2章:君が征くは恩讐の彼方
第37話 冷厳美人な闖入者
舞花ちゃんの真の姿(?)を知って驚きはしたものの、その後も舞花ちゃんとは持ちつ持たれつ仲良く友達付き合いが続いている。
そんな調子で友人や先輩達と賑やかに過ごしつつ、たまに持ち込まれるお悩み相談やトラブルを舞花ちゃんや戸成や先輩達、たまにともちゃんに協力してもらって解決をしながらのんびりと学園生活を送る毎日を過ごしていた。勿論、戸成の汚さななじみ達についても目を光らせることも忘れない。
そして季節はもう夏が近くなっていた。
ある日の朝、登校して教室に入ると戸成がげんなりと……いや、ぐったりとした様子で机に突っ伏していた。戸成のそんな様子は珍しいなと思ったので声をかけると、顔を上げた戸成が疲れ切った表情の顔を俺に向けて挨拶をしてきたので声をかけた。
「どうした、朝から不景気な顔してるじゃないか」
「いやぁー、すげぇ大変な人が家に帰ってきてな」
そう言って力なく笑う戸成。大変な人??戸成がこんな反応するなんて今までなかったよなーと思ったが、そんな戸成の言葉の意味を俺はすぐに知る事になるのだった。
その日の放課後、荷物を鞄に纏めていると凛とした声が教室に響いた。
「邪魔をするぞ。桃園太郎はいるか?」
声の主を探しながら教室の入り口を見ると、ふんわりと髪をふくらませた黒髪ボブの美人がいた。リボンの色を見ると上級生だ。
「はい、桃園は俺ですが」
そう名乗ると、その先輩はローファーの踵が地面に当たるたびにカツカツと足音を立てながら教室に入ってきた。ローファーの踵が高くて歩調が強いからだろうか、まるでヒールのような音にも聞こえる。その所作は揺れるスカートまでの一挙一動に隙が無く、凛然としていた。
「そうか、お前が桃園太郎か。ほう……?」
威風と威圧を同時に感じさせる佇まい。切れ長の目だが済んだ瞳と、整った目鼻立ちが自然と目を引く“かっこいい”タイプの女の人だ。
ブレザーの制服を着崩すことなくぴっちり着こなしているのに、野暮ったさを感じさせないピシッとした姿は女帝とか女戦士とかそういう言葉が似合うと思う。
そんな美人が俺の目前に立ち、腕を組み、片眉をあげながら俺を見上げている。
値踏みでもされているのだろうか?俺よりも頭半分背が低いはずなのに、まるで見下ろされているような錯覚を覚える。
だが、上級生だからといってどこのだれかもわからない人に圧力をかけられたからといって気圧されるわけにはいかんぜよ!
「はい。俺に何か用でしょうか」
努めて普段通りに返事を返すと、その先輩は腕組みをしながら首を傾け、じっと俺の様子を見ている。
「この私を前に物怖じをしないのは褒めるべきだな。良い面構えだ」
「そうですか、それはどうも?それで先輩はどちら様でしょうか。」
突然褒められた事に対しては礼を返しつつ聞き返すが、次の瞬間には体が宙に浮いていた。
「―――それに度胸もいい。気に入ったぞ、桃園太郎」
足が地面から離れ身体が横を向いている、と思ったのは次の瞬間の事。俺はこの名前も知らない美人の先輩に―――所謂、お姫様抱っこをされていた。抱っこされるの逆じゃないですかねぇ!!?
「ちょ、何を言っているんですか?!っていうか離してもらえませんか??!」
「それはできない相談だな。お前はこのまま連れていく。何分人手も足りないのでな」
それが決定事項だといわんばかりの有無を言わせない態度。じょ、女傑ぅ……!
