第38話 ご注文はおれですか?
ジャンジャジャーン♪今明かされる衝撃の真実ゥ!カリスマ溢れるこの先輩は戸成のお姉さんだった!!いやマジかよ、え、えぇー……?!
「先輩、戸成のお姉さんだったんですか。そんな人が何で俺を?」
「お前の事は弟からよく聞いている。困った人間を助けているそうだな?
どんな男か検分しにきただけのつもりだったが……私も頼りにさせてもらおうと思ったのだよ」
ということは俺はこの人のお眼鏡にかなったという訳か、それはどうも?でも困っているから手を貸してほしいと言ってもらえたら普通に協力したんですけどネ。
「それならそうと普通に言ってもらえれば話は聞きますよ。ところでおろしてもらえませんか、恥ずかしいんで」
「フッ……随分と乙女なのだな」
お姫様抱っこした俺を見下ろしながら、微かにほほ笑む桜那先輩。
そういう所だけ見ると超美人のお姉さんって感じなんだけどなぁ。こうして間近で見ると顔立ちは姉弟だけあって似たところがあるモデルタイプの美人だが、弟の沖那が人懐っこくてうんこネタ大好きな頭小学生男児な高校生なのとは反対に、冷厳な大人、まるで女執政のようなオーラと強烈なカリスマを感じさせる正反対の姉弟だ。OL……いや、女社長って言われても違和感ない。
抱きかかえられていた身体がゆっくりとおろされ、足が地面に着く。ふぅ、助かった。
「蟹沢と弥平が起こした騒動で何人もの教師が学校を去り、加えて生徒会長も不在となった今この学校は人手が足りなくてな」
額に手を当てながら唸る桜那先輩。
「留学から戻ってみれば、学校組織がボロボロになっていて驚いたよ。先代会長の蟹沢も実務に関しては有能だったという事か」
それから学校の人材面での窮状を説明する桜那先輩。ちなみに桜那先輩は副会長をしているそうだ。
とはいえ留学中も実際の実務は蟹沢が一人でやりくりしていて問題は無かったそうで、性欲モンスターと思いきや実務能力は高かった蟹沢、校内の業務をきちんと取り纏めていたみたい。道を踏み外さなければエリート街道走ってたんじゃないかあの変態。
そこに加えて校長含めた学校の上層部が軒並み芋づる式にしょっぴかれて学校は色々なところで軋みが出ているらしい。
一応、後任の校長や臨時職員の先生が増えたりましたけれどそれでも状況の収拾にはまだ足りないようで。
確かに役職付きの教師が両手の本数位ドナドナされていったしそれは確かにそうもなるよねぇ……としか言えない。
聞けば桜那先輩は短期で海外留学していて、最近この学校に戻ってきたそうだが戻ってきたらごらんの有様だよ!!で驚いたらしい。そりゃ驚くよね!とはいえ放っておくわけにもいかないので会長代行として蟹沢がしていた学校内の業務を処理しはじめて、桜那先輩で問題なく生徒会業務は回せるものの圧倒的に足りない人手不足はいかんともしがたく、猫の手も借りたいと白羽の矢が立ったのが俺だった。
そう言われると現状の一旦は俺にもあるし、そういう事情があるなら人手不足が解消されるまで手伝うのは構わないのだけれども。
「でも俺、生徒のお悩み相談みたいなボランティア活動もしてるんでそれと並行でよければってなりますけど」
だがそんな俺の提案に対し、桜那先輩は納得しかねると言葉を返してくる。
「些事は捨て置け、お前はもっと大局の為に働ける男だ。
お前が生徒の細かな相談に乗って、いったいどれほどの生徒を救う事が出来る?細かな事にいちいち手を患させている場合ではない。出来る能力があるものはもっと多くの者のためになる事をするべきだ」
納得できるような、そうでもないような。ただ、俺なりの考えのご意見を出させてもらうぞ。タローさんはNO!と言っちゃうモンニ〜!
「そういう考えもあるかもしれません。けど、手が届くところにいて助けを求めてくる人を無視することは俺にはできません」
「何故だ?結果で言えば大勢のためになるのだぞ。それでよいではないか」
俺の言葉に怪訝そうな顔をする桜那先輩。この人トロッコ問題で迷わず大のために小を躊躇なく犠牲にしそう。
仕事も出来て強い人なのかもしれないけど、この人は強者の考えだけでどんどん進み過ぎる人なのかもしれない、と感じつつ俺の考えを伝えていく。
「たとえ些細な事だったとしても―――そういう助けを必要とする人の声を無視して跨いで進んでいって、そうして歩いていった先で後ろを振り返った時って、きっと取りこぼした人をみて後悔すると思うんですよ。俺はそういう後悔しないように最善をつくして生きたいです。
それにそんな風に進んでいったら、先輩の周りには人がいなくなってしまうんじゃないでしょうか。それは寂しい事ですよ」
「誰かの上に立つという事は孤独であるという事だろう」
何を今更、というように嘆息する桜那先輩。この人はそういう覚悟ができているのかもしれない。けど、そうさせたくない理由はシンプルなものなのだ。
「―――それでも、俺は親友のお姉さんにそんな想いをさせたくないです」
眼差しに不屈の思いを込めて先輩を真っすぐみつめながらそう言うと、桜那先輩は驚いたように目を見開き、それから、ふっ、と笑った。それは今までの態度とは異なり、優しい慈愛に満ちた笑み。
「フッ、はははは!親友の姉か、そうか―――そんな物言いをされたのは初めてだよ、桃園太郎」
そして俺の言葉が余程感に堪えなかったのだろうか、先ほどまでの覇気を感じさせる様子と違い声を上げて笑う桜那先輩。その声音は教室に入って来てからの厳しい雰囲気ではなく、年相応のものにみえたし、なにより優しさを感じるものだった。
あとは、笑ってると姉弟でなんだかそっくりだな、なんてぼんやりと感じる。
「し、しんゆう……親友……タローがおれのことしんゆうって…めっちゃ☆うれしー!!」
あと視界の隅で戸成が感激して泣いてる。チョロイン過ぎて心配になるわ!
「なるほど、そうか―――これは初めての感情だな」
笑いながら出た目尻の涙を拭いながら、心底おかしそうに言う桜那先輩。気づくとすぐ目の前に先輩の顔があった。
僅かに薔薇の香水のにおいがする。
「面白い子だ。お前のように強い子は嫌いではないよ」
そう言いながら俺の腰に桜那先輩の右手が回され身体を引き寄せられ、左手が俺の頬に添えられる。
「――――んっ?!」
瞳を閉じた先輩の顔が目の前にあり、お互いの鼻先からこぼれた息が顔をこそばゆい。
驚きわずかに開いた口の中に先輩の舌が入り込み、舌先が触れ合い、そして離れる。ほんの数秒の出来事だった。
――――ズキュゥゥゥン、という擬音が頭の中で思い浮かぶ。
「う「「ああああああああああああああああああっ?!」」」
「う」、は戸成の声、その後の「あああっ」は戸成、あきら、ともちゃんのハモりだった。
「これが恋か……成程、悪くない。私も年頃の娘だったのだな」
ぺろり、と自分の唇を舌で舐めながら、わずかに紅潮した顔で俺をみあげる桜那先輩。その仕草が酷く蠱惑的でドキドキしてしまう。
戸成、あきら、ともちゃん、その他クラスメートのどよめきの中で―――桃園太郎16歳、人生初めてのチューは、親友のお姉さんでした。
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