第14話 ゲロ以下の匂いの教師
「―――なんで弥平?」
コホン、という咳払いの後、鬼塚先輩が俺の真意を探るように聞いてきた。どう答えるか迷ったが、正直に思っている感情で答える。
「生理的に受け付けないんですよあの先生。なんか胡散臭いなって、まぁ勘なんですけど」
そんな俺の言葉に首肯し、吟味するようにしばらく考え込む様子を見せる鬼塚先輩。
「ねぇ、タロー君。そんな事より、私とラブラブしようよぉ?その方がぜったいいいよぉ?ひとつしかお姉さんじゃないけどぉ、いーっぱい甘えていいからぁ」
そう言う青野先輩がひっつき虫のごとくくっついてくるが、まだ出会ったばかりなので…と丁重にお断りする。だが俺の言葉に反して、と俺の腕を掴む力が強くなった。……青野先輩は震えている。やはり弥平先生には何かあるのだろうか。
「いやー、キミ、チャレンジャーすぎっしょ?辞めときなって、弥平とかマジヤバだよー?」
……赤崎先輩が背中をばしばしと叩いてきてちょっと痛い。
そんな俺達のやり取りを眺めていた鬼塚先輩が、ため息を零してから―――意を決したように口を開く。
「―――弥平は大半の生徒に受けが良い教師だけど、アイツは自分の気に入らない生徒には冷たいよ。
そして自分の気に入らない生徒を裏で色々な手を使って排除しようとしてくる。
……アイツに睨まれたら厄介だよ。
退学に追い込まれたり、学校でつまはじきにされた子だって何人もいる……されていたって子も含めてね。だから変に関わらない方がいいよ」
“されていた”、というのは退学に追い込まれたという事だろうか、酷い話だ反吐が出るね。
「そんな人が教師やっていていいんですか?その方が問題な気がしますけど」
「アイツ自身は優秀な若手教師だしね、それに父親が県教育委員会のお偉いさんなんだよ。
同じように母親はPTAの役員やってる。
だからアイツは親の権威をかさに好き勝手が出来るんだ。そのあたりはネットとかで調べてみると弥平の名前が出てくるから自分でも調べてみるといいよ。
何より弥平は加害しても問題がない生徒を見極めたうえでやる、蛇みたいに狡猾な奴なんだ」
―――なんだよそれ、腐ってんな。
「だから校長たちも弥平に対して甘い……というか取り入ってる。目をつけられるよりは媚び売って出世した方が得だしね。完全に権力でスクラム組んでるのさ」
聞いてるだけ不快になる話すぎるんですが、それは。
というか蟹沢の件といいこの学校終わってるから、一回学校の上層部全部洗った方がいいんじゃないのぉ??
「でもそこまでわかってるなら弥平先生を辞職させたりはできないんですか?」
「そこがアイツの汚いところ。
アイツは直接自分で手を下さない。……周りの人間を使って徐々に攻撃して追い込むんだよ、それも証拠を残さないように。
――特に弥平自身の関与につながるような証拠は絶対に残さない。
アイツは教師の立場と信用を使いながら言葉巧みに人の思考を誘導する。
アイツに騙されてる奴らはそもそも騙されているという自覚すらないんだから。
それに証拠がないまま訴え出てもむしろ訴え出た側が注意される始末。本当に厄介な奴なのよ。
今話してることも、今まで見聞きしてきた話や出来事からの推測でしかないところもある。だから信じるかどうかは桃園、アンタに任せるけど」
この鬼塚先輩は嘘を言うような人じゃないし、正直な人なんだと思う。
最後の言葉から、この人が言っていることは信じていいような気がした……もちろん、裏取りや調べることは続けるけれど。
そして今の話でひとつ、線が繋がった。雉尾さんのあの豹変、雉尾さんは弥平に憧れていてたから何か吹き込まれたんじゃないだろうか?なんとなく見えてきたぞ。
「弥平って気に入らなくなったり、弥平と対立したりする滅茶苦茶ねちっこくなるからね。ウチは他の人のいないところで『俺の事を好きにならない人間は邪魔なんだよ』とか言われてめっちゃ敵視されてまじキモかったし。
あーもー、最終回直前に首が折れる音でも鳴らして退場しろって感じー」
赤崎先輩は何かがあったのか、思い出し怒りに拳を握りしめている。
「うんうん、そうだよね。私の時は周りに人がいないときとかだと私の胸とかをじーってみてくるし。こう、ねっとり、じーって!あ、タロー君はいっぱいみていいからね?触る?ふかふかだよぉ?」
さっきからくっついたままの青野先輩が離さないぞといわんばかりにギュウギュウとくっついてくるんですがその柔らかさは健全な青少年には毒です。
「そう言う事は親密な関係の人達がする事だと思いますので遠慮しておきます」
「わかったよぉ、じゃあもっと仲良く……親密になろうね♡」
とんでもない事を言いいつつも素直に引きさがる(?)青野先輩。本気で言ってるのかな?深く考えるのはよそう、今はそんな事より弥平の事だってばよ……!!
「わかりました。色々教えてもらってありがとうございます。
それと、気を悪くしないでほしいんですが―――だから先輩たちはここに集まって……いや、“島流し”されたんでしょうか」
そんな俺の言葉に、鬼塚先輩がぴくり、と眉を動かす。
「此処までの話と、先輩たちの態度を見ればわかります。弥平に何かされたんですか?」
そんな俺の言葉に、静かになる先輩達。
「何、探偵気取りってわけ?アンタに関係ないでしょ」
鬼塚先輩が腕を組みながら俺をじろりと睨んでくる。―――けど、ここで引くわけにはいかない。
「探偵気取り、ですか…そんな立派なものじゃないけどそんなところです。
今、友達が同じ目に―――島流しにされているので。
あと多分、今の話の通りなら俺ももう弥平に敵視されてます」
友達が同じ目にあわされている、と言った事と、俺も弥平に敵視されているという言葉に、険しくなりつつあった鬼塚先輩の顔つきと態度が軟化したのを感じる。
「はぁ?!それ早く言いなさいよ!」
「すいません。でも確証がなかったんです。今の話を聞いて確信に変わりましたが」
そんな俺の言葉に、鬼塚先輩と赤崎先輩、青野先輩の3人がまた顔を見合わせている。
「友達って女の子?そこどこ?ウチちょっと迎えにいくし」
「だよねだよね、あぶないよぉ。私も行くよぉ」
「―――桃園、案内しな」
3人のきびきびとした様子に驚くいているうちに、鬼塚先輩は椅子から立ち上がりさっさと歩いていく。判断が早い!!
「行くよ、3秒で支度しな!」
「30秒もないじゃないですかやだー」
そんな事を言いながら、鬼塚先輩を筆頭に4人で舞花ちゃんのいる所に向かことになった。
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