第11話 クソ彼氏に下る天罰

 その後、駆けつけた警察によって会長―――蟹沢はドナドナされた。


 俺も病院に運ばれた後に警察で事情聴取され、(俺のホモゥ……ホモゥ……疑惑については伏せたうえで)会長が悪事をしているようだったのでそれを追及していたらボコられた挙句に性的な恫喝を受けた、という話をした。

 蟹沢は、俺が誘ったからと喚いていたみたいだが、幸いにもレコーダーの録音もあったので蟹沢の詭弁と判断された。なんか完全にハニトラになってしまったな。


 舞花ちゃんや戸成も警察に事情聴取されたようで、舞花ちゃんだけでなく巻き込まれただけの戸成もその時の状況を説明してくれたのも蟹沢の容疑の裏付けとなった。

 その際に証拠品であるPCの中のデータ等も警察に渡したが、それはまた別件で書類送検されたり、起訴になるだろうとの事だった。そっちは俺は直接の被害者じゃないもんね。


 尚、警察からは危ない事をしすぎだとかなりこってりと絞られた。

 こんな無謀な事をして何かあってからでは手遅れだ、子供が自分で何とかしようとせずに警察に相談してくれ、ときつくお叱りを受けたが 本当にそう思ったのでこんな無茶は辞めよう。

 ちなみにうちの両親にも同じようにかなり叱られた。反省してます!


 ―――そして、会長……蟹沢は退学になった。


 一応、自主退学となっているが実際には退学だ。

 漏れ聞こえた話によると余罪、というか他にも本当に色々とやっていたらしく、なんでも女の子に怪しい薬や睡眠剤を飲ませたりとかもしていたらしい。警察が深堀したらもう真っ黒だったようですってよ!


 実際問題、俺への暴力事件だけだったらせいぜい停学レベルだっただろうけれど女の子絡みの事件は普通に犯罪だったからね。

 他にも組織的なパパ活に関わっていた疑惑や、色々な余罪がノンストップで出てきたらしく蟹沢と対峙している時に思った“藪をつついて出てきたのは文字通りに八岐大蛇”だったので後になって戦慄している。

 蟹沢の実家は病院で、蟹沢が使っていた薬は実家の病院から手に入れていたのではないかという事でそっちにもガサ入れが入るらしく蟹沢の家はこれからどんどんまずいことになるようだ。

 悪い事したら天罰が下るってヤツかな。人間コツコツ真面目に生きるのが大事よ、本当にね。

 これから蟹沢は幾つもの案件で書類送検とか起訴されるだろうし、被害者も名乗り出て訴えていくだろう。学校に来ている場合じゃない、というか学校に来れる状況じゃないしそりゃ退学しかないよね。少年院にシュート!超!エキサイティン!まっしぐらじゃないかな。


 学校も生徒会長が犯罪者だったことは寝耳に水のようだったが、現行犯、かつ余罪の証拠も掘ればじゃぶじゃぶという状況では箝口令も隠ぺいのしようもない。

 暫くはTVの取材の対応に四苦八苦したり、学校の周りではマスコミもといマスゴミが生徒に話を聞きにきたりもあったが、世間一般からしたら小さなニュースだったのかメディアに取り上げられたのは一瞬ですぐに元通りの学園の風景が戻ってきた。


 ちなみに俺の家にも蟹沢の両親が被害届を取り下げてくれと示談に来たが、高慢で高圧的な態度だったらしくブチ切れた両親は門前払いで追い返したとの事。

 親の背を見て子は育つっていうもんねぇ。

 

 そんな風な様々な事後処理が終わり学校に戻った、が……


 ――――俺は学校で少し浮いた存在になった。


 入学早々あの蟹沢会長とトラブルを起こしたヤバいやつ、とか言われたり、会長を退学に追い込んだと言われている噂を聞いたときにはゲンナリした。

 尾鰭をつけて広まった噂で、廊下を歩いていてもヒソヒソと噂話をされてしまう事がままある。人の噂も七十五日、というけど早いところ風化されて欲しい。こういうの学校側でなんとかしろよと思わなくもないが教育者っていざとなると事なかれ主義、なぁなぁ主義でごまかしてすませようとするんだよなぁ。嫌だねぇ。


