第26話 幼馴染・イケメン・女友達


 戸成から蟹沢の時に助けを呼んでくれた子もドブネズランドに誘ったらどうか?と言われたので舞花ちゃんにも声をかけたけど、丁重に辞退されてしまった。折角だしいつものお礼をしたかったんだけどね。


 そんなこんなで週末になり、ドブネズランドに遊びに行く当日。

 待ち合わせ時間15分前に着くように、ともちゃんを伴って集合場所に向かうと既に戸成が来ていた。サラマンダーよりずっと早い!


「はよーっすタロー」


「早いな戸成」


「ハハハ、言い出しっぺだからな。犬井さんもおはよう」


「は、はひゅっ!オハオハオハオハヨー戸成君♡」


ともちゃん大丈夫だろうか、緊張してガチガチである。


「ははは面白いじゃん犬井さんそんなキャラだったんだ!ボボボーなんとかみたいな感じ?」


 いやー、鼻毛アフロは関係ないと思うなぁ。

 こういうなんでも好意的に解釈してくれるのは戸成のいいところだと思う。そうなんだよなぁ、どこからどう見ても普通にいい奴なんだよ。なんで俺は戸成が気になってるのかな……あ、別に恋とかじゃないよ本当だよ?


 バスケ部やクラスのの男女も含めて10人、綺麗に男女が5人ずつになった。その中にはあきらもいて、ポニテにキャミソールに萌え袖なジャケットとショートパンツで可愛らしい格好だったので褒めたらなんか照れてた。

 そうして集合時間になり全員が揃ったところで入園したが、結構な大所帯なのでそれぞれに行きたいアトラクションでいくつかのグループに分かれることになった。

 腐っても遊園地、しかもしぶとくアップデートされたおかげでアトラクション自体は妙に多い。定番のジェットコースター組、カリブの提督組、アスレチックエリア組とどんどん分かれていく。


 ちなみに戸成は体感型アクションゲームの「ゾンビハザード」が目的だった。超リアルでグロテスクなゾンビやバイオ生物兵器が跋扈するエリアを、銃を手にゴールを目指すというアトラクションである。

 しかし他のメンバーが行こうとしないのは、このアクションゲームが名の知れたクソゲーだからだ。基本的には2人1組で参加し、参加者はレーザー判定式の武器を一つ選んで使うことが出来る。

 参加中は胸につけたバッジが攻撃に反応するようになっていて、攻撃を一回食らうたびにダメージが1蓄積されてダメージ判定を合計5回食らうと死亡扱いでリタイアになる。

 しかし大量のゾンビやボスモンスターの群れ相手に容赦なくライフを削られるのでゴールまで完走したペアは数少ないのだ。

 一応、ゴリラみたいなガチムチ短髪の外人アニキとベレー帽の似合う美人のお姉さんのコンビや、茶髪を真ん中わけにしたジャンパー姿のイケメンとエスニックなチャイナドレス姿の美女のコンビはクリア者として写真が載っていた。

 もとからゴールが難しい上に女子からしたらまったく楽しくないので女子の受けは悪く、だれも一緒に行こうとしなかい。すかさずともちゃんの小脇を小突くと、何の事だろうと宇宙猫みたいな顔をしていたが閃いた様子で名乗り出た。


「私ゾンビ映画とか大好きだから!!まかせて!フルオートでハチの巣にしてあげるから!!」


 勿論そんな事は無い。ともちゃんはホラー映画見ると泣くぞすぐ泣くぞ絶対泣くぞほら泣くぞする。まぁそこは戸成もいるし何とかなるだろ多分。

 そんなともちゃんに頼もしいなとガッツポーズをする戸成。


「―――えっと、私は……どうしようかな」


 あはは、と言って笑っているのはあきらだった。みると俺とあきらだけが残っていた。ふーむ、どうするかな。


「それならタローも俺達と一緒に来いよ!2on2でクリアをキメてやろうぜ!」


 ペア同士の合流チームもokになってたっけな。


「あきらはどうする?一緒に行くか?」


 迷っている様子だったのであきらに声をかけると、少し迷っていたが小さくうなずいた。なんか今日のあきらは借りてきた猫みたいで大人しい。女の子っぽい……いや、あきらも女の子だもんな。


 戸成、ともちゃん、あきらの3人とゾンビハザードに移動したが案の定待ちはいなかった。最初に武器を選択できるのだが、戸成は二丁拳銃、俺は散弾銃、ともちゃんはサブマシンガン、あきらはボルトアクションライフルとそれぞれに違う武器を選んだ。色々違う武器を持っていたら攻略が楽になるのだ。


 順番は、戸成、ともちゃん、あきら、俺の順で一列に並んで進んでいく。

 このアトラクションは俺も何回かやったことはあるが、洋館を模した一本道のステージをとにかく奥へと進んでいく単純なものだがゾンビの湧き場所やボスがどこから参戦してくるかはその都度変わるので、覚えゲーが出来ないのがクソ要素だ。


