第35話 もう一度君とシェイクハンド
というわけで衝撃の正体を明らかにした舞花ちゃんだったが、実際俺に害は無いし本人がそうしたいというのなら俺としては特に止める理由もないなと、受け止めることにする。もうそれしか俺に出来ることなくないっすか?やだぁー。
強いて言うなら助けてもらってばかりだと心苦しいので俺も舞花ちゃんにお礼させてもらいたいところだよねーなんて思いつつ。
舞花ちゃんについては悪い子じゃないのは充分わかったし、あとは折り合いをつけていけばいいんじゃないだろうか、と。
「驚かないんですね、タロー君。もっと驚かれるかなって思ってたんですけど」
「いやぁ、驚いてるよ?俺も舞花ちゃんの感情になんて反応すればいいのかちょっと困るところはあるけど、それでも沢山助けてもらって感謝してるんだ。それに舞花ちゃんが悪い子じゃないのも、とんでもないトラブルを起こすような子じゃないのも知ってるし。それぐらいの友情は感じてるよ」
「図太いというか肝が据わっているというかなんというか、やっぱりすごいですねタロー君」
「ははは、何であれ舞花ちゃんみたいに可愛い子に慕われるのは男名利に尽きるんじゃないかな」
「むう、それは殺し文句ですよタロー君」
じーっとみられる。うっ。そのぐるぐる渦巻く瞳の視線は心臓に悪いぜ。
「…それはさておき、タロー君のお望みの品はこれですね」
そういって舞花ちゃんからファイルを渡される。そこには舞花ちゃんが調べてきた、戸成の幼馴染と元親友の情報がまとめられていた。
確かにこの学校の生徒らしい。ふーん、サッカー部のエースとそのマネージャーで恋人同士、ねぇ。
「でもこいつら何でわざわざ沖…戸成と一緒のこの学校に来たんだろうな」
「それは予測がつくのですが、今年うちが定員割れしてたからかと」
あー、なるほどそういう。
このあたりだとうちの学校が一番規模が大きく、かつ高い内申点を要求される。しかし2番手、3番手の学校ともそんなに内申点で大きな差は無いので学力的には頑張れば埋めれる、位の差なのである。
「この2人は3番手の学校を志望していたようですが、今年はうちが定員割れして3番手の学校が定員オーバーする計算でしたから、この2人は背伸びしてうちにきたのではないでしょうか。定員オーバー受験するより定員割れしてる所に入った方がスムーズですからね」
話を聞く限り俺もそうだと思う。戸成も頑張って勉強してここに来たといっていたし、半不登校みたいなことをいっていたからこの2人もここを戸成が志望したと思ってなかったんじゃなかろうか。
試験で遭遇せずに入学後に鉢合わせしたらどうにもならないもんなぁ……。
どこが定員割れするとか定員オーバーするとか変わるけど、今年は珍しくうちが定員割れしてたからなぁ。
去年、おととしとうちの高校はかなりの定員オーバーしてたからそこを回避して2番手、3番手に流れた生徒が多かったのは容易に予想できるし。
「―――はい。私も戸成君とこの2人がこの学校で遭遇したのは不幸な遭遇だったのではないかと考えています」
俺の心中の考えを読んだのか、俺と同じ見解を言う舞花ちゃん。
「この2人を知る同級生やクラスメートにも色々と話を聞いてました。結構悪質ないじめ……といってすまされるのか、随分と酷い事をしていたみたいですね」
舞花ちゃんがまとめてくれたファイルの情報を見ると顔を顰めたくなる内容が描かれていた。戸成もよくこんなことされて今の人格保ってたな、とため息が出る。
「今のところこの2人も戸成君にたいしてはちょっかいを出してはないようですね。変に手を出して自分たちの足元をすくわれるのを警戒しているのか、何か意図があるのか……一定の距離を保っているようですが―――」
何かきっかけがあれば爆発しかねない爆弾がある、という事か。
戸成がこの2人に対してどうしたいかってのもあるし、こっちから何か手を出して藪蛇するのも避けたいし、戸成の意志を聞いて尊重しつつ、何かがあったときのために警戒はしておくかなぁ。戸成は俺が守護(まも)らねばならぬ。
