第40話 寝取り野郎の迷惑行為

「新聞部の倉庫ってここかな?お邪魔しまーす」


舞花ちゃんと2人で倉庫にいたら、珍しく男子の訪問者があった。その顔は知っている―――中学の時からの友人の一人だった。


「よう、タロー。久しぶり」


「おぉ、はじめちゃん。元気そうだな」


 倉庫を訪れたのはすらっとした長身の、短髪で爽やかな男子。俺にとっては旧友でもある住吉一(すみよしはじめ)、改めはじめちゃんである。

 中学の頃は一緒に遊んだりしていたのだが、高校に入学早々、彼女が犬の散歩をしていたところ犬が道路に飛び出しそれにひっぱられるように彼女も道路に倒れ込んだので、一緒にいたはじめちゃんは1人と1匹を庇ってトラックに撥ねられて病院送りになっていたのだ。下手したら入学早々ぼっちになるところだったがコミュ強なはじめちゃんで良かった(?)。

 はじめちゃんが病院送りになったのはともちゃんから恋愛相談を受ける前のことで、その時には中学から仲が良かった友達グループの1人の因幡から『皆ではじめちゃんのお見舞いに行こうずぇ』って話も出ていた。しかしはじめちゃん本人が固辞したので、たまにグループメッセージでのやり取りをするにとどめていて気にはしていたんだよねぇ。

 最近復学したって聞いていたけど元気そうで良かったよ。


「こんにちは、タロー君のお客さんですか?」


「おー、はじめましてかな?俺は住吉一、タローとは中学時代からの友達さ。つっても入学早々事故って学校に通いだしたのはつい最近なんだけどな」


 あっけらかんというがこいつトラックに撥ねられて生還してるからね。

 事情を加味されて、特例として入院中も課題やプリントをしていたり退院して学校に通えるようになってからも放課後に補習をしながら頑張ってるらしい。真面目な奴だし勉強面では大丈夫だろ。


「これは丁寧にどうもです。私は小天狗舞花です、宜しくお願いします」


「よろしくー。なんだこんな可愛い子と仲良くなってるなんて、犬井か猿渡とくっつくと思ってたんだけどタローも隅に置けねえなあ!それにお前、俺が入院してる間なんだかトラブル続きだったって聞いたぜ。力になれなくてすまなかった」


 俺にあった事を聞いているのか申し訳なさそうにいうはじめちゃんだが、重症だったのははじめちゃんの方なのでどうか俺の事は気に病まないでくれ。


「いいって。それよりはじめちゃんがトラックに撥ねられて、異世界転生せずに生還してくれただけで俺は十分だよ」


 俺のそんな言葉に、違いない、と呵々大笑するはじめちゃん。トラックに撥ねられると高確率で異世界転生になるもんね。


「しかし此処に来るって事はつもる話をしに来たってわけじゃないんだろう?何か俺に相談でもあるのか?」


 そう聞くと、少し言いにくそうにしながらも話し始めるはじめちゃん。

 

「あぁ。ちょっと色々と面倒な事になってるようで、俺だけじゃどうにもならないからタローに相談したいんだわ」


 中学時代に俺がハブられた時、はじめちゃんはともちゃんやあきらと一緒に俺を庇ってもらったうちの一人だ。その恩もある旧友なので、何か困っているなら力になりたいところ。


「サッカー部の連中が最近横暴になったり、イキってるんだよ。そういう話って聞いてるか?」


 サッカー部、と聞いて舞花ちゃんと顔を見合わせる。戸成の汚さななじみと元親友のダブルクズが所属している所だ。


「小辻(こづち)さん――あぁ、小天狗さんは知らないもんな、小辻さんってのは俺の彼女なんだけど、その子が最近サッカー部の一年に執拗に声をかけられていてさ。俺がいる時は追い払ったりしているんだけど四六時中一緒にいれるわけでもない。一度そいつにも正面からいったんだが、ヘラヘラしたりイキりちらしたりでまったく話が通じないんだ。こっちの言う事も聞き流したりですっげー態度が悪い奴でさ、注意しても逆に煽ってくるから対応に困ってなぁ。サッカー部の1年の古部都(こぶと)ってヤツなんだけど―――」


 古部都―――その名前に思わず眉を顰める。古部都凌兵(こぶとりょうへい)。戸成の因縁の相手である元親友で、汚さななじみを寝取った男。舞花ちゃんの調べてくれた情報で、中学時代に戸成に執拗な嫌がらせや悪評を広めていた事がわかっているクズ野郎である。


