第47話 幼馴染VS汚さななじみ
「な、何なのよ貴女……?」
「それはこっちの台詞!何よ、さっきから何事かと見てたけど、タローに逆セクハラして!」
「逆セクハラ?!」
ともちゃんが両手でビシッ!と綿貫を指さしながら言う。鼻毛で神拳なアフロさんが単行本1巻の表紙がそんな指さし方してたなと吹きそうになる。綿貫もともちゃんのリアクションについていけないでいるけどまぁそうね、逆セクハラだとは思うよ。
「幾らモテないからってタローにそんなことしちゃダメなんだから!」
「モテ…?!し、失礼なこと言わないでよ!!」
すげぇ、さっきまで泣きながら都合の良い事いってた筈の綿貫が後手に回ってる。ハハハ、ともちゃんの勢いに呑まれたら負けなんだよ。
何せ人の言う事全然聞かないからな!!!バケモンにはバカモンをぶつけんだよフゥーハハハ!!
「え?だってモテないからタローに逆セクハラしようとしてたんでしょ?私より胸小さいみたいだし」
「失礼な事言わないでよ!これでもBあるんだから!!」
「なんだ私と変わらないじゃん」
いきなり失礼なブローをぶっぱして綿貫を怒らせるともちゃん。強い。
あとさぁ、ともちゃん、YOUのバストはAだろA、俺知ってるんだぞ。AとBって大分違うぞ!それでもしれっと言い切っちゃうの強い。
しかしともちゃんの理不尽な自信に綿貫がすっかり呑まれている。この娘脱いだら大きいの?と困惑しているのがシュールすぎる。大丈夫です、小さいですよ。
「いきなり出てきて失礼なこと言ったり人の邪魔したりして、一体何のつもり?」
「だって幼馴染が非モテのへんたいふしんしゃさんに逆セクハラされてたら止めようって思うじゃん」
あまりにひどい誤解と言いよう。綿貫が顔真っ赤にして怒りを堪えているのを見て、ともちゃんが綿貫に特効ききすぎだろとじわってしまう。
ともちゃんは思い込みが激しいところがあるんだけど、さっきの姿をみられた誤解からか綿貫が非モテを拗らせた不審者みたいだと思われてる。けど今笑ったらいけないので必死に我慢するしかない、お腹痛くなってきた。
「だから逆セクハラじゃないって言ってるでしょ!私はこの男に襲われかけてたの!」
「嘘だッッ!!!自分で触らせようとしてたじゃん!それにタローはそんなことしないもん!」
綿貫の言葉を、大声で否定するともちゃん。その剣幕に綿貫が怯んでいる。カナカナカナカナカナ、ひぐらしの声が聞こえた気がする。夏がもう近いなぁ。
「タローと私はずっと一緒にいた幼馴染なんだから知ってるんだよ!タローはそんなことしないんだもん!!タローは悪い事しないもん!!」
そう言って顔を真っ赤にして怒るともちゃんに、綿貫は鼻白んだ後、悔しがるような、敗北感を受けているような、何とも言えない表情をしているのが見えた。
久しぶりに見たけど感情が激発してだよもん星人になるともちゃん。感情が溢れると、だよ!と、もん!を連呼するだよもん星人になるんだよもん。こうなると手ごわいぞ綿貫さんだよもん。
「へんたいふしんしゃさんにはそういう人はいないの?子供のころから一緒だったり、仲良い友達の事だったら、よく知っているから何かあっても信じられるでしょ?」
ヒューッ!!何も知らないともちゃんだからブッコめる容赦のない一撃。いいぞいけいけと思わず応援したくなる!もっとやれともちゃん。その言葉は綿貫に効く。
「うっさいわね……そんな事知らないわよ!」
苦虫をかみつぶしたような顔をする綿貫。ともちゃんは俺の中学の時も大多数の生徒が俺を疑い責める中でも俺を信じてくれた数少ない友人だからこそ、この言葉には重みがある。
そして、そんなともちゃんの言葉だからこそ綿貫を容赦なく抉るのだ。幼馴染を信じることなく手のひらを返して裏切った綿貫にとっては、ともちゃんが鏡に映った正反対の像のように見えることだろう。
「……それに幾らモテなくても、よく知りもしない異性に絡んだりしたらいけないんだから。顔は綺麗な方なんだからモテないからっていって諦めたら試合終了だよ?」
同情するような憐れむような表情で綿貫をみるともちゃん。もうやめて綿貫のライフは0よ!俺も笑いを我慢するのがツラくなってきた。
「はぁ?!誰が非モテよちんちくりん、別に私彼氏いるわ、―――あ」
そして綿貫も墓穴堀ってて草しか生えない。というか一周回って面白くなってきたなぁ!ともちゃん無双である。がんばえーともちゃーんがんばえー!
「え?彼氏いるのになんでタローに逆セクハラしてるの?なんで??なんで???」
心底不思議そうに首をかしげるともちゃん。
これは長年の付き合いだからわかるけど、マジで不思議に思ってるからこそのリアクション!!
なぜって?ともちゃんに人を煽るほどの高い知能と語彙は無いからだよ(キリッ)!!
