第27話 女友達との時間
ゴンドラが時計回りに動くにつれて地面が遠くなっていく。
「わぁ、人がゴミみたいだよタロー」
「はいはいバルスバルス」
景色を見下ろしていたあきらの声に合いの手をいれながら座りなおす。
でも本当に人がゴミみたいだ。こうやって見下ろすと10円で入れる高校生ぐらいのお客しかいないけど大丈夫かここ。グッズコーナーもなぜか鬼の首を斬るドブネズ刀とか頭にチェーンソーが生えたチューチューンソーマンとかどっかでみたようなもののパチモンばっかりだったし、コラボっていうかあれ多分パクりだよなぁ。
「えっと、タロー。改めて、なんだけど……蟹沢先輩との事、ありがとう」
下を見下ろしていたがあきらの声に向き直ると、膝の上に拳を置いてあきらが真っすぐにこっちを見ていた。
「あぁ、その事なら気にしないでくれよ。俺が好きでやっただけだし。あきらこそ、俺の腕がギプスで固まっていた時助けてくれてありがとう」
そんな俺の言葉に、反応に困っている様子のあきら。
いやぁ、あきらには勘違いされてるようだけど、俺はあきらに対しては悪感情は抱いてないんだよな。
告白されて付き合いだしてしまったのがクズ野郎だったこと、クズ野郎に要求されてリベポな写真を送ってしまったのは迂闊かもしれないが、変な男に引っかかってしまったってだけでむしろツイてなかったなと思う位で……男運が無かったんだよ……。
俺が蟹沢とやり合うためにあきらを煙に巻こうとした時も事情と意図を聞こうとしたりしてくれたしなぁ。
その後にあったのが話通じない雉尾さんだったから前後のギャップもあって余計にそう感じる。
なのであきらに関しては変な男に酷い目にあわされなくてよかったと思うし、吹っ切って元気になってくれたらいいなと思ってるのだ。なんだかんだで中学からよくつるんでる友達だしさ。
「それは、その……どうしてもタローに償いたくて」
「別に償ってもらわなきゃいけない事なんてないと思うぞ。蟹沢に関しては出てきた悪事が外道すぎて看過できなかっただけだし、弥平に関しては吐き気を催す邪悪すぎてあそこできっちり引導渡さないとヤバいなって思っただけだしな」
改めて言葉にするとカッコつけてるみたいで気恥しい。そもそも高校に入って早々人間のクズ×2と連戦とかハードモードすぎるんじゃよ……。ワシはごく平凡な一般高校生なんじゃぞい。いろんな人に助けてもらってなんとかなったから良かったけどさ。
「変わらないね、タローは」
昔を懐かしむように遠い目をするあきら。中学時代を思い出しているのだろうか。
「前もそんな事あったじゃん。私が男子に色目使ってるってクラスの女子に因縁つけられた時も無茶な事して助けてくれたよね」
「そりゃ、おめーの席ねえからされてるの見過ごしたら人としてダメだろ」
「あはは、そうだよねぇ。でもそれを自然にできるのはタローのいいところなんだよ」
「そういうもんかねえ」
まぁその後、その件絡みで俺も執拗ないじめにあって結構な騒ぎになったな。あの頃はともちゃんが恋愛脳になってなかったので心強い味方だったんだけどなぁ。
ともちゃんといえば戸成とは上手くやってるんだろうか?頑張れ、頑張れ。俺に出来るのはここまでだ。
「タローはさ、犬井の事も吹っ切ったみたいで凄いよ」
「いつまでも引きずってられないしなぁ」
そもそもともちゃんがあんな状態なので、恋愛感情はダッシュで逃げていったしな。
「そっかぁ。そうだよね、あんなにおっぱい大きな先輩とか、凄い美人の先輩にもアプローチされてるもんね」
違う、それは誤解だぞあきらと懇切丁寧にしゃべれる範囲で事情を説明したが、あきらはただただ半目で見るばかりだった。
「あきらこそ大丈夫なのか?初めての彼氏とその……あんなことになっちまって。いや、彼氏をブタ箱に蹴り込んだのは俺なんだけど」
「私は…私も、恋愛は……どうだろ、今はまだちょっといいかなって。迂闊な写真を送っちゃったのは私の失敗だったけど、写真だけで済んでまだよかったと思うようにしてる。次、同じことを繰り返さないようにしていけばいいかなって。
まずは心を落ち着けて―――あ、タローが悪いわけじゃないからね?私の気の問題だし、私も色々あるし……まぁそんなところ」
「そっか。何か困ったら気軽に相談してくれ。万屋タロちゃんだ」
「銀じゃなくて桃魂……ってコト?でも頭テンパじゃないじゃん」
痛いところを突かれるが、あきらはけらけら笑ってるのでウケたならそれでよし!
「ははは……でも、―――感謝してもしきれないくらいなのは、本当。タロー、私と友達でいてくれてありがとう」
そう言って少しはにかむように笑うあきらは―――今までで見てきたどのあきらよりも一番綺麗だな、なんて思った。
2人で中学時代の昔話や最近の学校の話をしながら、ゆったりした時間を過ごしていたが、ゴンドラが時計回りに一周回り終えたのでゴンドラから降りた。
先にゴンドラから降りて手を差し出し、
「お嬢様、お手を」
なんてしてみたが、あきらは似合わないと笑いながらも掌の上に手を置いて合わせてきた。なんだかんだで合わせてくれるのはウマが合うからなんだよねー。
そんなやり取りをしつつも戸成やともちゃんはどうしているかな、と見回すと離れたベンチで談笑している。
ふむ、上手く話が合っているのか打ち解けたのか、戸成がいい感じに合わせてくれているのか……兎も角、俺の肩の荷は下りそうだ。
「そういう事ね。……タローも大変だね。あきらさんがジュース奢ってしんぜよう」
俺の視線の先の2人を見て、何か得心がいった様子のあきらが声をかけてきた。
後は自分で頑張るんだぞ、と心中でともちゃんに声をかけつつ、俺はあきらの相伴にあずかるべくあきらについてジュースの自販機へと移動する。
なんだかんだで遊園地も面白かったし有意義な一日だったなぁと思いつつ、俺はその後もあきらと2人で遊園地を回るのだった。
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