「ヒューッ、ワクワクするなぁ、―――よっと」


 前衛の戸成がゾンビの攻撃をかわしたり体術をキメながらスタイリッシュにゾンビの頭数を減らしていく。ゾンビサバイバルアクションゲームっていうよりも同じメーカーの悪魔も泣き出すスタイリッシュアクションしてて、こいつ何やらせても本当に様になるというか凄いと思う。

 ともちゃんは完全にビビッと震えていてまともに発砲してないが、戸成がどんどん敵を倒してくれるので特に問題になってないし、あきらも何度かやったことがあるようで、高所から落ちて来ようとするゾンビや戸成の手数で処理しきれないゾンビを綺麗にヘッドショット当てていく。俺は殿から後ろを警戒しつつ両サイドからの脇を潰していく。ショットガンは攻撃判定の範囲が広いので横湧きを潰すのに便利なのだ。このあたりは過去の経験が活きるね。

 主に戸成無双で半分くらいまでは全員ノーダメージで順調に進んだ。

 戸成はきゃっきゃしながらもスタイリッシュアクションで1対複数でもノーダメージでゾンビを蹴散らしていき、ともちゃんはその後ろで声援を送りながらときめいている。まぁ当初の予定通りにはなったんじゃなかろうか。

 あきらも経験者なので、ゾンビがわきそうな場所かつ戸成や俺が初手で届かない位置を警戒してくれていて、対処が面倒くさい場所を先行潰ししてくれるので助かっている。これは本当にクリアできそうな気がするぞ。


「やるじゃんあきら」


「へへ、ありがと。結構順調じゃん、これならゴールまでいけそうだよね!ここを出たら皆でクレープを食べようよ」


 おいやめろあきら爆速でフラグを立てるんじゃない!一言の間に幾つも死亡フラグが立ってたぞ!!


『リアジュー……』


 背後からそんな声が聞こえたので、ショットガンを腰だめに構えながら振り返ると5メートル位離れたところにそいつはいた……うわ、でたよボスキャラ『モテタイラント』。人間の皮をはいだようなグロテスクな2メートル近い巨躯のモンスターで、右手の巨大なツメで容赦なくライフを削ってくる(尚あくまでアトラクションなので当たっても特に痛くはない)。当たり判定の大きい攻撃と、参戦してきたら完全に倒すかゴールに到達するまで追跡を辞めないこのゲームをクソゲーたらしめる最大のクソ要素である。

 リア充への憎悪とモテたいという切望を糧にゾンビウイルスを克服した超生命体という設定らしく、カップルで参加したりイチャつく程早期に参戦してくるらしいよ。『リアジュー……』という単語だけを繰り返しながら猛攻撃をしてくる哀しき漢……いやモンスターだ。


 ちなみに女の子が2人で参加していると『キマシタイラント』に変異する設定らしくて何故かゾンビを攻撃したり女の子ペアにはわざと攻撃を外したりしてくれるらしいよ。


 いやー、マジでクソゲーだよね!!!!!


 ちなみに俺が殿で散弾銃を構えていたのは、後ろから来る敵への備えのほかにコイツは常に後ろから追跡してくるからそれに対処するためである。


「アイツは俺が攻撃を止めていくからどんどん前へ進め!」


 そのまま後ろを向きショットガンを構えて後ろ歩きしながらモテタイラントに備える。


『リアジュー!!!』


 モテタイラントが爪を振りかぶって突進してきたので足を狙ってダウンさせる。ダウンすると膝をついてきっちり20秒行動を止めてくれるんだよな。その間にリロードを済ませながらゆっくり進んでいく。といっても俺は後ろを見続けないといけないので後ろ歩きだが。ダウンを取っては再起動して距離を詰めてくるモテタイラントをきっちりダウンさせる足止めを繰り替えし、背後の戸成と声をかけあう。


「もう3/4くらいまできたな!」


「おお、これクリアいけるんじゃね?!」


 肩越しに見ると拳銃の攻撃で動きを止めてフィジカルコンバットでゾンビを蹴倒している戸成が見える。とはいえアトラクションなのでゾンビ役のキャストさんがきちんと受け身をとれるように倒していくの、お前本当になんでもできるな!!って感じ。そんな戸成の声に肩越しに振り返って叫ぶ。


「だんだんモテタイラントくんの再起動後の攻撃が早くなってきてるから後ろから目が離せない!」


「問題ない、こっちは任せろ!ぐおおおっ?!?!」


ビーッ、ビーッという音が鳴る。誰かダメージを喰らった?