 そんな中でもありがたかったのが、戸成がクラスの皆や親しい奴に関しては、俺の身の潔白を訴えてくれた事だ。


 「桃園は会長の悪事に気づいて問い詰めただけの被害者だから!」


 戸成がクラスでも信用のあるトップカーストだったことと、会長の拿捕現場に直接関わっていたことが追い風だった。

 幸いにも戸成が潔白を訴えて回ってくれた人達の中では“性欲を持て余して男も女も関係なくなった会長に襲われた可哀想な被害者”という事で気にせずいつも通りに接してもらえたり、可哀想な人扱いされたりはしても概ね受け入れられているようになってると思う。逆に何人かは興味を持って根掘り葉掘り聞いてくる奴もいたけど。


 あきらは少し気まずそうにしていたが、とりあえず元気そうだった。

 時折俺に何か話しかけようとしては躊躇しているようだが、今は自分の気持ちを落ち着けたり自分の事を優先してくれればいいと思う。

 何か話そうと思ったら、その踏ん切りと元気があるときに話をしてくれればいいさ。

 本当はあきらを巻き込まずに解決したかったけど、Hな自撮りのこともあるし大なり小なりあきらにも話が行っているだろう。

 …せめてもの救いは警察や学校のの矢面に立たされるのがあきらじゃなくて俺になった事だろうか。


 やっぱり俺は物事を思うようにまとめれる程チートな奴じゃない。

 物語の中の主人公みたいに、なんでもばっちり円満に解決、なんて力があればいいけど悲しいけど、頑張って身体張っても俺にできるのはこれで精一杯だった。けど、得たものもある。


 ―――まず、戸成と仲良くなった。


 あれから戸成が、何があったのかを聞いてきたので会長が悪い事をしていたからこれ以上被害者を出さないように追求しようとしていた、という話をかいつまんで説明した。戸成には助けられたので色々と個人情報に関わるところは伏せつつ説明を舌。

 そんな話をしたら戸成は不思議な―――尊く眩しいものを見るような目で俺を視てきた。なんでもできると思ってたのにそんな顔するんだな、とちょっと驚いた。


「凄いな、桃園って」


 どこか羨むように言うので、どうだろう、お前みたいなもっと出来る奴なら上手に解決しただろうしなぁ、と笑ったが、戸成は複雑そうな表情をしていた。


「改めてさ、こんな事言うのも変だけど……俺と友達になってくれよ」


 そんな戸成と握手を交わしてからは俺は桃園ではなくタローと呼ばれるようになった。

 戸成は執拗に、自分の事も下の名前で呼んでくれというけど違和感があり、それはまたいずれ……としておいた。戸成はすごく不満そうだったが。


 「ごめんなさい、タロー君。私が出した案のせいで」


 舞花ちゃんは自分のせいで俺が怪我をしたと凹んでいたけれど、言い出しっぺは自分だし結果オーライと言って聞かせておいた。舞花ちゃんの行動のおかげであきらを会長の魔の手から逃がすことが出来たんだから感謝こそすれ責める謂れはないのだ。


 ともちゃんはというと俺の怪我を見たらご立腹ののご様子。

 

「なんで私の頼みを放っておいて会長の悪さなんかおいかけてるの?意味わかんない!

 しかも怪我してるとか大丈夫なの?安静にして早く元気にならなきゃだめだよ?

 戸成君とのキューピッドしてもらわなきゃなんだからね??」


 まぁ、相変わらずの唯我独尊ではあるんだけれど立腹の裏で凄く心配された。通学の時は俺の鞄ももっていこうとするけど別にそこまでダメージおってないし俺より一回りも小柄なともちゃんに鞄もたせるとか絵面がクズすぎるからそれはお断りした。

 なんか小学生相手にしてる気分になるけど我儘放題というか幼児退行というか、相手にするのが大変である。一応、心配してくれるだけ情は残ってるんだと思いたいところ。

 戸成とは仲良くなったしなんかそのうち皆で出かける機会とかともちゃんとの接点も作れるでしょ、多分。


 「おはようございます!さぁさぁタロー君迎えに来ましたよ!」


 そうそう、変わったことと言えば舞花ちゃんが朝迎えに来るようになったことかな。なので朝は2人で登校するようになった。そんな舞花ちゃんを、ともちゃんがなんか不思議な……意味深な目でジーッと見ているのが気になるが……。

 とりあえず、あきらをめぐる会長との騒動は、無事解決(?)したのだった。

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