身動ぎをしようとするが、ガッチリと掴まれて身体を固定されていて動けない。俺よりも小柄なはずなのにこの先輩なんかすごい、強い、あとプレッシャーを凄く感じる。
「「…ああーっ!!」」
あきらと、遅れてともちゃんの声がした。かろうじて動く首で2人の方を向くと、同じように俺とこの謎の先輩を指さして声を上げていた。
「騒がしいな。教室で大声をあげるものではないぞ?」
じろり、と冷徹に、そして見るものを委縮させる強い意志を持った眼差しがあきらとともちゃんを射すくめる。
「な、ななな、なんでタローをお姫様抱っこしてるんですか!あの、先輩、あなたは誰なんですか!」
指をぷるぷる震えさせながら言っているあきら。その両足が僅かに震えているのは、先輩のプレッシャーに負けないように勇気を奮い立たせているだろうか。
「すいません、先輩?この姿勢は恥ずかしいのでおろしてもらえませんかね」
努めて丁寧に言うが無視された、ぴえん。何で俺は見知らぬ先輩にお姫様だっこでホールドされてるんだろう……。
「そ、そうです!タローを離してください!はやく!うー!うー!」
ともちゃんはあきらよりもわかりやすくガクガクと漫画みたいに足を震わせつつも、両掌を先輩に向けて怪獣のように構えつつ先輩を威嚇している。
「給食の匂いも抜け切れていないような小娘が、この私に手間を取らせるな」
静かな物言いだが、先輩の発する圧力に、あきらもともちゃんも身を竦ませる。完全に2人が怯えてしまっているので、何とか自力でこの先輩の拘束から脱出しなくてはと身体を動かそうとするが足をじたばたさせることしかできない。まるで万力で固定されてるみたいだ。
「急に下級生の教室に入ってきて理由も言わずに連れていくなんて横暴ですよ、タローも困ってるじゃないですか。まずはタローをおろしてください!」
あきらがそれでもなお懸命に謎の美人上級生に食い下がってくれる。ありがとうあきら……!
「横暴?こうして優しくエスコートしているではないか。それに、連れて行く理由と言ったがこの学校の現状の一旦は桃園太郎にもある。であれば責任を取って働いてもらうのは当然の事ではないか?」
んん?学校の現状、というのはどういう事だろうか。俺に責任があるというのは……蟹沢と弥平絡みかな?そうなってくると話は聞かないといけないような気もするがどうしたものかなぁ、等と思案していたところで、
「何言ってるかワケワカンナイヨー。ミン○ーモモみたいな髪形して!魔法のプリンセスですかぁ?いっそ髪をピンクにそめてきたらいいんじゃないですかぁ?」
―――ともちゃんがなんとか先輩に対抗しようとしたのかドヤ顔で強がりながら叫ぶ。メスガキかな?
こらっ、ともちゃん、相手がだれであれ人の容姿にあれこれいうものじゃありません!俺のために食い下がってくれるのは助かるけどもうちょっと考えようね。あとでお説教だよ。………しかしミンキー○モかぁ……言われるとこの先輩の髪形もそんな風にも見えてくるなぁ……いけないいけない。
「貴様……私の髪形が日曜夕方に放映している国民的アニメの主役だとでもいうつもりか……よくも言った。―――こんな所で朽ち果てる、己の身を呪うがいい!」
あ、先輩怒った。ブワッと怒気が膨らむのを感じる。髪形を馬鹿にされてキレる人だった。なんでや魔法のプリンセスやろ魚介類系ネーミングの家族関係ないやん、とおもわずツッコミたくなるのを我慢する。
「ぴょえええええええええっ」
しかし先輩の逆鱗に触れたのを自覚して、ともちゃんがあきらの背に隠れてブルブル震えている。心が折れるのがはやい!勝てる見込みもないのにクソザコメスガキムーブはやめろっていってるでしょ!盾にされたあきらもどうしたものかおろおろしているし、周囲のクラスメートもハラハラドキドキしながら固唾を見守っている。
誰か、誰かこの場をなんとかできる奴はいないのか?!助けてぇええええええええええええええええええええ!!!
―――なんて思ってるとハンカチで手を吹きながら戸成が教室に入ってくるのが見えた。
「今日も元気だ~うんこもりもり~♪ぶりぶり~♪」
さすが相棒、以心伝心いいタイミングだナイスナイス!そういえば教室にいなかったけどその謎の歌からすると放課後のうんこをしてきたのかな?毎日快便そうでなによりだ。
でもお前そのキラッキラの顔でうんことかもりもりとかぶりぶりって言うの本当にアレだからやめようね、あまりに残念すぎるからさぁ!
とりあえずちょっと手を貸してほしいなと戸成に目で訴えるが、俺の視線に気づいた戸成はそれから視線を上にあげて俺を抱っこしてる先輩を見て驚いた。
「な、なんでここにいるんだよ……桜那(おうな)姉さん!」
ファーッ?!?!
姉さん?今姉さんっていったよなぁ?えー?!このおっかない美人、戸成のお姉さんなのぉ?!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます