第16話 残されていた怪しい手がかり
詳しい話は改めて話す事にして、皆で放課後に第二被服室に集まる事になった。
……正直、その日の午後の授業は気もそぞろで正直集中できなかった。
放課後になり約束の場所に向かうと、俺が一番最後だった。
「すいません、お待たせしました」
「気にしない、時間決めてたわけでもないし。それより―――」
改めて舞花ちゃんを加えてさっきの話の続きをする。
「うちの実家は鬼柳会っていう企業グループでさ。それで、弥平の父親の支援者でもあるのよ」
鬼柳会!凄い名前が出てきたな!!!!
満足会ともよばれてる『この程度じゃ満足できない』をモットーに色々な業種を手広く傘下に持つ、旧財閥系の巨大な企業グループだ。
遡れば中学の歴史・公民の時間に名前が出てくるようなところじゃないか!
……成程、そんな大企業グループの娘が婚約者で、自分の父親の支援者というつながりもあるなら弥平からしたら絶対に機嫌を損ねてはいけない相手だ。
いずれ自分がその権力を手中にできるのならとでも考えて、今多少の不都合も目を瞑るのだろう。
「そう言う事だったんですね。だから弥平は鬼塚先輩に強く出れない」
無言で頷く鬼塚先輩。
「ただ、女の勘っていうのかな。初めて会った時からいけ好かない男だったから気を許す事はなくて、最初からずっとあいつには警戒していてさ。
婚約自体は家同士の思惑もあるし子供の私からは強く言えなかったけど……あいつには気を許す事なんてできなかったし、あいつが裏で手を引いていそうな案件の、庇える子はこうやって匿ってきたのよ。
毎回証拠が掴めないし、歯がゆい思いもして、手が届かなかった子もいるし」
そう言って哀しそうな顔をする鬼塚先輩。
さっきの鬼塚の態度、俺の状況、舞花ちゃんの扱い。あと、雉尾さんの豹変。色々な事がかっちりとかみ合った気がした。
「ウチはこんな性格だからさ、フツーに弥平に色々言っちゃって、そっからハブられとたところをヒメに助けられたんだー。まー、そのお陰でヒメとマブダチになれたんだけどね」
ウェーイ!と中指と薬指を曲げながら手を顔にかざしてキメっとポーズをとる赤崎先輩。うーん、赤崎先輩は明るいし裏表なく言っちゃったんだろうなぁ。
「私はぁ、誰もいないところで弥平先生に身体を触られたりしてぇ、それで、触られるのは嫌ですっていったんだけど、仲間外れにされるようになっちゃったんだよぉ~」
そう言ってションボリしている青野先輩。いや普通にセクハラじゃんそれ!訴えたら?!あぁ、毎度証拠も無くて封殺されてしまうのか。本当にゲスだな弥平。
「アオはこういう性格だからさぁ、人のいないところで馴れ馴れしく触られて、で、勇気を出して訴えたけど証拠も無かったし誰にも相手にされなかったんだよ。
あげくに噂を捻じ曲げられて逆に弥平に言い寄ったなんて言われてさ……あ、ウチはアオとは昔からの付き合いだし、ウチも弥平ムカついてたしでアオが言っていること本当だなってわかったから、アオを信じない奴らにふざけんなし!って言ったりしたけどウチだけじゃ駄目だった」
赤崎先輩はそう言って、その時の事を思い出してか肩を落とす。それで赤崎先輩経由で鬼塚先輩が庇ったのか。
「そんな事ないよぉ、アカちゃんが信じてくれたから、私うれしかったよぉ」
そう言って赤崎先輩を慰めている青野先輩。赤崎先輩と青野先輩は仲がいいようだ。ここに百合の塔でもたてようか。
「で、アカを通じてアオとも友達になって、アオへの嫌がらせもピタッと止まってそこからは私とアカとアオと、もう一人で一緒にいるようになった、ってワケ」
そんな―――ここにいない―――もう一人が蟹沢に傷つけられて、その蟹沢を俺が潰した、と言う事を教えてくれた。
情けは人の為ならずなんていうけど、これが人の縁というものなんだろうか、不思議なものを感じる。
