第33話 幼馴染の恋の終わり

 帰宅してからともちゃんを外に呼び出して、簡単なあらまし……NTR脳破壊フルコンボだドン!はセンシティブな相談なので伏せつつ、戸成も過去に色々としんどい思いをしてたんだ、というのをかいつまんで説明した。

 あとは平手打ちしたことを謝りつつ2人でゆっくり話をしてきなさい、と。

 ともちゃんは俺のそんな言葉を聞き、じっと俺の顔を見ていたが、静かに頷いた。んん?俺の顔なんかついてる?


「色々ごめんね。……ありがとう、タロー」


 今日のともちゃんは珍しく殊勝で大人しい。明日は空から槍でも振るかなアッハッハなんて思いながら帰って鏡を見たら額の右が切れたり鼻血がでた跡があった。帰り道に出たのかな?まぁ戸成とぶつかったんだから鼻血も出るよな、しゃーないしゃーない。


 次の日の放課後、ともちゃんは戸成と色々と話し合ったようだった。

結局2人は別れることにしたもののギスギスしたとか喧嘩別れではなく、お互いもっと大人にならないといけないね、という事でクラスメイトとして、友達として、これからも仲良くしていこうという円満な別れ方みたいだ。


 ともちゃん自身も自分の行動を省みて色々と思う所があったようで、誰かと恋愛をするよりもまずはしっかりした子になりたいという思いを戸成に語り、戸成もそれを応援する形での着地になったようだ。

 俺としては残念なような気もするが、本人たちがそれで納得しているなら俺が口をはさむことではない。


 マイナスではなくプラスで関係が変わったのなら2人にとっても良い経験になりこれからに活かされていくと思う。そしてそういう風に別れることが出来たのは多少なりともともちゃん自身が成長したからだと思うし、戸成を選んだともちゃんの人を見る目は確かだった、ってことでもあると思う。

 そしてなぜ俺がこんな事を知っているかというと―――


「―――ねぇ、聞いてるの、タロー」


「ん?あぁ、聞いてるよ」


 今まさに、そんな話をともちゃんに聞かされながら、久しぶりにともちゃんと2人で帰り道を歩いているからだ。

 俺としては戸成の方も心配ではあったが、まぁあいつならなんだかんだで大丈夫だろうという信頼もあった。なので今日は大人しくともちゃんに付き合っている。


「タローには色々と迷惑かけちゃった、ごめんね」


 ともちゃんも流石にしょんぼりしているが、今までのような子供っぽさや騒がしさの抜けた態度におや?と思いつつも返事を返す。


「いいさ。人間色々経験して大人になってくもんだからね」


「いやタロー同じ歳じゃん」


「そうだな、あっはっは。ま、でも人間失敗することもあるけどそこから学んで成長していけばいいんじゃないかと、タローさんは思うわけですよ。俺だって中学の頃のあれやこれやそれやどれやで失敗したりしたしなぁ」

 

 そんな俺の言葉に力なく笑うともちゃん。


「でも私、タローの事考えずにわがまま言ったり、勝手な事ばっかり言ってたでしょ。お弁当の事とか、タローが怪我したときの事とか。遊園地もそう。自分勝手な事ばっかりいってたから……タローは私のためにいろいろしてくれたのに……」


 そう言ってぼんやりと夕暮れの空を見上げながら自分の言動を振り返っているようなともちゃん。

 確かに高校になってからのともちゃんの言動は色々と酷いところもあったと思うけれど、反省して成長できるならそれはそれでいいのではないかとも思う。何でもかんでも最初から完璧にできるほど俺たちは器用に産まれてきてはいないのだ。それはもちろん俺もそうだし、そもそも俺たちはまだまだ高校一年生、今この時にたくさん失敗して、恥をかいて、後悔して、それで大人になっていけばいいのだ。


「なぁ、ともちゃん。初恋ってそういうもんなんじゃないかなぁ?自分の気持ちにいっぱいで他の事が目に入らなくなってさ。

 でもそれを反省したり糧にして大人ってやつになってくんじゃない?