 「小辻(こづち)さんとは仲良くやってるみたいなんだな、よかったよ。んでその話、もう少し詳しく聞かせてくれないか?」


 はじめちゃんの彼女の小辻さんも俺にとっては中学時代の知己の子だ。穏やかで誰にでも優しい綺麗な子なんだよね。

 話を色々と聞くと、その小辻さんと同じクラスになった古部都が小辻さんに目をつけたらしく口説いたりちょっかいを出したりべたべたとスキンシップをしてくるらしい。

 学校の帰り道も古部都がついてきていることがあったらしく、近くのコンビニに逃げ込んではじめちゃんを呼んで送ってもらったそうだがはじめちゃんが現地に着いたときにはもう古部都の姿は無かったらしい。証拠も無く小辻さんの見間違いだ、と言われて追及も出来なかったとの事。

 そんな事ばかり続き小辻さんが困って古部都にちょっかいをやめるように言ったがも聞く耳を持たず、彼氏のはじめちゃんが古部都にハッキリといっても解決しなかったらしい。うーん、一応調べてみるけどはじめちゃんの言う事だし美人の小辻さんも絡んでるってなると今の説明の通りなんだろうなぁ。話聞いてるだけでも漂う古部都のクズ臭。


「聞く限り普通にムカつく話だけど、はじめちゃんがここにくるってことは学校に言っても駄目だったのか?」


「あぁ。うちのサッカー部は全国大会常連だからな、学校側もその程度の事は、で済まされてしまった。セクハラだって訴えても生徒同士のスキンシップってことでなぁなぁにされてしまった。一応教師もあまり酷かったら注意はするとかいってたけどあの様子の古部都にどこまで効果があるかわからん」


「そりゃイキリナンパ煽りする奴に教師が何か言っても通じないだろうなぁ」


 俺がそう言うと、はじめちゃんも項垂れている。


「そうだ、生徒会とかはどうなんだ?うちの生徒会は生徒自治会も兼ねてるだろ」


「いや……それなんだが今うちの生徒会は副会長1人だけしかいなかった。蟹沢会長が豚箱送りになってかは他の生徒会役員たちは生徒会役員を降りて逃げ出してたぞ。そのせいで人手が足りなさすぎると言われてなぁ。タローならこういうトラブル処理上手いからなんか解決できるんじゃないかって相談に来たんだ」


 うわー、うちの生徒会そんな状況になってるのかよ、酷いなぁ。桜那さんの人手が足りないって言ってたのが想像以上過ぎる。これは本当になんか生徒会手伝った方がいいな。

 一寸法師ならぬで藁にも縋りにきたはじめちゃんの頼みを断れるはずが無いのだ。

 その後、色々とはじめちゃんから話を聞きつつ、古部都の小辻さんへのつきまといや古部都についてはなんとかしてみると返事をした。


「そうだ、タローも何か困った事や俺の力が必要な事があったら言ってくれよな。俺の愛刀・藁鞘(わらさや)に断てぬものなし!ってな」


「ハハハ、そりゃ心強い。何かあったら頼らせてもらうわ」


 手を振り去っていくはじめちゃんを見送った後、舞花ちゃんと顔を見合わせた。


「一応裏取りはしますけど、多分今の話の通りになると思います。似たような話は調べた資料にも挙がってましたよね」


「だよねぇ。問題はこれを戸成に相談するかなんだよなぁ―――っていうか古部都って戸成の幼馴染を寝取って付き合ってるんじゃなかったのか?」


「はい、それは間違いありません。

 個人的には、可愛いと評判のサッカー部のマネージャー、戸成君の汚さななじみを寝取っているはずの古部都がなぜそんな事をしているかが気になります」


 うーん、普通にクズ女たらしだからとかじゃないの?……なんて思ったけど舞花ちゃんは何か気になるのか、色々と資料を読み直していた。こういう場合は俺が余計な事を横から言わない方がいいと思うので素直に見守るとする。

 ともあれ、この新しいクズ問題をどうするか考えなきゃなぁ。


「そうそう、住吉君はタロー君の中学時代のお友達でしたね。元気そうでよかったですね」


あ、やっぱり舞花ちゃんはじめちゃんの事しってたんだぁ。そうだよねぇ、中学時代の俺を知ってる雰囲気だったんだもんねぇ、本当何者なんだろうね、舞花ちゃん……。

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