第31話 お前は本当にクズなのか?(後)
「うちの家は代々続く議員の家でさ。しっかり者の兄貴と厳しいけど愛情深い姉貴もいて、家族団らん仲良くやっていたとおもう。
けど俺が中学の時に、うちが違法行為をしているってマスコミに因縁をつけられたことがあったんだよ。そうしてセンセーショナルにマスコミ……いや、マスゴミは報道して、俺の周りからは一斉に人がいなくなった。
そのせいで兄貴は折角合格した難関大学への推薦も取り消しになったし、俺は仲が良かった親友も、幼馴染の恋人も、友達も、みんな、みんな周りからいなくなった。
俺は無実を訴えた。そんなやましい事は何一つやってなかったからな。でも、誰も信じてくれなかったんだ。
子供のころからずっと一緒で、好きだって言い合っていた幼馴染でさえ、俺の言葉を信じてくれなかった。
幼馴染の誕生日にプレゼントを渡した時、その場でゴミ箱に捨てられて泣いたよ」
俯き、拳を震わせながら言う戸成。…なんだよそれ、思った以上にえぐい過去に何も言えなくなる。そりゃ人間不信になるわ……。
「騒動が収まったのは中学卒業間際だった。
その間TVでも、学校でも散々誹謗中傷されて、無責任に世間は責め立てて……結局は、うちと対立した政治家がうちを嵌めようとしてたのが原因だってのがニュースになって。
相手の政治家が自爆して、ついでにいろんな悪事も明らかになったんだ。
うちにした嫌がらせも誹謗中傷も全部ねつ造。
今まで散々うちを責めたてていたマスゴミの奴らは掌返して自爆した政治家をせめたてたけど、ついぞ俺達に謝ってくることも、散々な事を書き散らし報道した詫びもなかった。そんな中でも親父はあきらめずに戦い続けてたから、俺は何とか踏ん張れたけど、たくさんのものを失くしたよ。そうそう、タローの頑張りで吊し上げた弥平から芋づるで捕まった田崎もその一派で逃げ伸びた奴だったから、そのことでもタローには感謝してるんだぜ」
そういえば政治家の捏造報道とかあった気がする。うちの親父はTVでそんな報道されてるの見る度に、ロクな証拠も無いのにマスゴミが騒ぎ立ててるのに憤慨してたなぁ。
「そうして騒動が終わったころに、幼馴染が俺のところに戻ってきた。
本当は信じていた、好きだった、また一緒にいたい……って言ってな。
けど俺知ってるんだよ、あいつは……俺から離れていった後、俺を親友だと言っていた男と一緒になって俺のことを悪し様に言ってのを。
俺がドン底に落ちた時には蜘蛛の子を散らすように逃げ出して、それでいて親友だと言っていた男と親しくして……あの2人がキスをして抱き合ってるのを見た時の絶望が、今でも心から消えないんだ。
幼馴染が肩を抱かれながら―――俺を親友だって言っていたあの男の家に入っていくのを何回も見ちまって、俺は脳が破壊されちまったんだ。
だから幼馴染を受け入れられなかった。
それからだよ、人なんてこんなもんなんだって、誰もかれも、自分の得になる事しか考えてないんだって。都合が悪くなったら離れていって、調子よくまた手のひらをかえすんだって」
言葉が出ない。聞かされた話があまりに惨すぎた。
……というか戸成何も悪い事してないじゃねえか。
戸成がいい奴なの何てわかりきってるし、まだ短い付き合いの俺だけどそんなの普通にわかるぞ。幼馴染だとか親友だっていうなら戸成を信じろよ……!
っていうかその親友とやらもさぁ、どさくさに紛れて人の彼女に手を出してるんじゃねーよそいつこそクズ野郎だよ。
戸成の心を踏みつぶしたその幼馴染…いや、汚さななじみと親友とやらはちょっとこう、ざまぁされねえかなぁ……なぁ戸成、これが落ち着いたらそいつらに落とし前ツアーしないか?俺に出来る事ならなんでも協力するぞ。
―――おまぇもざまぁにならないか?
既にそんな気持ちでいっぱいだ。戸成の話は聞いていて酷すぎるので俺もつらい。
「受験前にはもう半分不登校みたいになって自主学習しててさ。酷い中学生活だったけど、もうあいつらに関わる気力もないほど疲れてたし、―――勉強頑張って、中学から離れたこの高校に入って、あいつらとも縁が切れて一からやり直すんだって決めたのに、……入学式の日に幼馴染と親友だった奴が同じ学校にいるのを見て、俺は―――駄目に……こんな風になっちまったんだ」
え、何?その汚さななじみと元親友、同じ学校にいるの?!?!
こ の 学 校 に い る の ? !
そいつらの方がよっぽどクズだよ!!!!
やはりお前はざまぁになれ戸成!!!!!
今ならお前の無念さへの共感とそのクズたちへの怒りで、俺は目になんとかの参とかって漢数字出せる気がしてきた!!!!病む……病んでしまうぞ戸成、ざまぁをしろ、ざまぁをすると言え!!!お前は選ばれしいい男なのだ!!
ほら、空に向かって天の声を聞いてみろよ、天の声はクズたちへ迅速に報復して良しとノータイムでゴーサインくれるって!!天の声がペンライトぶんぶん振ってお前を応援してくれるからとっととその真の仲間(笑)達に落とし前つけさせに行こうぜぇ?!!!!祭りの場所はここかぁ!