 それに俺が中学の頃に盛大にハブられた時はともちゃんはあきらたちと一緒に俺を信じてくれただろ?

 俺を嵌めた“女狐”相手にクラスの衆人環視の中でビンタ合戦してくれた時の威勢はどこ行ったんだよ。もっとこう、バーッと明るくアホ…じゃなかった元気なのがともちゃんの良いところっしょ?」


 確かにともちゃんが自戒しているように、我儘放題ではあったが雉尾さんとの一件では俺を信じてくれていたし、ともちゃんにもともちゃんでよいところはあると思う。

 戸成が語った汚さななじみ達の事を考えると、俺がハブられた時もともちゃんやあきら達が傍にいてくれたのってすごく恵まれていたと思うし、何かが違えば戸成と俺は逆だったかもしれねぇ……ってなってたかもしれないし。


「タロー……ところで今私の事アホって言おうとした?むしろ言ったよね?」


 おっといけねえ口が滑っちまったぜフゥーハハハ!しれっとこのままシラきって押し切るぜ!


「ま、幼馴染だしこれぐらいの骨折りなら問題ないって。よろず屋タロちゃんも幼馴染特別料金で依頼料無料にしといてやらぁ」


 そんな俺の言葉に、なぜか――――どこか儚く笑うともちゃん。それはいつもの子供っぽさや我儘放題な様子とは打って変わって、年相応の、もしくは大人びてみえた。


「そう、だよね。私たち、幼馴染だもんね……。あーあ、私……バカだったなぁー。当たり前にある事って、中々気づけないものなんだなぁって」


 うん?どういう意味だろう。ともちゃんがインテリジェンス高そうな発言するとこっちの脳がバグるぞ。きゃっほういドゥルンドゥルン!みたいな感じでわんぱく大暴走してるイメージが染みついてるからなぁ。


「あのね、タロー。タローと戸成君ってそっくりだと思うよ。……これが、もう遅い、って事なんだろうけど、ね」


 去り際にそう呟くともちゃんと家の前で別れて、自分の部屋に戻り、腰かけた。俺戸成みたいなイケメンじゃなくね?ともちゃんの言葉よくわからないなぁ。

 年頃のおなごはよくわからんでごわあた!

 兎も角、これで入学早々から続いた一連の騒動や相談も一息つけたと思う。

俺にはまだ、戸成を裏切った連中の事含めて確認しなければいけない事があるし―――お礼と同時に色々と話を聞かなければいけない子がいる。


 「舞花ちゃん、か……」



 それからのともちゃんも戸成も教室で会えば普通に談笑するし、仲の良い友達、クラスメートって感じで安心した。

 そんな2人の様子に安心をしながらも、俺は時間の取れる放課後に舞花ちゃんがいる倉庫を訪れていた。今日は予めヒメ先輩達にお願いをして2人きりにしてほしいとこっそりとお願いをしておいたんだけど、ヒメ先輩は


「ふ、不順異性交遊とかは絶対駄目だし!駄目だからね!!ね!!」


 と何を勘違いしたのか顔を真っ赤にしてすごく釘を刺されたし、アオ先輩は


「エェ~?!そういう事は私もしたことないけどするなら私とムグムグ――――」


 等と、とんでもねぇ発言をしようとしてアカ先輩に止められたりしていた。アオ先輩オギャァ……バブバブ。


「お疲れ様、舞花ちゃん?」


 そう言って声をかけると、ノートパソコンに向かって作業をしていた舞花ちゃんが顔を上げた。


「はい、こんにちはタロー君」


 にっこり笑顔の舞花ちゃん。でも今日は俺は一度腰を据えて話しにきたのだ。


―――君は一体何なんだ。どうして何度も俺を助けてくれるんだい?

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