれだ!早速今日にでも借りて読むとしよう、感謝するぞ桃園太郎!!私にはまだまだ学ぶことがたくさんあるようだ!」


 うっわぁ、余計なこと言ったかなぁ……でも今の真島先輩は無害で面白おかしい人だから別にいっか。ちょっとぐらい拗らせてるのを強化しても問題は無いでしょ、多分。ドン・キホーテみたいなならなきゃいいけど、それはそれで面白い人にはなるんかもしれない。


「あ、そういえば真島先輩に聞きたかったことがあるんですけど」


「む、何だ?何でも聞くが良い」


「サッカー部ってなんであんな強引なナンパとかしてたんですか?今のアホ……じゃなかったさわやか路線の方が周りのウケは良いようにに感じるんですけど」


「うむ、それはだな。サッカー部の一年がそういう風に女子を口説くと言っていたので参考にしていたのだ。女子は強引に口説けばイチコロと言われてな、元々うちの部全体がささくれ立っていたのもあって皆に迷惑をかけてしまい、猛省している。

 最も、その一年は会長代行がサッカー部を訪れる直前から久しく部活動に来なくなってしまったのだが。その恋人のマネージャーも来てない」


 サッカー部の厄介ナンパ問題、原因は古部都じゃねえええええええええええええかああああああああああああああああああああ!!!

 あいつが事態をややこしくしてるんじゃねーかアホかよおおおおおお!なんだよもぉお!またかよおおおおおお!!

 サッカー部の流れで古部都が動いてると思ったら古部都がサッカー部に余計な事吹聴して面倒起こしてたんじゃねーか。逆だったんだ、古部都が自分の行動の隠れ蓑にサッカー部のアホな人たちを扇動したんじゃねーかこれ。

 素行不良自体は元々のものにしても古部都が余計なことしたせいで問題が拡大してるの本当にげんなりしてしまう。駄目だ古部都、早く何とかしないと……。


「はぁー、そうだったんですね。真島先輩たちは今の路線のほうがいいとおもうんで是非その方向で頑張ってください」


「うむ。会長代行のお手を煩わせることのないようにするとも。この胸の薔薇にかけて、我らサッカー部一丸となり、必ずや勝利の栄誉を会長代行に捧げると誓おう!!」


 なんか朝から燃えている真島先輩。この人はぜひともこういう面白い人で突き進んでほしいね。

 朝から真島先輩とそんな交流をしつつ、教室へと歩いていった。

 うーむ、やっぱり古部都と綿貫の2人は放っておくとまた何かしでかしそうだから早々に対処した方がいい気がするぞ。


 そしてその日の昼は、昨日の事を戸成に話さなければいけないのと、あまり他の人に話を聞かれるのもまずいなと思ったので、昼休みに入って早々に戸成と2人で連れだって屋上に向かった。

 途中、あきらやともちゃんも一緒についてきたがったが、2人だけで話したいことがあったので断ったらまたショックを受けていた。別にやましい事なんてないぞ……?!


 そいう訳で屋上に来て2人で弁当を広げて食べながら、昨日あった事を話す。


「ささらがタローにぃ?!」


昨日の事を戸成に話すと、お茶を吹き出して驚いていた。朝真島先輩から聞いた古部都がサッカー部をいらん扇動していたことも、裏取が終わっていないけれども、と前置きをしたうえで説明する。


「これ早く手を打たないとまた拡大気がする」


 いつになく真剣な表情で思案する戸成。そうね、このままあの2人をフリーにしてまた変な事をやらかされたら困る。


「というわけでこの件ちょっと俺にも手を貸させてもらうかんな。こうして俺も関わってるし、舞花ちゃん―――新聞部にいる俺の友達の子も色々調べてくれててさ」


 そんな俺の提案に、頼っていいものか思案したようだが、深々と頭を下げる戸成。


「すまん。助かる」


「いいって、気にすんな。それよりあの迷惑生徒2人をなんとかして、後顧の憂いのない高校生活送ろうぜ」


 そう言って戸成に笑いかけるのだった。

 ―――ちなみにその後教室に戻るとまたあきらとともちゃんに問い詰められたので説明に中々手間取った。いったい俺と戸成の仲を何だと思ってるんだ、相棒、もしくは親友だってばよ。

 あとそんな騒ぎをしていたら竜宮さんにも話しかけられた。クラスどころか学年トップ、いや学校でみても指折りのの美人に急に話しかけられると心臓に悪いぜ。


「桃園君は、戸成君と親しい仲なのでしょうか?」


「んぁ?普通に仲の良い親友だよ」


 そういうと、そうですか、それは良かったと何故か安堵した様子で戻って行った。あれか、竜宮さん美人だし戸成が気になってるとかなのかな?

 あと仲の良い親友という言葉で戸成が親友という言葉に反応してすごい照れていた。戸成ってリアクションが可愛いところあるよねー。


「乙姫ちゃん、よくタローの事みてるよね」


 そんな俺達をみていたともちゃんが、ぽつりと言った。そういえば戸成も前にそんな事言ってたような気がするな。


「うん。ちょっと移動したときとかに目でタローを追ってるよね、割と最近からだと思うけど。タロー、竜宮さんに何をしたの?素直に吐きなよ」


 ジト目でみてくるあきら。アイエェェェ?!アキラナンデ?!

 なんもしてねーよ!!本当に身に覚えがないんだよ!!というも聞き入れられるはずもなく、あきらやともちゃんと何故か戸成にまで詰問されて昼休みが終わった。タローさんの扱い理不尽すぎじゃね??

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