第34話 マスゴミヒロインの正体

「舞花ちゃん。君は一体何者なんだ?―――初めて会ったときのあの出会いは偶然じゃないんだろう?」


 俺の言葉に、少し驚いたような表情をしながら、くすりと笑う舞花ちゃん。


「えっと、ごめんなさい。言ってることがわからないです……」


「言葉を変えようか。君はなぜ俺を助ける?そして何をどこまで知っている?―――初めて会った時、いや、ともちゃんとの事を写真に撮られたときから君は俺を尾けていたんじゃないか?その真意が知りたい」


「確信があるような口ぶりですね、タロー君。何かそう思い至る理由でもあるんですか?」


「半分は違和感。段取り、手際の良さ、用意周到さ。それだけ出来る子が偶然俺と鉢合わせる事や、俺に気づかれるなんてミスをするとは思えない。後の半分は俺の勘だよ」


「わぁ、随分と非科学的な理由ですね……。でも……タロー君ともたくさん関わりましたし、ここで誤魔化す意味もないですね。

 正直に言いますと、その通りです。私はタロー君を尾けていました」


 そんな事を言いながらも苦笑し、優しく拍手をする舞花ちゃん。


「大丈夫です、私、タロー君の敵じゃありませんよ。むしろ、タロー君を応援してるんです」

 

 ぱち、ぱちと和らかな拍手の音が倉庫に響く。


「……応援?」


「はい。だってタロー君は、困ってる人を見るとなんだかんだで手を差し伸べてしまう人だから。タロー君は私の“最推し”なんです」


 最推し?なんだそれ。静かになった倉庫で舞花ちゃんと見つめ合う。


「私、タロー君のこと知ってました。

 ずっと前から、知っていました。

 中学の時もそうでしたよね。人を助けて自分が傷ついて、あげく助けた人にまで傷つけられて。

 そんな事があっても尚、人を助ける事ができるタロー君は、私の憧れ……尊い……そう、この気持ちまさしく“推し”なんですよ!!!!」


 うわぁーお、何言ってるのか理解できねぇ……。ぐわっとにじり寄ってくるけど阿修羅すら凌駕しそうな勢いだなぁ。しかしこの話ぶりだと俺の中学時代を知っている?小天狗、なんて子聞いたこと無いよなぁ。


「中学の時もそれで大変な思いをしたはずなのに、高校になってもまたタロー君は人を助けようとしてましたよね?私観てました。ごめんなさい、そうです私は最初からタロー君を観ていました」


 ん?じゃあ舞花ちゃんは俺とともちゃんや雉尾さんやあきらとの関係も知っていてあの態度取ってたのか?演技派すげぇなぁ。あー、でも確かに時々、俺の事を知ってそうな口ぶりを零してたような気もする。そう考えると結構ボロ出してたな。


「警戒しないでください。重ねて言いますが私はタロー君の敵ではありません。

 タロー君は放っておくと一人で無茶をしますから、ただ見ているよりもタロー君に接触して手助けした方がタロー君のためになると思ったからです。

 本来であれば推しに関わるなんて畏れ多い事をせず遠くから見守るべきだったんですけど、犬井さんが動き始めてから何か歯車がずれたような、このまま放っておいたらとりかえしがつかなくなるような気がしたので。

 私、ハッピーエンド厨なんですよ。バッドエンドになるくらいなら物語に介入してでもハッピーエンドにしたい派なんです、私。ハッピーエンドの話をしよう、なんですよ。」


 この子こんなに喋る子だったかぁ?すっごい早口で矢継ぎ早にまくしたてる……あ、蟹沢を問い詰めてた時もこんな喋りしてたな。こういう面は元々あって出してこなかったのか。

 俺が何かをしている時とかには必要以上に自己主張しなかったり、それでいて的確に助けてくれるのは俺の意志を尊重してくれていた、それと一歩引いて観ていたからなのかな。

 そう言われるとまぁ確かに、今までの色々なことが理解できるし、舞花ちゃんに高校になってからの騒ぎで何度も助けられてる事への納得もある。


「これからタロー君はもっともっといろいろな人に頼りにされます。きっと、多分、必ず。

 だって蟹沢という女の敵を淘汰し、弥平という高校生の手に余るような犯罪者を学校から排除して。

 良い噂も悪い噂も流れていますが、タロー君がトラブルを解決した、っていうのは皆に認識されてるんですよ。

 だからこれからタロー君を頼りにする人が現れてきます。

 それに戸成君を裏切った幼馴染や元親友の人達もこの学校にいますし気になってますよね?大丈夫です調べておきました、きっとタロー君なら私に聞きに来ると思っていたので。それは後でお見せしますね。

 それに、ヒメ先輩もタロー君の事を気にしてます。逆玉ですか?タロー君もすみにおけませんね。

 アオ先輩がなんでタロー君をあんなに溺愛してるか知りたくありませんか?

 アカ先輩が一人ぼっちになった経緯を知ったらきっとタロー君は動くと思いますよ?

 この間タロー君、男の子をいじめから助け出しましたよね?あの男の子がその後どうなったか気になりませんか?

 それにタロー君を狙ってる女の子もいます。気づいてませんか?

