第17話 新旧あねき合戦ぼこぼこ
舞花ちゃんを家に送り届ける際中、舞花ちゃんがやけに絡んできた。
「綺麗な先輩たちでしたね」
「ずっとおっぱいに挟まれて嬉しそうでしたね」
「大きい方が好きなんですか?」
ずっとジト目の舞花ちゃんの“スゴ味”に俺もたじたじになったしまったけど、俺は悪くねぇ!!……筈。
「なんだか大変な事になってきましたね。
……以前、桃園君にスクープの気配がします、って行った時の事覚えてますか?やっぱり私の直感当たってましたね」
「そう言えばそんな事もあったね。ごめん、舞花ちゃんも巻き込んじゃってる」
俺に関わらなければ舞花ちゃんが弥平に目をつけられた理する事もなかったと思うと、申し訳ない気持ちになる。
「何を言ってるんですか、私が勝手に首を突っ込んだんですよ!だからタロー君が気に病むことなんてないです」
首にかけたカメラを触りながらそう言って笑う舞花ちゃんが、くすりと笑いながら言葉を続けた。
「なぁに、撮れ高だけが全てじゃないですよ。もっと大事なものだってあります。―――それじゃタロー君、また明日」
そう言って分かれ道で舞花ちゃんと別れた後、もっと大事なもの、という舞花ちゃんの言葉の意味を考えながら、俺も帰路を歩くのだった。
それから何日かは舞花ちゃんの倉庫だったり、第二被服室に集まったりで先輩たちや舞花ちゃんと一緒にいる時間が多くなった。
時折、戸成がバスケ部に来てくれよと寂しそうな顔をしていたが、今の俺の状況で戸成と親しくすると戸成にまで飛び火しそうだったので、落ち着いたら顔を出すよと簡単に説明だけしておいた。
そうして集まっているうちに、ヒメ先輩たちには蟹沢事件についても聞かれたので舞花ちゃんと2人で結局事の顛末を説明した。
無茶をしたと呆れられ、次はそんな事をしないようにと釘を刺されもした。俺もそんな無茶はするつもりはないです、大丈夫です。
―――そんなある日の放課後の事だった。
休日に戸成君と出かけたいから作戦会議!作戦会議!というともちゃんに促されて一緒に帰る事になり、2人で下駄箱に移動していたところで、聞き馴染んだ声に呼び止められた。
「―――ともちゃん、そいつから離れた方がいいわよ。関わっていると、ともちゃんまで落伍者になっちゃうから」
そんな言葉を投げかけてきたのは雉尾さんだ。いやぁ、それにしても落伍者とはひどい物言いだな。
「落伍者……?何を言ってるの、まゆ姉」
ともちゃんもいきなりの事に困惑している。
「……桃園君、君さぁ、まだともちゃんに説明していなかったの?
あ、ともちゃんに未練タラタラでしがみついていたとかかな?なっさけないわねー。それとも黙っていればバレないとでも思っていたの?何にせよどうしようもない子ね、みっともないわぁ」
散々な言われようである。
というかですね、そもそもそんな事を言われる理由を聞かされてもいないのに一方的に言われて、はいそうですかとは言えないっすよ。
「雉尾先輩。この間もお話ししましたが、そんな風に言われるのは心外です。何か理由があるなら言ってほしいのですが??」
言われっぱなしでも拉致があかないので努めて冷静に説明を求めてみる。
「蟹沢先輩とトラブルを起こして、先輩だけに責任を押し付けて自分は素知らぬ顔で通したんでしょう?皆言っているわよ」
へぇ、皆ねぇ……そういう話になっているのか。
当たらずとも遠からずという所には苦笑してしまうが、そこはそれで、少しずつ見えてきた気がする。
そもそも蟹沢が色々な犯罪を犯していたことは大なり小なり漏れ聞こえている筈だけれど、それが歪んで伝わっているのかな。いや、歪められて、か。弥平の事だから痕跡や証拠なんて残してないんだろうけど。
「何よ、黙りこくって気持ち悪いわね。ほら、早くともちゃんから離れなさいよ。さ、ともちゃんこっちにおいで?そんなクズと一緒にいるとともちゃんまでクズになるわよ??」
だが、豹変しているまゆ姉に引いているのかともちゃんは動かない。
「まゆお姉ちゃん、何か変だよ。なんでタローの事そんな風に言うの?あんなに仲良かったのに」
そう言って雉尾先輩から距離を取り、俺に寄って俺の袖を掴むともちゃん。
「それはそこのダニが――――」
雉尾さんの様子に怯えるともちゃんに対して、雉尾さんは俺を睨みながら何事かを言おうとする。だが―――
「何をお話してるのぉ?」
俺とともちゃん、そして雉尾先輩の話を遮った声をかけてきたのはアオ先輩だった。
今から帰るという様子だったけど、丁度通りがかったのだろう。
のんびり歩調でてくてくと歩いてきたが、俺も、雉尾さんも、ともちゃんもそんなアオ先輩の介乳……じゃなかった、介入にあっけにとられて止まっている。
アオ先輩は俺の前に出て背後に庇うようにすると、雉尾さんを見上げた。
「何かしら、青野さん?問題児の一年生がいたから、上級生として叱責していただけよ」
そう言ってこともなげに言う雉尾さん。眉根を詰めて不機嫌な感情を隠さない当たり、かなり態度が悪くなっていてあの優しかった“まゆ姉”の面影がない。
「えっと、問題児って、タロー君は怒られるようなことしたの?
