第32話 俺達のアオハル
「―――歯ぁ食いしばれ戸成ッ!!」
ドンッ!!
「本気でやってタローが俺に!!!勝てるわけねェだろうが!!」
麦わら帽子が似合う海賊みたいな台詞を言う戸成に秒殺されて地面にうちたおされている俺、参上……もとい惨状。
ペロッ!これは爺さんの道場の床……!床ソムリエの俺は床を舐めることにかけてはプロなんだ……いやなんの話だってばよ違う違う。
「ほらな、俺はこんな奴なんだよ、幻滅したよな……」
可能な限り俺にダメージを与えないように気遣って俺を倒してるあたり、俺と戸成の歴然とした力の差を感じるがそうも言っていられない。手段を選んで勝てる相手ではないのだ。生憎、今日の俺は手段や方法などどうでもよかろうなのだァーッ!!なんだぜ。
自己嫌悪に陥りながら勝ったと思ってそんな事を言っている隙に起き上がり、姿勢を低くくして戸成にタックルする。勝利の法則は決まった!
「なんだ、まだやる気かタロー?!」
「あぁ。―――俺は今から、全力でお前の股間を殴る!!」
「な、何ッ?!股間?!?!やめろタローお前っ!」
「覚悟はいいか?俺はできてる」
「うおおおおッ?!なんてことを思いつくんだタロー!?」
股間の準備は準備かイケメン!ちなみにちんちんという品種の薔薇があるのでちんちんは下ネタじゃないよほんとだよ!
「ちん!ちんちん!ちんちんちん!ちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちん!!ちんちちんちんちんちんんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちん!チンァッ!」
ラッシュの速さ比べ……オラオラと無駄無駄の如きちんちんのラッシュである。
「うお、ウォォォォーッツアーッ!やめろ、それは私のおいなりさん、だっ、ふっ、はぐっ、ふぁ、アァッ…!!」
情け容赦なく股間を襲う連打に戸成が悲鳴をあげる。俺を引きはがそうと渾身の力を振り絞っているが根性でしがみつきつつ攻撃の手は緩めない。
「ちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんァァッ!!TAMAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
最低の絵面だが、俺を引きはがそうとする戸成に抗いながら戸成の股間をパンチパンチパンチ。いくら戸成が強くても股間の紳士までは鍛えられまい!!俺に残された手段は戸成にしがみついてひたすらにおいなりさんを殴るしかできない!!
「ちょ、おま!タロォォォォォッ!!」
「俺は!君が泣くまで!ちんちんを殴るのを辞めない!!FUGURYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」
股間を襲う猛攻に戸成が悶絶している。わかるぞっ、こんなの俺もされたら耐えられない!
だけどこうして、戸成の股間を連打して俺は改めて感じた……えっちな意味じゃないぞ?―――俺はこいつと、戸成と対等な友達になりたいんだ。ここで負けたら、俺は戸成と友達だって胸を張れない。
「ここで、俺が負けたら…お前は自分を信じられねーじゃねーかッ!!」
戸成の股間を繰り返し殴り続けながら叫ぶ。何度も戸成に助けられたが、今日は俺一人の力で戸成に勝たなきゃいけないんだ。
「だからって人のちんちん殴る奴があるかァー!!!!!!!!」
戸成の絶叫が道場に響く。それは本当にそうだよね!!!!正直俺もそう思う!!!本当最悪だよな股間連打とかさ!だが俺は謝らない!!
「うおおおおおおおっ、ファルコ◯パーンッ!マッ◯突き!流星◯!フタエ◯キワミアーッ!ハー◯ブレイクショット!サド◯インパクト!衝撃のファーストブリッ◯ー!!」
適当に思いつく技名を連呼しながら繰り出していたが渾身の一撃がめり込み、ついに戸成が倒れ込んだ。
「いいか戸成、お前が迷ったら俺が必ず殴りに来る。だから安心しろ、お前が大丈夫だって言えるまで、俺が傍にいてやる。お前を信じろ、俺が信じるお前を信じろ!!」
どこぞの兄貴の借り物だけど、万感の思いを込めた言葉が聞こえたのか、倒れ込んだ戸成の口元が微笑んでいるのが見えた。まったく手のかかる奴である。
「ハァ…ハァ…とったどー!」
そうして股間を抑えてピクンピクン痙攣している戸成を足元に右手を天に掲げ、
―――――そして俺は戸成から受けたダメージで限界を迎えて倒れ込んだ。
暫くして目を開くと、隣でぶっ倒れていた戸成もほぼ同時に目を覚ました。お互いに、あー、と声を挙げながら半身を起こす。
「タローさぁ、いくらなんでも股間はねーだろ」
「ハハハ、本当それな!でも新しい世界の扉が開いたりしなかったか?一応後遺症が残らない程度に注意して叩いたけど」
「それは開いたらダメな扉だろう!……はぁ、まったく」
そう言いながらも苦笑しているので戸成も憑き物がおちたのか、吹っ切れたようだ。
「戸成、言ってなかったけど俺もお前に謝る事があるんだ」
折角なので俺も戸成に言っておこう。
「最初にバスケ部に見学に行ったのな、あれすまん、ともちゃんに頼まれてなんだ。ほんとすまん」
申し訳なく思い正直に言うと、何だそんな事かと笑う戸成。
「いいって、運動部なんて見学きてもらってなんぼよ。それに、理由はどうあれあれでお前と友達になる切欠ができたんだしな、気にすんなよ」
ほらもーいい奴なんだからー!!