しかし弥平、ゲスの極み教師って感じだなぁ。健全な高校生活を送る為にもなんとかしたいところ、
そして鬼塚先輩や赤崎先輩、青崎先輩についてもなんとなくわかった気がする。
「わかりました。いろいろ教えてくれてありがとうございます。だから鬼塚先輩はギャルやってるんですね」
そんな俺の言葉に、鬼塚先輩と赤崎先輩、青野先輩が驚いたような顔をする。
「なんでそう思ったのか聞いても?」
「え、だって弥平につまはじきものにさせられた人たちを束ねている事に説得力をもたせるなら、自分がそうであってもおかしくないようにみせいけないからですよね?鬼塚先輩、言葉はギャルっぽいけど鬼塚先輩からは責任感とか真面目さを感じるんですよね、姉御肌なのはもともとだと思うんですけど」
そう、ギャルっぽい見た目だしそういう雰囲気を見せてるけど赤崎先輩のようにウェイウェイしてないし、ね。ところどころを無理してキャラ作ってる感じがする、……ともちゃんに失恋してからは、前よりもっと人の人となりをよく見て考えるようになった気がするけどそれが良いのか悪いのか。
そんな俺の言葉に、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしている鬼塚先輩。
「―――すげー、タロー名探偵じゃん?!ヒメがこういうカッコしはじめたのってウチらと絡みだしてからだし!」
「わぁ、タロー君凄いねぇ、飴ちゃんあげるね♡」
そう言って赤崎先輩からはバシバシと背中をたたかれ、青野先輩からは飴ちゃんを口に押し込まれた…あ、いちごみるくの飴だ。美味しいよねこれ。そんな2人の言葉からも、俺の予測が当たっていたようだ。
「でもそう言う風に人の為に矢面に立てる、ってのってすごくカッコイイと思います。―――だから俺は鬼塚先輩の事を信じます。そういう人、俺は好きですよ」
呆けていた鬼塚先輩だったが、そんな俺の言葉に、顔を真っ赤にする。
「す、すすすすすす、好き?!な、何恥ずかしい事いってんのよ!一年坊が生意気なこと言って!もう!」
そういって慌てているこれはちょっと素の鬼塚先輩っぽいな、ははは。
「えぇ~?!タローくぅん、私は?わたしは~?私はすぎじゃないの~??私はタロー君がすきだよぉ、ふえええん、悲しいよぉ~」
そう言って腕に抱き着いてきて、めそめそしはじめる青野先輩。
俺の腕が完全に胸の谷間に収納されてしまっている!でかい!!ゲス教師が下心を出すのも納得のスタイルである、いや、いけない!色即是空、立ち去れ煩悩!!我が心は不動!!うおおおおおおお健全一如ッッ!!しかし感情豊かでぽわぽわした先輩である。
「青野先輩も優しくて、なんだかおひさまみたいで可愛いと思います。赤崎先輩は一緒にいると元気がでますしね、先輩たちと知り合えてよかったです」
「ふ、ふーん?見る目あるじゃんタロー」
赤崎先輩はドヤ顔でてれてれしている。この人も大概面白い人だよなぁ。
そんな風に3人の先輩にやいのやいのといじられたが、それまで静かに話を聞いていた舞花ちゃんがそう言って話しかけてきた。
「先輩方も、お話しいただいておありがとうございます。どうして私がこうなったのか、よくわかりました」
そんな舞花ちゃんの言葉に、苦笑しながら答える鬼塚先輩。
「いいって。もう弥平もアンタにはあれこれいったり変なちょっかいは出してこないと思うけど。それと、私もタローって呼ばせてもらうけどいい?」
勿論、と答えた俺に頷きながら先輩が続ける。
「ただ、心配なのはタローの方かな。私に近い男子、ってだけじゃなくて昼休みに会った時点で弥平はかなり―――タローを敵視してたから。まだ絡んだり裏で何かやってくるかも」
そういって申し訳なさそうにしている鬼塚先輩だが、正直それは想定の範囲内だし覚悟はできている。 やると決めたら腹を括ってやるしかないのだ。