「犬井と付き合ったのも、俺には恋人がいなかったし、犬井がタローの幼馴染でタローが親しくしてる子ならいい子だと思って付き合ってみよう、って事で決めたんだ。
皆で出かけてるときにも好意を感じていたし、一緒にいてゆっくり関係を築いていけたらなって。そこには、タローとももっと親しくなれるかもなんて打算もあった。
……けど結局、俺はこんな打算まみれの情けない奴だから、それに心のどこかで幼馴染や親友だった奴らにされたことが残っていて、犬井の気持ちに向き合えなかった。
……頭の中で囁く声が聞こえるんだよ、どうせまた裏切られるって。
だから俺は俺の弱さで犬井を傷つけたどうしようもないクズだよ。犬井は俺のそんな薄汚い打算と心をそれを感じ取ったんじゃないか」
自己嫌悪に苛まれている戸成。
だがな、すまんが戸成よ……ともちゃんアホの子、……おほん、そんなに賢くないからお前が思うほど深く考えてはいなかったぞ。単純にともちゃんはあまやかされレベルが高いというかこう、……そんな中でお前はよくやってたと思う。
付き合い方とかともちゃんの扱い方に対してはともちゃんも満足してたっぽいしな。
……というかそれだけ酷いトラウマ負わされてるのに根っこにある善性を失わずにいられるその鋼の意志の方が凄いって、本当。損得を考えてしまうとかいってたけどそこまでやられて人間不信にならない方がおかしいくらいだし、道を踏み外してないお前は黄金の精神の持ち主だから胸を張っていいぞ。
「……お前きちんと、ともちゃんとデートしたりプレゼント渡したりしてたじゃないか。ともちゃんが駄目なところはきちんと注意したり」
「彼氏と彼女だからこそ、そういう事はきちんとしないと駄目だろ」
そういう所だぞ戸成ィー!!!!!!!!!
お前がそういう奴だから俺は放っておけねーんだよ!!!!!
全くもって真面目で律儀で、難儀な奴だ。
人を信用できなくなるほどの心の傷を受けて、トラウマのせいで変に歪んでしまって……いや、歪められてしまって―――いやまぁ、親友に幼馴染を寝取られて、そのくせいけしゃあしゃあと掌返しされたらそうもなるわって感じだけど。
それでもお前は折れず、トラウマに苛まれて人を信じられない自分に嫌悪感を感じながら踏ん張ってたのか。
感情の板挟みになって、すり減っていって、自分は人を信じられないどうしようもないクズだと思い込んで。
悪いのはお前じゃないし、お前が自分を卑下する必要なんてないんだ。
トラウマを抱えて尚“いい奴”で在れるお前はクズなんかじゃないぞ。
そもそもクズは、お前の汚さななじみと元親友だからな?!?!
―――まったく、こんな話を聞いたら何もしないわけにはいかねーよなァー?
「だから俺は……ダメな奴なんだ。これが俺なんだよ。俺は、俺は……」
そういって項垂れる戸成。
馬鹿言え、お前はいいやつなんだよ。
だから荒療治になっても、コイツはここで立ち直らせてやらないといけない。それが出来るのは多分、心中を吐露した相手の俺だけだろうしな。
そんでもって元気になったらそのクズ達に落とし前つけさせような!戸成!!
「お前は、やっぱりいいやつだよ。本当にどうしようもないクズってのは……蟹沢や弥平みたいなやつらの事を言うんだ。そんな風に自分で自分を責めながらトラウマに苦しんで、もがいてあがいて尚前を向こうとしてるお前がクズなもんか」
「優しいな、タローは。そういってくれるのはタローがいい奴、だからさ。俺はもう、俺を信じられないんだ」
寂しそうに笑う戸成。そんな顔を見ていると俺まで苦しくて、切なくて、悲しくなるだろうが。
……そして今、舞花ちゃんの言葉の意味を理解した。
戸成をなんとかするならもう、力づくで目を覚ますしかない。だからここを指定したんだ。……あの子は何者なんだろう、ここまで先読みしていたのか?戸成の事情を調べた?それはまた今度聞くとして―――
「―――わかったよ、戸成。お前が自分をどうしようもないクズだって言うのなら。
お前自身を信じることが出来ず、過去のトラウマで自分を苛み続けるていうのなら
そして自分がこのまま一生救われないなんて勘違いしているっていうなら」
勝てる、勝てないじゃない。やらなきゃいけないんだ。散々お前に助けられたんだ、今度は俺がお前の心を助けてやるさ。俺は拳を握る。
俺の気配に戸成が何かを察したのか制止しようとする。
「タロー?!俺はお前とやりあうつもりないぞ?!あ、いや犬井さんを傷つけた事に対してなら勿論殴られるけど―――」
「喧嘩じゃないさ。ここは剣道場、ちょっと俺と一勝負付き合え。元祖無差別格闘流だ。―――まずは、その幻想をぶち殺す!!!」
「ちょ待てよ!」
それなんとかタクヤや戸成、なんて心中で突っ込むが、後ずさりながら戸惑っている戸成。えぇい、こまけえことはいいんだよ!
「反撃しないのならこのままお前のケツ穴ほじくるぞオラァ!!!」
「けつあな?!けつあな確定なのか?!」
驚きと狼狽しながら構える戸成。
いや別に本気でケツ穴ほじくるつもりはないよ、言葉のアヤだよアヤ。こういう時は体動かして一回頭空っぽにしちまうのが一番だろ?でも痛いのは嫌なので先手必勝でいきたいと思います。
鬱屈とした気持ちを言葉で吐きだすことが出来たんだ、後はちょっとバカになってすっきりしろ戸成。
昭和の時代の漫画やドラマじゃあるまいし、河川敷でタイマンなんてやるような柄じゃないけどしょうがない。今日は特別に、俺が付き合ってやるからさ―――!!
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