「はー、なんかアホみたいなことして気が楽になったなー」
スッキリした様子の戸成に安堵する。俺も頑張ってちんちん殴りした甲斐があるぜ。
「そんなもんだ。抱えていたものを吐きだして一回頭の中からっぽにして体動かしたんだ、気分も良くなるだろ」
それをちんちんラッシュしたお前が言うのかよと言わんばかりのジト目でみてくる戸成。しかたねーだろー!俺弱いんだからさー。
「タローはさ、俺の事を“いい奴”、って言ってくれたけど……俺から見たらタローの方が“いい奴”、だったんだぜ」
道場の天井を見上げながらそんな事を言う戸成。
「蟹沢の野郎をやっつけた時からそうだったよな、タローって人の為に色々頑張ってただろ?俺それ見てすげーなって思ってたんだよ」
「よせやい照れる」
「ハハハッ―――今やっとわかった。
タローはさ、俺がなりたかった、そう在れたらって思う姿だったんだよ。飄々として、周りに人がいて、でも誰かが困ったらお節介を焼いちまう。損得なんて気にせず人に手を差し伸べて―――やべーやつをどんどん蹴散らして。おまけにこうしてウジウジ悩んでた俺まで救ってくれた。お前は俺のヒーローなんだ」
結構な過大評価だと思うし美化しすぎじゃね?雰囲気と成り行き任せでズルズルと面倒ごとに巻き込まれてはなんとかしてを繰り返してるだけだと思うけどねー、と思うけど戸成がいつになく真剣な表情なので茶化せない。悔しいので俺も戸成に思っていた事を言っちゃおっと。
「俺はお前みたいに人のピンチにかけつけてなんとかするみたいなイケメンムーブなんかできないから、俺からみたらお前の方がヒーローしてるよ。顔もいいしな、さすがジュニアモデルあがり」
そんな事を言うとむずがゆそうにする戸成。そんな様子がおかしかったので拳を突き出してやると、それを見て目を見開いた後、苦笑しながら拳を出してきた。お互いの拳を軽くぶつけてご挨拶。うーん、青春て感じでいいんじゃない?
それからしばらくして大きな嘆息を零し、戸成が語り始めた。
「中学からの事、いろいろあったんだけどさ……タロー、俺やっぱつれぇわ」
そりゃ辛ぇでしょ……寝取られ脳破壊掌返しフルコンボだドン!だもんな。しかも高校に来たらもう一回やられるドン!かもしれないとか、これまでよく堪えたと思う。まぁそこは俺がなんとかするからみておれ。
「なんだ、ちゃんと言えたじゃないか」
そう言いながら頷く。
「俺もそうだったからわかるけど、辛い事を辛いって言わないと―――心の中でグルグル回ってしんどいままになっちまうんだよ。だからそういうのはきちんと言葉にした方がいい」
そんな俺の言葉に色々な感情が去来したのか、泣く戸成。
泣いとけ、泣いとけ。しんどい思いした分は泣いたっていいんだ。誰も、もちろん俺も、それを笑わないさ。そうして思いっきり泣いたら、多分これまでよりは気が楽になると思うぜ。
それから落ち着いた戸成と一緒に爺さんの道場を後にした。道場の去り際、壁にかけられた門下生の名前を見て戸成は首をかしげていた。知り合いでもいるんだろうか?みていた名札は爺さんの家に下宿してる内弟子だろうか。そういえば留守っぽいけど一緒に旅行にいってるのか外出中かな。
そうして戸成と他愛もない話をしながら歩きつつ、戸成の家との分かれ道で別れた。
「そうだ、言ってなかったけどお前みたいなやつは嫌いじゃないぜ。それじゃまた明日な、沖那(おきな)」
「……タロー、今、俺の名前を?!」
「なんだよ驚いた顔して。友達なら下の名前で呼べって言ったのはお前だろ?」
「ちょ、もっかい呼んでくんない?!なぁタロー!ねぇねぇタロー?!」
なんだよ恥ずかしい奴だな、なんて思いながら俺は手を振り戸成……いや、沖那に手を振りながら別れ、家への帰り道を歩くのであった。
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