「ごめんなさい戸成君、当たっちゃったぁ」

 

 ともちゃん?!ともちゃんが戸成にフレンドリーファイアしたの?!まぁ1発くらいは誤差だろ。というかともちゃん今まで撃たなかったのに何でここで撃つの?!いっそそのままじっとしていてほしかった。


「すまんタロー、俺ライフあと1だわ!!!!!!」


 ともちゃんどんだけ戸成に連射したの?!?!?!?!?!?!なんで前衛の戸成がオワタ式になってんの?!?!?

マジかよ戸成前衛で超安定してたのに一気にハードル上がったぞ……どうするんだこれ。


「私が後ろみるからタローは前へ!」


そう言ってあきらが俺の前に出る。


「あきら?!でもライフルだと1ミスすると止められないぞ」


 ライフルでのダウン判定には毎回正確にモテタイラントのむき出しの心臓に当てないといけなかった気がする


「楽勝よ!」


 やめなさいあきら、フラグっぽい事をいうのは……!しかし現状それしか手がなさそうな気がする。

 丁度モテタイラントが再度立ち上がり、突進してきそうな構えを見せたがあきらがきっちり心臓にあててまたダウンを取る。やるな、あきら!


「凄いなあきら、任せた!」


 クリアできそうなので俺もちょっとテンション上がってきた。だってまだ高校一年生男子だからね!


「戸成、俺も前に出るわ」


「助かる!」


 戸成に声をかけつつ、オワタ式で無理ができなくなった戸成のカバーに前に出ようとする、が。


「きゃああああああ!後ろになんかきてるうううううう」


ともちゃんの声と共にビーッ、ビーッと音が鳴る。ダメージ……俺かよ?!!!撃たれてるぅぅぅぅっ!


「ともちゃん撃たなくていいからゾンビから逃げる事だけ考えてて!」


「いーやーやだやだやだこわいからうつー!!」


 戸成のカバーに入ろうとしたらすれ違いざまに至近距離でともちゃんに撃たれて俺もライフが一気に3も減ってしまった。いかん、ゾンビやボスからの攻撃は受けてないけどともちゃんにパーティーが壊滅されかけてる、何この難易度ルナティック。有言実行でともちゃんのフルオートでハチの巣にされたわ―――俺と戸成が。


「わ、ちょっと犬井撃たないで!私は味方、味方!」


 またビーッ、ビーッという音が鳴りあきらもライフが減ったっぽい。ゾンビ映画にいるクッソ迷惑なキャラみたいになってるぞともちゃん!!うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?!!?!?



 結局、相当頑張ったけど最終的には度重なるともちゃんのフレンドリーファイアを受けてゴール目前で壊滅し、残ったともちゃんはモテタイラントにライフが0になるまでぺちぺちとモテタイラントくんに攻撃5発食らってゲーム終了になった。途中、フレンドリーファイアがヤバいのでともちゃんから武器を預かろうとしたけど頑なに武器を手放さずに銃口を向けられたのでどうしようもなかった。もうこれは仕方ないね。

 ちなみに最後に残ったともちゃんはペシペシペシとモテタイラントくんに5発やさしくダメージを与えられた後に


『オトモダチヲ……ウッチャダメダヨ……』


 と注意されていた。すいません、そうですよねー。モテタイラント役のキャストさん、本当にお疲れ様でした!!!!


「惜しかったけど面白かったなー!!」


戸成はそれでも楽しかったようで大満足の様子だった。一番活躍してた戸成が満足してるならヨシッ!!


「あはは、そうだね。私も楽しかったよ」


 あきらもそう言ってるし、俺もいい運動になったし面白かったよ。


「あーもー、負けちゃったじゃん。折角戸成君へのアピールチャンスだったのにー!にー!むぅ」


 アイエエエ、俺ェェ?!俺ナンデ?!と、他2人に聞こえないようにともちゃんには叱責されてしまった。理不尽すぎて……泣けるぜ。


 クレープを食べながらこの後どうするか話していたらともちゃんが観覧車にのりたいと提案したので、2人ずつで観覧車に乗ろうということになった。戸成にともちゃんと乗ってくれと提案すると、


「お前の幼馴染なんだろ?お前たちが一緒に乗るんじゃないのか?」


 と何かいらぬ気遣いをされてしまった。


「いや、俺とともちゃんは兄妹みたいなもんだしな、ともちゃんも戸成と乗りたそうだしお前に任せるよ」


 そんな俺の言葉に暫く逡巡していたが、意を汲んでともちゃんと乗ってくれた。無理を言ってすまん戸成、ありがとう。


「……あ、えっと、タローは私と乗る事になるけどいいの?」


「ん?あぁ。あきらとも落ち着いて話できてなかったしな」


 そう言いつつあきらをゴンドラへ促す。今日のあきらは遠慮しがちだなと思いつつも2人で観覧車に乗り込む。あきらと対面で座ると、ゴトンゴトン、と観覧車が動き出した。

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