 みんな、みんなどう動いてくるでしょうか、これから一体どうなるんでしょうか。

 ―――タロー君の高校生活って、相当賑やかでトラブルありなものになると思いますよ。素敵ですね、さすがタロー君です!」


 そう言って滝が流れ落ちるがごとく間断なくしゃべりながら両頬に手を当てて身体でしなを作る舞花ちゃん。あ、これ知ってる。


 ―――伝説の、恍惚のヤンデレポーズ!!!!


 わぁい、とんでもない藪蛇だったかなぁ。そっとしておいて知らない方が良かったんじゃねーのこれ。そんな気すらする。


「……改めて聞くけどは君は一体何なんだ?何をどこまで知ってるんだ?」


「小天狗舞花―――探偵さ」


「眼鏡と蝶ネクタイが足りなくない?」


「……コホン、これはチャーミングな舞花ちゃんジョークです。

 それはさておき、タロー君のことは色々知ってます。ファンですよファン。

 タロー君は貴方が望むにかかわらず、トラブルを解決しましたからね。そもそも学校にはびこっていた犯罪者2人を成敗したんですよ。

 適当に言ってたかもしれませんけどよろず屋タロちゃんなんていってたら有名にもなります。犬井さんも普通によろず屋タロちゃんとか言ってるようですし、存在しなかったはずのなんちゃってよろず屋タロちゃんを頼りにここを訪れる人も出てくるでしょう。弥平先生の噂の影響でタロー君がここで活動してるってのも知られてますからね。

 勿論、今タロー君の周りにいる人もなにかあったらタロー君に相談を持ち掛けてくると思います。

 私はそんなタロー君を応援して、手助けしたい―――重ねて言いますが私、タロー君のファンなんですよ。推し活、です!!」


 えー……ちょっと圧が凄い、見た目は美少女のはずなのになんか目がぐるぐる渦巻きになってる気がするわ。


 ――――重い!!愛が、想いが、感情が重い……!


 俺この子にこんな激重感情向けられるようなことしたのか?全然記憶にないし人違いじゃないのか?


「いや、俺は舞花ちゃんにそんな風に推される理由がないと思うけど人違いじゃない?誰かと間違えてない?」


「いいえ、タロー君ですよ。思い出せなくても私は覚えているから大丈夫です」


 そういって虚空をみつめながら記憶に思いを馳せている舞花ちゃん。


 「中学の時に、タロー君が誰もいなくなった校庭で延々と高跳びしてるのだって見てましたから。

 それ以外の事もずっと観てました。

 ずっとずっとずっとずっと観てました。

 ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと。

 でも、校庭で高跳びはやめた方がいいですよそういうのって色々な女の子にフラグ乱立しますから。

 あ、もしかして夜の土蔵に籠ってたら金髪美少女騎士王が召喚されるとか思ってませんか?そんなのあるわけないじゃないですかでも私がいますよ」


 うーむ、こんな綺麗な子と知り合っていたら忘れなさそうなものなんだけどなぁ。だめだ、わからん。

 高跳びは……そういえば中学の時にそんな事をした事があった気もするけど、君は一体いつから俺を視ていたんだ?!

 あと爺さんの家の土蔵に籠ってたことは観られてない……よなぁ?!え、恥ずかしい。だめだ、マシンガンのように饒舌に語り始めた舞花ちゃんに俺の思考が追いつかない。


「ま、それはおいておくとして。情けは人の為ならず、というやつです。今までタロー君がした良い事は巡り巡ってるんですよ」


 なるほどー?俺はどこかで舞花ちゃんとあった事があるのか?何か舞花ちゃんを助けるような事をしたか?記憶にないぞ


「―――本人にとっては覚えてないような些細な事でも、思いがけず言った言葉でも、それが誰かにとって救いになる事ってあるんですよ。雉尾さんの時のように言葉が人を傷つけることもあれば、反対に言葉で人を救うことだってできるんです」


 そう言って、かすかに微笑む舞花ちゃん。ゆっくりと慈しむようにカメラを撫でている。相当に年季が入っていて、そういえば蟹沢と遭遇したときもすぐ調子悪くなってたよな。……うん?カメラ、カメラ……何かあったようなそうでもないような、思い出せない。


「でも、私の言葉を信じてくれるんですね、タロー君」


「だって舞花ちゃん嘘つくときパチパチパチッて瞬き三回するでしょ、はじめの頃はよくわからなかったけど」


 そんな俺の言葉に驚いたように目を見開く舞花ちゃん。

 少しだけ俯いてから、顔をあげる。まつ毛長いな、やっぱり美人だななんてぼんやり見惚れてしまう位には、舞花ちゃんは可愛い女の子だと思う。


 ……それは驚きか、恥ずかしさか、それとも自分の癖を知られていた感激なのか、顔を真っ赤にしながら左手の人差し指を一本たてる。

 ふ、ふふ、と笑っている。喜んでいるような、恥ずかしがるようななんともいえない笑み。


「以前、そういうタロー君だから好きになってくれる人が地球上に1人くらいはいますよって言いましたよね。それが私です。残念でしたね!」


「わぁいどっかの次女かな?」


 ははは、と力なく笑う。笑うしかない。

 何でもできて頼りになる万能ブン屋美少女は、――――激重感情の美少女ストーカーさんでした!!!!!

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