第25話 幼馴染が惚れたイケメン


 弥平をめぐる騒動も落ち着き、ギプスも外れて俺は平穏な高校生活が戻ってきた


―――とはいかなかった。


 主にアオ先輩が時間を見つけては甘やかしに来ること、ちょくちょくヒメ先輩に呼び出される事(弁当を作ってきてくれたりとりとめのない話をしたりだが)、あとあきらとも親しくしたり、ともちゃんとも一緒に行動したり、舞花ちゃんに呼ばれて新聞部の活動を手伝ったりいるので、クラスの男子からは先輩2人に2股して女子3人にアプローチかけてる女たらし野郎と呼ばれ怒りと悲しみの血涙流されたりした。まったくもっての誤解だベイビー。


 そんなあれこれも戸成のとりなしもあり、誤解も冗談半分になっているので生活に実害はないが、なんでお前みたいな地味な奴がそんなに女子にモテてるんだどうやったらモテるか教えてくれと滂沱の涙を流しながら詰め寄られたこともある。ヒメ先輩は多分弥平のお礼だし、アオ先輩は心配の延長みたいな事言ってたし、あきらは中学からの悪友だし、ともちゃんは幼馴染だけだし舞花ちゃんは俺にスクープの気配を感じてっていってたからモテとかそう言うのじゃなくない?多分。

 尚クラスの女子たちからは普通にひどい評価されてる模様。


「うわぁ…5股の桃園」


「桃園の桃はピンク頭の桃」


「きっと学園中の可愛い女の子をハーレムに咥えようと…いや加えようとしているのよ!」


 とまぁそんな感じで近寄るのを憚られたりする。あまりにも散々ないいようである、惨い……!!……というわけで俺はクラスの女子からの好感度はほぼゼロに等しい。ハッハッハ、彼女なんて無理だわコレ。おっかしいなぁ、犯罪者の生徒会長と教師をブタ箱送りにして良い事したはずなのになぁ。

 それでも男子達との関係は良好なので、毎日それなりに楽しく過ごせているので良いけどね。


 あと蟹沢の件に続いて弥平の件でまた戸成とは仲良くなり、一緒に下校したり帰りに寄り道するようになった。

 女子からは一定の距離を取られる俺だが、戸成といると湿度の高い視線を向けられているのを感じてなんだか産毛が逆立つのだ。……なんでだろう、右とか左とか受け攻めカップリングってもれ聞こえるけど、なんだろう。俺には何もわからないよ。



「……ってわけでドブネズランド行こうぜ!!」


 今日も今日とて学校の帰り道に戸成に誘われて買い食いしていたが、唐突にそんな事を言い始める戸成。


「えぇ?なんでまた急に」


「ドブネズランド経営不振らしくて高校生割引で入場料安いんだよ今」


 まぁ、それはそうだろうねぇ。某夢の国に対抗してバブル期の市長が巨額を投じて建設した郊外の遊園地、ドブネズランド。

 色々とギリギリなモノクロカラーのネズミとか、七面鳥とか犬とかそういうマスコットがいる。インベタのさらにインを行く攻めっぷり、今の時代では成立しないだろう。中身もアップデートはされているものの時代に取り残されている感とモロに某テーマパークのパクり感溢れるチープさ、ぶっちゃけよく訴えられずにここまで生き延びたなって場所だ。


「ふーん。外国村的にVチューバーとのコラボでもしたらいいんじゃないのか」


「いや、あんな所とコラボするVチューバーなんていないだろ」


コラ戸成、自分から行こうって誘っておいてあんな所はないだろうと笑ってしまう。


「まぁいいよ、それで誰を誘うんだ?」


「えっ?俺と2人じゃ嫌なのか……?!」


そういって驚愕する戸成。何言ってんだこいつ。


「何が悲しくて男2人で遊園地なんだよ」


「ハッハッハ、冗談だよ。クラスの奴やバスケ部の奴誘って皆で行こうぜ、今週末まで高校生は入場料10円だからよ」


 入場料10円なんだ……やけくそすぎるだろドブネズランド大丈夫か…。

でもそうだ、これは丁度いい機会だからともちゃんに声をかけたらともちゃんと戸成の接点になるかもしれないな。そう思いつつ帰宅した後、ともちゃんに連絡したら速攻で返信が来た。


『今からそっち行くから!』


 はいはい、と思いながらため息をつく。恋愛が絡むと途端にこうなるのはまぁ年頃の女子だし仕方がないのかな。雉尾さんの妄言より自分の積み重ねで俺を信じてくれていたし、恋愛が絡まなければ普通ではあるんだけどなぁ、俺の方はもう恋愛感情はなくなったけど、一友人としてともちゃんのそういう所は少し心配なところではある。

 一応、一緒に出掛ける機会は作ったんだから後はともちゃんが自分で頑張るだろ、多分。俺は……遊園地は1人でぶらぶら回ろうかな。

 そんな事を考えているとほどなくしてチャイムの音が鳴ったのでドアをあけるとともちゃんがいた。部屋にあげると、大興奮でまくしたてるともちゃん。


「遊園地?!戸成くんと!?行く行く!知らない先輩に色ボケしたりしてタロー全然動かないって心配してたけどやっと仕事したのね!えらいよタロー!!」


 そう言って頭を撫でられる。元気だなぁ。


「それじゃ当日は上手い事戸成と一緒に行動できるようには協力するから、後はともちゃんが自分で頑張って」


「えー?!当日も一緒に手助けしてくれるんじゃないのー?!」


「俺が一緒にいたら2人っきりに慣れないだろ。そこはともちゃんが自分で頑張らないと」


「2人っきり?戸成くんと?うーん、そっかぁ、えー、でもタローいないのぉ」


 不満げだが、そもそも付き合いたいと思うならあとはともちゃんが自分で頑張らないとと説き伏せる。


「そっかー、彼氏彼女になるってそう言う事だもんねー。うーん、そっかぁ」


 尚も文句を言いたげだったので、話を変えるべく少し気になってたことを聞い照る事にする。


「ところでともちゃんは戸成のどこを好きになったの?」


「顔!!!!!!!顔がいい!!!!!!!!!」


 早いなおい。しかし確かに顔はいいよな、わかるわ。


「あとー、イケボだし、性格いいし、お金持ちっぽいしー?」


 意外に俗物っぽい理由で苦笑してしまう。でも女の子が誰かを好きになるって結構こういう理由なんだな。


「――後、何か時々影がある事かなー?」


 おっとそれは気になるぞともちゃん。そこんとこ詳しく、と聞いてみる。

 弥平仕込みの雉尾さんの悪評にもぶれなかったり、昔俺が色々あったときも人の本質を良く見抜いていたので、ともちゃんの人を見る目はそこそこ信用している。蟹沢の時も弥平の時も戸成には助けてもらったしね。


「なんかね、いつも優しいし、皆の輪の中心にいるでしょ?でも、凄く寂しそうにしてるような、つらそうにしているような感じがするの。そういうのをみたらね、私、胸がぎゅーってなったんだよ!」


 寂しそう、か。ふうむこれ以外と結構重要な事が聞けたんじゃないのか?

ともちゃんの恋路はさておき、戸成には何度も助けてもらったし個人的には仲良くしたいという気持ちもある。

 クズを感知する俺の直感がなんともいえない微妙な反応をしてるのも気になってるんだよなぁ。とありあえずは、ドブネズランドで親睦を深めてみようかな。

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