……とはいえこの流れだと完全に馬鹿にしてるか煽りにしか見えないよなぁ。
綿貫を無自覚でコケにしまくっていくともちゃん強すぎる、意識せずマウンティングして滅多打ちしまくっていくスタイル。
「……くっ、ぐっ、うぐ、このガキャァッ……!!ま、また改めて話をしましょう桃園君!そこのちんちくりんも顔覚えたわよ!!」
そう言って踵を返して走り去っていく綿貫。ついに言い返すことができなくなったのかな?できることなら二度と話をしたくない所である。おとといきやがれですぅ〜。ともちゃん、WIN!!!
「タロー、大丈夫だった?あのへんたいふしんしゃさんに何かされなかった?」
「ブフォッ、へんたいwwwふしんしゃwwwさんwww」
心配そうにともちゃんが駆け寄ってきたけど、相変わらずの物言いに笑わないように我慢していた腹筋が崩壊して笑ってしまった。
「???あれぇ?」
爆笑している俺を不思議そうに。両手の人差し指を左右の側頭部に当てながら不思議そうに首をかしげるともちゃん。
「……あはははは、いや、さっきのはなんか……変な奴に絡まれてたんだ。でもともちゃんのおかげで助かったよ、ありがとう」
どう説明したものか悩んだけど一番しっくりくる言い方でそう伝えると、嬉しそうに笑っていた。
「そっかー、それならよかった!」
にこーっと満面の笑みを浮かべるともちゃん。ともちゃんはこういうところおおざっぱというかアホの子なので適当な説明でも何となく理解してくれるし助かる。
折角なので、とともちゃんにお礼を言いつつ、本屋に行くのを伝えるとともちゃんもついてきたので2人で本屋に行って本を買ってから並んで帰った。どうせ隣の家だし。
「やー、でも変な人だったねぇ。変な人に絡まれて困ったらきちんと言わなきゃだめだよ」
まさかともちゃんにそんな事を言われるようになるとはと苦笑してしまう。
「でもこうして一緒に帰るのって久しぶりだねー。学校の帰りに、タローが本屋に向かっているからおいかけてあげてって新聞部の子に言われて追いかけたけど、まさかこんな事になるなんて思わなかったよー」
ごく自然に合う歩調でのんびりと歩いて帰る際中、ぼんやりとともちゃんが呟いた。新聞部の女の子―――舞花ちゃんか!なんでこんなところにともちゃんがと思ったけどあの子何手先も読みすぎだよ……おかげで助かったけど。
「そうだなー、そういえばともちゃんが戸成と別れてからぶりかな?」
「うん。最近、タロー忙しそうだったし、声かけにくくて」
遠慮がちに言うともちゃんに再度苦笑してしまう。今日はともちゃんに調子を狂わされっぱなしの気がするし、まさかともちゃんに助けられることがあるとは……前もあったなぁ。
しかし戸成との恋の後のともちゃんは、相変わらずのやんちゃ娘なところもあるけれども、随分鳴りを潜めて大人しく、いや大人になった気がする。良い意味で人に気が配れるようになったんじゃないかな。
「なんだよ遠慮して。別に何かあったら気にせず言えばいいのに」
「うん……でも、私戸成君との事でタローにたくさん迷惑かけでしょ?だからこれ以上タローの邪魔しちゃいけないなって」
そういってしょんぼりとしているともちゃんに、ため息を零す。
「―――ハァッ?ウララララララララッ!プルヤッ!ヤハッ!」
「ふわあああああっ何なに?!」
わしわしわしわしと頭をガシガシ撫でるとともちゃんが驚いた様子で首を引っこめる。ははは、隙あり。
「別に気にすんなよそんな事、というか気にされる方が調子狂うって。いつも元気で猪突猛進がともちゃんのいいところだろ?ならともちゃんらしくいてくれよなぁ。
……大人になるってのと自分らしさを失くすってのはまた違うと思うんだよ」
そう言うと、ともちゃんは目を丸くして俺を見上げた後、俯き、そして笑った。それでいいんだよそれで。ともちゃんはキャッホウって元気で居ればいいと思うよ。また何か困っても友達として、幼馴染としてなら手助けするしさ。
「……ははっ。タローってやっぱりすごいね」
眩しいものを見るような瞳で見上げられてドキッとしたところで、ともちゃんの足が止まった。もう家まで帰ってきていた、あっという間だったな。
「タローはね、凄いんだよ。でも、近くにいるとわからなくて、一度手放しちゃったから、わかったんだよ」
「ともちゃんが賢そうなことを言うのよくわかりません」
解釈不一致のともちゃんに脳がバグってると、ともちゃんは上手く言葉にできないもどかしさにうーうーと唸っている。うーうー言うのを辞めなさいと(以下略)。
「えっと、うっと、だからね、タローは……かっこいいよ!」
それだけ言ってピューッと家に帰って行ってしまった。成程、わからん。
そういえばともちゃんにかっこいいって言われたのっていつ以来だろう?なんか最近はともちゃんも不思議なところあるけど女心はようわからん!などと思いながら家に帰るのであった。
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