何をしたのかな。教えてほしいなぁって」
「部外者が横から口を挟むのやめてくれる?青野さんには関係ないでしょ?」
アオ先輩の言葉に舌打ちしながら腕組みをして雉尾さんが答える。
「関係あるよぅ?……だってタロー君は私の可愛い後輩だもん。いまはまだ、後輩止まりなだけだけど」
「はぁ?何言ってるの?色ボケしてんの?こいつ皆に迷惑かけてるクズ野郎なのよ?」
アオ先輩の言葉に、嘲るように笑いながら俺を指さす雉尾さん。この短期間でえらく嫌われたものだなぁ、と心の中でぼやく。
「タロー君が何をどう、皆に迷惑をかけたのかなぁ?」
「知らないの?皆そう言ってるわよ。学校に迷惑かけた厄介な生徒だって。」
「皆がいったら、その通りなの?
誰かに言われたことを鵜呑みにして信じるんじゃなくて、自分が見て、聞いて、接して、それで感じた事で決めないと、だめじゃないののかなぁ?
誰かの言葉で決めつけて、もしそれが違っていたら決めつけられた人は、とっても悲しいし、傷つくよぉ?
だからそんな風に言っちゃだめなんだよ。言われた人がどう思うのかを考えて言葉は伝えないと駄目だよ」
「……何よ、青野さん、そいつと知り合って間もないくせに知ったような口利かないでもらえる?私は10年以上の付き合いがあるのよ」
「うん、私、まだタロー君とは知り合ったばかりだけど、タロー君が、頑張り屋さんで、お友達のために一生懸命になれるいい子だって事はわかったよ?
雉尾さん、そんなに長い間タロー君を見ていたお友達なら、そういう子だって知ってるんじゃないの?」
そんなアオ先輩の言葉にたじろぐ雉尾さん。口調はまったり、ゆっくり優しいけど言ってることはアオ先輩の方が筋が通っているように聞こえる。
「それにこんなに人目のあるところで―――いくら知り合いだからって言って、年下の子を怒るのって良くないよ?」
「何よ偉そうに、そいつはどうしようもない―――」
「雉尾さん。本当にタロー君が悪い事をしたって、自信をもって言える?
絶対絶対、自分の言っていることが正しいって、間違いないって、言える?
そんな風にタロー君を責めるのって、もし間違っていたら、ごめんなさいじゃすまないんだよ?」
さらに感情論で話を続けようとする雉尾さんの言葉を遮るアオ先輩、ふわふわしているようで一歩もひかないあたりアオ先輩つよい!……と思ったけど両手はスカートの横を掴んで、足もぷるぷる震えている。
おっとりして、人と対立するような性格じゃないアオ先輩が、そんな風になってまで引かずに頑張っていてくれることに胸が熱くなってしまう。
思いがけないアオ先輩の登場で成り行きを見守っていたが、これ以上は自分で、と思ったところで、雉尾先輩が憎々しそうに顔をゆがめた。
「わけわかんない。きもちわるい」
「あっ、まゆお姉ちゃん?!行っちゃった」
分が悪いと判断したのか、言い返すことが出来なかったのか、雉尾先輩が踵を返して走り去っていった。そういって雉尾さんの背中を見ていたともちゃんだが、少し逡巡するそぶりを見せた後、
「タロー、なんかまゆお姉ちゃん変だよ。私追いかけてみる……タローがそんな変な事するはずないもん!」
そう言って、また連絡するね、と言って雉尾先輩の去った方を追いかけていくともちゃん。
……最近は戸成くんの件で我儘放題してるけど、ともちゃんの中では俺はまだ信用に足る存在みたいで、それが少し嬉しかった。
結局、その場には俺とアオ先輩が取り残されてしまった。
「は~、どきどきしたよぉ」
そう言ってアオ先輩はどきどきばくばくと胸を押さえながら、顔中に汗を流していた。やっぱり相当無理してたんだ…。
「雉尾さんってあんな風に怒るんだねぇ、ツンツン角が生えて鬼みたい」
そう言って両手の人差し指を角に見立てて髪に当て、ポーズをとるアオ先輩。おどけてみせているが、怖かったんだろう。
「すいません、あと、かばってもらってありがとうございます」
お礼を伝えると、ぽんぽんと俺の方を叩いてくるアオ先輩。
「ううん、先輩だから当然だよぉ。大丈夫だよぉ、タローちゃんがいい子だって知ってる人は、きちんといるからねぇ」
ぽわわーと笑うアオ先輩に、不覚にも涙が出そうになる。
「わぁ、かなしいの?大丈夫だよぉ、よーしよーし。ねぇ、タロー君。今日は、私といっしょにかえろっか?」
やさしく俺の手を取るアオ先輩。俺はアオ先輩に手を引かれるまま、学校を出るのだった。
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