第13話 鬼ヶ島?ギャルヶ島
プリンを食べ終わってから舞花ちゃんと雑談していると、日が暮れてきたので今日は御開きになった。
お会計の時には舞花ちゃんが2人分出そうとしたけど、そもそもが俺がきっかけだからと2人分だしたら舞花ちゃんの分も払った。
舞花ちゃんがなんだか申し訳なさそうにしていたが相談に乗ってもらったのでここは譲れないところ。
それでも気にしていたので、今度は舞花ちゃんにご馳走してもらおうという事で決着したので、ここにはまた来よう。
そんな話をしていたからか、店を出る時に同じタイミングで入ってきた人とぶつかってしまった。
「すまんな、坊主。怪我はないか」
白いスーツに、同じように白い中折れ帽を被ったイケオジだった。衝突した勢いで思わず後ろに転倒しそうになるが、後ろで驚く舞花ちゃんの声にここで倒れたらまずいと踏ん張ったところを男の人に掴まれる。
「すいません」
「いや、俺が不注意だった。……だがよく堪えたな」
にやり、と笑う帽子の奥の目元は優しかった。俺が舞花ちゃんにぶつかるまいと堪えた事を見ていたようだ。ロックスターのようにもみえてカッコよさのなかに威圧感を感じるけど、見た目より怖い人じゃないのかもしれない。
「探偵さんこんにちは」
「探偵さん?」
舞花ちゃんの言葉に俺が聞き返すと、探偵さんと呼ばれた白服のイケオジがふっと笑った。表情や一挙一動が全部かっこいいんですがそれは。
「元気にしているようだな、小天狗の娘。そうだ坊主、俺はこの街で私立探偵をしている。これも縁だ、何か困ったことがあれば頼ってくるといい」
そう言って白いスーツの探偵さんは胸ポケットの名刺入れから名刺を差し出し渡してくれたので受け取る。
それから舞花ちゃんを家に送っていくことになったので2人で話しながら歩いていた。
さっき会った人は舞花ちゃんのお父さんの知り合いだそうで、街の人の困りごとを解決したりして頼りにされているらしい。
そういえば舞花ちゃんの家まで行くのは初めてだけれど、舞花ちゃんの家は広くて立派な平屋のお屋敷で、俺の家からもそんなに遠くない場所だった。
「それじゃあ舞花ちゃん」
そう言って舞花ちゃんに背を向けて歩く。……雉尾さんの態度の急変は気になったけれど、マスターに言われたこともあるし明日から少し調べてみるとしよう。
そして翌日の昼。
放課後に動くことを考えつつご飯を食べようとしたところで誰かが俺を呼んでいるというので廊下に出ていくと知らない女子“達”がいた。リボンの色からすると上級生、二年生だろうか。
「やっほー、キミが『桃園太郎?』」
「わぁ、可愛い男の子だねぇ。飴ちゃん食べる?」
ウェイウェーイとピースしながら話しかけてくる前髪に赤いメッシュを入れ栗色の髪を後頭部で束ねたノリのよさそうな女子と、軽くウェーブをかけた亜麻色の髪を裾で結んだ垂れ目の女子だ。ゆるふわぽわんとした喋りでこちらはどことは言わないけど雉尾さんに負けず劣らずでかいので目のやり場に困る。
どちらも雰囲気は違うが、身だしなみも着崩し方もお洒落で所謂『ギャル』って雰囲気を全開にしている。素敵な美人の先輩方だけど俺になんぞ??
「ちょっといーい?ウチらについてきてほしいんだけどー」
「えへへぇ、お姉さん達についてきてねぇ」
ゆるふわギャルさんはそう言って俺の腕をしっかりと捕まえる。腕を組んでいるようにみえるが、ゆるふわさんの二の腕と豊満なお胸の“圧”に俺の腕が固定されている。これは胸バンドならぬ胸バインド……柔らかいはずなのに動けない!
俺は見知らぬ上級生にドナドナと拉致されることになった。
そんな二人に連れて行かれた先は“第二被服室”と書かれた部屋だった。校舎の端にあるから知らなかったけどこんな部屋あったんだなぁ、知らなかった。
部屋に入ると、背後でドアが閉まる音がする。
「ヒメー、『桃園太郎』を連れてきたよー」
「見てみて、この子なんだよぉ、かぁ~わいいねぇ。ちゅっ」
腕を捕らえたゆるふわさんに、どさくさに紛れて頬にチューされる。
「何するんですか?!というか俺に何の用なんですか、ジャンプしても零れる小銭もありませんよ」
そうやって通された部屋の奥では、丸椅子に足を組んで座っている金髪をサイドポニーにしたギャルの――リボンの色からするとこの2人と同じ2年生の―――先輩がいた。
「カツアゲじゃないって。ふーん、アンタが桃園太郎?まぁ、悪くないかな…。私は2年の鬼塚姫耶瑠(おにづかきやる)。よろしくね」
腕組みしながら品定めするように見られて、とんでもない美人なのとその容赦ない視線の圧に緊張してしまう。
「どうも、桃園太郎です」
「強引に連れてきてごめんねー。ウチは赤崎夏紀(あかさきなつき)、よろよろー」
「私はぁ、青野霧子(あおのきりこ)だよぉ、タローくぅん」
俺を連れてきた2人の先輩もそう言って自己紹介してくれた。
「宜しくお願いします?あの、俺達初対面ですよね。何で連れてこられたんですか?」
そう言って首を傾げる。尚、現在も俺の腕は青野先輩の胸バインドに捕獲されているので動けない。サイズでいけば雉尾さんの方が大きいけれど青野先輩はかなり小柄なので大きさ以上に大きく見える気がする。お尻もこの中だと一番大きいのでは無いだろうか。カッターシャツの胸の下の位置をハイウエストベルトでしめているので余計……えっちだ……。
「あー、そうだなぁ。なんていえばいいんだろ」
モデルでもやってそうな位美人の鬼塚先輩が、どう言ったものか、というように言うのを悩むような、迷うような様子を見せる。
「んふふぅ、えっとねぇタロー君、お礼にぃ、私たちと―――あ、私だけでもいいけどぉ、イチャイチャしなぁい?」
俺の腕を捕獲している青野先輩がとんでもない事を言う。
「ファーッ?!?!?!」
突然のわけのわからない提案に頭がパンクしてしまう。美人局かな?!
「えっとねぇ、私ならオッケーだよぉ。そう言う事はしたことないけどォ、タロー君可愛いし、いいかなって♡」
ぽわぽわとハートマークを出している見ず知らずの先輩にどういう事かと頭の処理能力が限界を越える。
「落ち着いてってばアオ。なんていえばいいかな。私たち、アンタに借りがあるのよ」
そう言って鬼塚先輩が言葉を選びながら話してくれる。
「借り、ですか?でも俺、先輩たちと何も接点ないですけど」
「―――アンタでしょ、蟹沢潰したの」
スッと目を細めて鬼塚先輩が視てくる。蟹沢といえば前生徒会長のポルノ野郎だ。今は少年院にシューッ!超!エキサイティン!されてるはず。
「いや、あれは俺の力でやったわけじゃ」
舞花ちゃんの協力あってこそだし、なんなら戸成にも助けてもらったし。俺がやっつけたわけじゃないので何とも言えない。
「明確に蟹沢を潰そうとして動いたのはアンタでしょ?
いろんな噂が流れてるけど、私達は噂なんて信じないタイプなんだよね。
事情があってアンタの事色々調べさせてもらったよ―――一年が蟹沢と問題起こしたって事と起きた事の経緯は大体わかったけど―――アンタは明確に、蟹沢を潰すために問題を起こしに行ったでしょ」
お見通し、とでも言うような視線が刺さるようだが、意図が読めない以上適当に誤魔化す。
「何の事だかわかりま千円」
そんな俺の反応は織り込み済みなのか、喉を鳴らして笑う鬼塚先輩。
「ま、そう言うと思ったけどね」
言いながらすらっと長くて足を組みなおすが目のやりどころに困る。鬼塚先輩は仕草ひとつひとつがセクシーで様になっているけどスーパーモデルって言われても疑う人が居なさそう。……ちなみに場をなごます為の俺の渾身のギャグは滑った。カナシイー。
「…私たちの友達の浅黄って子がね、蟹沢に酷い目にあわされたんだ」
あー、成程、だんだん話が見えてきたぞ。
この先輩たちの友達の一人は、あのポルノ野郎の被害者だったのか。
で、俺が(無茶をして)蟹沢をなんとかしたからそのお礼を言おうとしたんだろう。青野先輩がトンデモない事をいうから話がややこしくなってしまったけど恐らくそんな所だと、思う。
「それなら別にお礼を言われるような事じゃないですよ。偶然、たまたま、俺がボコられて逮捕された蟹沢先輩が変態ポルノ野郎だったってだけです」
あはは、と笑うが、鬼塚先輩はじーっと俺を視てから、
「そ。アンタがそう言うなら、そう言うことにしておいてあげる」
とりあえずそう言うことにして貰えたみたいだ、納得はしてなさそうだけど。
「えぇー?!タロー君私とイチャイチャしないのぉ?」
ショックを受けたように震える青野先輩。そろそろ腕を離してくれませんかね?
「アオがしたいなら止めはしないけど、なんでそんなにその子気に入ってるワケ?」
そう言って鬼塚先輩は不思議そうにしている。
確かにそれは俺も知りたい。何で俺は青野先輩に気に入られてるんだろう。不思議だ。
「この子かーわいーよねぇー♡」
「確かにー、なんか男子っていうかたぬき顔の女子って感じだもんねーわかりみー」
ぴっとりくっついて離さない青野先輩と、そんな俺達を指さしてケラケラ笑っている赤崎先輩。この2人はマイペースだなぁ。
「そういうのは本人の意志でお好きにって感じなんだけどさぁ。でもまぁ、何か困った事とかあるなら頼ってくれていいよ。これでも私たち顔広いし」
そう言う鬼塚先輩の言葉に、ふと閃くものがあった。
「あ、それじゃあ―――弥平先生の事で、何か噂話とか、気になる事とか聞いたことありますか?あれば教えてもらえたら嬉しいです」
そんな俺の言葉に、3人の先輩たちがぎょっとしたように顔を見合わせていた。……何かあるのだろうか?
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