「そこは大丈夫です。これでも男の子なんで」
そう言って笑う。ただ、やられっぱなしでいるわけにはいかないから何か反撃のきっかけが欲しいんだけれど――――
「そこはこちらも手がないわけではないです」
そう言う舞花ちゃんに、俺も3人の先輩も驚いて舞花ちゃんの方を見る。
「実は蟹沢から盗み出し―――オフン、入手したパソコンのデータはあれからも調べていたんです」
そう言ってパソコンを操作し始める舞花ちゃん。
「え、そうなの?」
舞花ちゃんの言葉に驚く俺。蟹沢を院にINしたからといってまだ他にも出てくるかもしれませんしね、と言う舞花ちゃん。
確かに……というか舞花ちゃんに頼りっぱなしで情けない。あと、何やってんのアンタ達、と言外に言っている鬼塚先輩からのジト目はとりあえず気にしない事にする。
「その中でいくつか気になるファイルを見つけたんです。
一見すると学校行事のデータをまとめたようなもので、恐らく同じものを警察も見てると思うのですが、学校のトラブルとか行事とか予算配分だとかそう言うものだとしか思わないような、つくり自体はごく平凡な表データです」
そう言ってパソコンの画面をこちらに見せる舞花ちゃん。
それは、生徒会、保健委員、風紀委員、etcと言ったいくつかの委員の名前や、予算配分や、ちょっとした一言メモもかかれた表データだった。
「でもこの表ちょっと変なんです。
学校に存在しない委員会もあるし、数字もぐちゃぐちゃなんです。
一言メモのところにかいてある使用申請が出されている教室も学校にはない教室が時々あるんです。これって不自然だと思いませんか?」
そんな舞花ちゃんの言葉に、俺も鬼塚先輩も首を傾げる。
赤崎先輩はよくわからないのか両手で手をウェイウェーイとしていて、青野先輩はぎゅう、すりっ……とぴっとりくっついてきている。青野先輩の体温がぽかぽかしてあったかいナリィ……いや、それはさておき。
「……本当だ。
保健委員と厚生委員って変な風に別れてる。
厚生委員なんて聞いたことないよ。それに貸し出し教室、2年は2-Hまでしかないのに2-Iになってる。横のメモの13時?授業中じゃん。何か変だよこれ」
鬼塚先輩がそう言いながら不思議そうにしている。普通の人であれば作る時にコピペ間違えたとか打ち間違えたで済む話だが、“あの”蟹沢がそんな凡ミスをするとは思えない。
――――そして、蟹沢を潰してから俺への敵視をはじめた弥平。
蟹沢が残していたこの表は思ったよりも重要な何かの手がかりではないのだろうか?
そんな事を考えながら暫く皆で表を見ていたが、結局何もわからなかった。
ちなみにさきからずっと青野先輩は俺を腕を掴んで離さずぴったりくっついているけど、凄く懐かれてしまった。
それと、鬼塚先輩は自分の苗字が実はあまり好きではなく、他の先輩たちのようにヒメと呼んでほしいと言われた。赤崎先輩、青野先輩もアカ、アオと呼んでほしいと。ヒメ先輩、アカ先輩、アオ先輩。良い先輩たちと知り合えたなぁ。
結局、その日はもう夕方で下校時刻も差し迫ったのでその日は切り上げて帰る事にした。
「あ、そうだアンタ達スマホ出しなよ。連絡先交換しよ」
そう言ってヒメ先輩がスマホを出してきたので連絡先を交換する。
「それならウチとも交換する系っしょ」
「2人ともずるーい、私ともメッセージ交換しよ♡」
スマホに綺麗な女の人の連絡先が3件も増えてしまったぜ。
今日もまた慌ただしい一日だったなぁと思いつつ、先輩たちとは校門で別れて俺は舞花ちゃんを家まで送るのであった。日がおちてきているのに女の子一人帰らせたらいけないからね。
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