第42話 生徒会へ行こう!


 あきらを女子バスケ部の部室に送ると、他に予定がなければ一緒に帰ろうと誘われたのでさっきの事もあるし一緒に帰る事にした。

 離れたところで暫く待って、制服に着替えたあきらが出てきたので2人で並んで帰り道を歩いていく。


「今日は本当にありがとう、タローがきてくれなかったらどうなってたか……」


「いやぁ、たまたま見かけたから邪魔したけど間に合ってよかったよ」


 ぶるるっ、と身震いするあきら。

 そうねぇ、古部都は顔はそんなに悪くんだろうけど態度が粗暴でイキってるもんね。女子からしたら怖く感じると思う。何をされるか読めないから怯えるのも無理ないと思う。

 話を聞いていくと、部活が終わってから片付け当番だったので片づけをして、皆から遅れて部室に移動していた所を、あの古部都に絡まれたとの事。

 べたべた触りながらにじり寄ってきたので逃げようとしたけれど逃げ切れずに追い詰められ、そこに俺が来たことを説明してくれた。

 うわぁ、話を聞けば本当に間一髪だったんだなぁと溜息が出る。古部都どうしようもねぇなぁ…。

 これちょっと明日の放課後は桜那先輩の所に行って今日の事踏まえて説明するか。

 そもそも古部都って戸成から寝取った汚さななじみと付き合ってるのに他にちょっかいかけてるのもようわからん。舞花ちゃんが言ってたことだけど確かに気になるなぁ。今日の事も含めてそこは舞花ちゃんに聞いてみる必要があるな、これ。


「またタローに助けられちゃったね」


 俺がそんな事を考えていると、ぼんやりと夕焼けの空を見上げながらあきらが呟いた。


「気にするなよ、友達だろ」


 ハッハッハ、と笑いかけるが、あきらの横顔にはいつもの元気がなかった。

 ……だから改めて、俺はあきらに伝える。


「それを言ったら俺の方こそ中学の時にあきらや皆に助けてもらったからさ。だから持ちつ持たれつお互い助け合ってるんだよ」


 そう、結局のところ俺が一番苦しかった時にいてくれたっていう事への感謝は、あきらにも、ともちゃんにも、その時からの友人達にはある。だからお互いに恋愛感情が無くても、そういった恩や情はあるのだ。

 一番苦しい時に傍にいてくれる人が本当の友達、というのは親父の弁だが俺はそれを金言だと思っている。あきらやともちゃん、はじめちゃん、因幡。あの時傍にいてくれた連中はなんだかんだで俺にとっては良き友人だ。

 ……丁度さっき古部都と遭遇したからというのもあるが、そうやって考えていくと戸成が一番苦しい時に離れた古部都や汚さななじみを思うと、俺は周りの人間に恵まれていたんだと思う。

 だから踏ん張れたし、こうしてよろず屋タロちゃん(仮)とかいいながらやってられるのは皆のおかげだ。だから困っているなら出来る限りの事で何度だって助けたいと思う。そのためならちょっとくらいは無茶しちゃうよ、てへっ☆


「なぁ。俺は落ち込んでしょんぼりしているあきらより、いつもの元気で明るいあきらの方が好きだぞ」


「す、すすすすす、すきっ?!」


 急にどもるあきら。どうしたんだろう。


「あぁ。なんだかんだであきらとは付き合いが長い友達だからさ、タローさんは、あきらにはいつも元気でいてほしいなと思う訳ですよ」


「……あ、あ、えっとそうだね、友達として、だよね」


 なんだかゴニョゴニョと言うあきら。うん?俺とあきらは友達だろ?え、もしかして友達ですらない扱いだった?そんな哀しい事いわないでくれよぉ……?

 けどそんな風にあれやこれやと昔話を挟みながら歩いていると、元気が出てきたのかあきらが笑うようになった。

 特に、中学の時にクラス男子が全員プール開きの日を一斉に勘違いしていてサッカーの授業のつもりで海パンもってきてなかった時の事で盛り上がった。

 クラスの陽キャ君達が短パンも海パンも似たようなもんだよな!!いけるいける!って言うのでそのままノリで全員短パンでプール泳いだら水を吸った短パンが予想以上に重かったり泳いでる最中に短パンが脱げてフルティンになってたりした時の話になったらあきらも声をあげて笑っていた。いやぁ、いやな事件だったね……男子の脱げた短パンがプカプカとプールを漂い知らず全裸になった男子が泳いでいる地獄絵図。

 あの時は俺も脱げたんだよなぁ……よいこの皆は真似しちゃだめだぞ。きちんとプールは海パンで泳ごうね!


「ふふっ。ありがとう、タロー。……またね」


 あきらを家の近くまで送った別れ際、俺に手を振りながらはにかんで笑うあきらの笑顔がなんだか寂しそうで、なぜか心に残った。



 次の日の昼、新聞部の倉庫で舞花ちゃんとヒメ先輩の3人で昼ご飯を食べていた。ヒメ先輩に来てもらったのは、サッカー部についてもヒメ先輩の意見が聞きたかったからである。ほら、ヒメ先輩顔が広いんで。


「サッカー部、ね。確かに素行の悪い連中が多いところだよ。ただ、サッカー部自体は強いし練習や部活は真面目にやってるから学校も強く出にくいってのはあるんじゃない?

最近は大人しくしていたようだけど、その話を聞く限りまた面倒なイキりをはじめたみたいね」


 友達がサッカー部に絡まれていた、というのをやんわりと伝えつつヒメ先輩にサッカー部について聞いてみると、やはり散々聞いたサッカー部の評判と同じようなリアクションが返ってきた。


「あそこは部活の成績を上げるためにサッカーが上手いってだけの生徒を強引に集めて強くなったからね。スポーツがしたいなら下ネタ大好きだけど賑やかなバスケ部とか、アニメとかゲームが大好きな奴が多いバレー部あたりにしときな」


 残念ながらタローさんはスポーツをする予定はないんです、折角教えてくれたのにごめんねヒメ先輩。あとバスケ部が下ネタ大好きなアホばっかりなのはよく知っております、ヒメ先輩を助けに行った時に戸成謹製片栗粉入り避妊具爆弾とかどうしようもねぇ一発芸の道具作ってる事とかからお察しって感じだからね、でもそういうネタが受け入れれる人なら多分すげー面白い集団なんだと思う。


 「―――で、その後どうなのよ」


 ヒメ先輩にしては聞きにくそうに、そっぽをむいてもじもじしながら聞いてくるが、何の事かはわからない。


「何がですか?」


「ほら、その。……桜那とはその後どうなったのよ」


 あぁ、桜那先輩と。そういえば顔見知りだっていってたもんね。後輩と顔見知りがチューしたら気になるのかな、やっぱり。ヒメ先輩も女子だからそういうのって気になるんだろうか。


「戸成経由で連絡先交換して、夕方とかにメッセージが来るのでやりとりしてますよ」


「へ、へぇ……?!メッセージやり取りしてるんだ??」


 なんかヒメ先輩キョドってる?珍しいなぁ。

ちなみにプライベートなものなのでヒメ先輩や舞花ちゃんにもどんなメッセージのやり取りをしているかは伏せているのだが、


『おはよう!今日は午後から雨がふるから折り畳み傘を忘れちゃだめだゾ♥(ˆ⌣ˆ)!』

『生徒会の仕事大変だょ~(><)、太郎たすけて~(;▽;)』

『今日は近所のねこちゃんが逃げずに撫でさせてくれたよー(≧ω≦)(≧ω≦)(≧ω≦)ノ』


 みたいな感じで顔文字とかデコがモリモリのメッセージが来る。

 リアルでのあの凛とした態度とのギャップに戸惑って今だに慣れないので恐る恐る返事をしているのはナイショ。


「わ、私もタローにメッセージとか送っちゃお、っ、かな~?」


 なんかヒメ先輩が斜め上をみながらそんな事を言ってる。プヒョー、ピーヒョロープヒューと口笛吹こうとして失敗してる。なんか今日のヒメ先輩は態度が面白いぞ、どうしたんだろ大丈夫かな?悩みがあるなら是非よろず屋タロちゃん(仮)にどうぞ。


「何か用事があるなら遠慮せずに送ってくださいよ」


「違う、そうじゃない」


 その言葉は舞花ちゃんからだった。半目で睨まれている……?!ナズェミテルンデス?!


「タロー君はこんな調子なので気にせずメッセージばんばん送っちゃっていいと思います。ね、タロー君?」


 にっこり笑顔だけど笑ってない気がする舞花ちゃん。ゴゴゴゴゴゴゴ……という擬音のスゴ味を感じるぜ…!


「え、は、はい。いつでもどうぞ?」


 そんな風に言うと、ヒメ先輩は少しだけ照れくさそうに


「…ん。気が向いたら送る」


 なんて言ってた。勿論ヒメ先輩からのメールなら俺もきちんと返事しますとも!

 昼の時間もまったりとすぎ、放課後を舞って生徒会室へ向かった。

 ここにくると蟹沢を連れ出した時の記憶が…。

 ネットミームでよく見る。窓辺でソファーに座りこちらをみるシャツ姿で目力の強い男性が微笑んでいる画像がフラッシュバックする。ビーストな先輩……その節は蟹沢を連れ出したり時間稼ぎで大変お世話になりました……うっ、頭が。


「ぬわああああん疲れたもおおおおん」


そんな桜那先輩の声が聞こえた。……桜那先輩だよなぁ、この声。

俺はそんな事を思いながらドアをノックした。


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