という訳でどうやら俺が平穏静かな学園生活を送れるのはもう少し先になりそうだ。
「しかしすごいよね舞花ちゃん、いつもながら短時間でこんなに詳しく調べるなんて」
「そこはほら、私、美少女なので!見た目を可愛くしてると話を聞いたりするのに便利なんですよ。まぁ私タロー君以外の男子に興味無いですけど」
うわ嘘つくときにする瞬きをしてない……純度100%の本気で言ってるよ舞花ちゃん、ヒエーッ。確かに舞花ちゃん見た目は可愛いからね、しかし本当、俺のどこがいいんだろうな……。
「でも安心してください、私はタロー君“が”幸せでいることが目的なので、タロー君の隣にいるのが私でなくてもいいんです。猿渡さんや、アオ先輩や、ヒメ先輩や、犬井さん。なんだったら戸成君でも」
そこに戸成いれるのぉ舞花ちゃん?!あとその女の子達の大半が俺に興味ないような気がするけどなぁ。
「大丈夫です。私がきっとタロー君をハッピーエンドに導いて見せますとも!!」
「ハッピーエンド、ねぇ。俺は別に今でも毎日結構楽しいよ?」
「それじゃあタロー君のその毎日が続くように鋭意努力しますね!」
そう言って笑う舞花ちゃんだったが、……えい、と軽くデコピンをしてやる。
「あいたっ?!なにするんですか全然痛くないですけどDVですか?!いいですよもっとしますか?どうぞ!」
「どうぞじゃないでしょ、もう!―――あー、まぁそのなんだ。俺は舞花ちゃんの事も友達って思ってるからさ。だから俺の事だけじゃなく舞花ちゃん自身のことも大事にしてほしいと思うわけですよ」
俺の言葉に、きょとんとしながら首をかしげて頭上にクエスチョンマークを浮かべている舞花ちゃん。その仕草だけでそこらへんの男子は恋に落ちそうだなぁ、と思ってしまう。
「俺に構う……のがしたいならそれは止めないけどさ。俺は舞花ちゃんにも毎日楽しく過ごしてほしいんだ。勿論そのために何か俺にしてほしい事があればなんだってするし」
「ん?今なんでもするって」
瞬間的に猛禽類のように目を輝かせた舞花ちゃんにビクッとしたので即座に訂正する。
「ごめんそれはことばのあやだけどでも一応そういうつもりではいるので!」
そう言って手を差し出す。
「何度も助けてくれてありがとう。あと、困ったら俺を頼ってほしい。今後とも宜しく!」
刺し伸ばされた俺の手を見て、ふふふ、と口元に手を当てて屈託なく笑う舞花ちゃん。
「はい、わかりました。では不束者ですがよろしくお願いします」
そう言ってシェイクハンドシェイクハンドで握手をかわす。んんん、それ何か違わないかい舞花ちゃん?でも舞花ちゃんも嬉しそうに、楽しそうにしてるからまぁいっか。
「ごめんください。新聞部の倉庫ってここであっていますか?」
舞花ちゃんとシェイクハンドしていたら見知らぬ女生徒が訪ねてきた。同級生かな?
「はい、そうです」
訪問してきた生徒が不思議そうに俺と舞花ちゃんを視ていたのでシェイクハンドを放し、その女の子に向き直る。
「あの、ここに来れば困りごとを解決してくれるって聞いてきたんですけど……」
少し困った様子でしりすぼみになりながら言う女の子。本当に何か困っているように見える。
あー、うん、そうね。舞花ちゃんが言ってたのってこういう事ね、なるほど、なるほど。
舞花ちゃんと顔を見合わせた後で小さく頷き合う。
「特にそうやってうたってるわけではないけどね。でも何か相談事があるなら聞くよ」
「あ、椅子を出してきますね」
バタバタとパイプ椅子を出してくる舞花ちゃん。パイプ椅子に腰かけた女の子が、とつとつと悩み事を語り始めたので静かに傾聴する。
……幼馴染も、昔なじみのお姉さんも、女友達も、皆俺じゃない誰かに恋をして、そこからはじまった高校生活はどったんばったん大騒ぎで、まだまだこれからもそんな日々が続きそうだけど―――こういう賑やかなのも悪くないかな、なんて言えるぐらいには、今の学園生活も面白いと思うのであった、まる。
一章完
二章に続く
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