第6話 さらば初恋

 次の日、俺はともちゃんと中庭で昼食をとっていた。というのも昨日の夜にともちゃんから、弁当を頼むメッセージが来たのだ。


 俺は両親が仕事に忙しいのも有り、自分の弁当を自分で用意することが結構あった。

 ともちゃんの分も弁当を用意すること自体はついでだからいいのだが、ともちゃんは好き嫌いが激しいのでそうなるとおかずを少し考えないといけないのである。お陰で昨日の夜は色々とメニューの変更でバタバタしたので、今はちょっと眠い。


「ねー、タロー。いつになったら戸成くんと仲良くなれるいいアイデアを出してくれるのー?」


 プクーと頬を膨らますともちゃんは、かなりご機嫌斜めで不満げだった。


「俺もまずは戸成と友達になるところから始めないといけないしなぁ。一朝一夕とはいかないよ」


「なにそれーなにそれー、もっとやる気出してよ!!青春は有限なんだよー?!」


 そんな事を言いながらじたばた暴れるともちゃん、足の動きに合わせて豪快にスカートがめくれ上がりしましまのおぱんつが丸見えだ。


「ともちゃん、あんまり暴れるとスカートが捲れるって」


「イーヤー!やだやだやだ、早くなんとかしてよー!!」


 駄目だ、人の話を聞いてない。ヤダヤダ星人になってしまったともちゃんを宥めるのは難儀だぞ……とため息をついたところで、声をかけられた。


「よう桃園!こんな所でメシ食ってたのか」


 そんな時に話しかけてきたのは今まさに話題にしていた戸成だった。声からにじみ出る爽やかさ、さすがイケメンだ。

 戸成が来たからかともちゃんは即座に座りなおしていた、判断が早い。


「よう戸成。お前も昼か?一緒にどうだ」


 折角なので戸成も飯に誘ってみようと声をかけると、申し訳なさそうにしている。


「あー、いや俺は今さっき食べ終わったところだ。……おっ、なんだ美味そうな弁当じゃないか!いいなぁ俺からあげ好きなんだよな」


 そういって俺達が食べている弁当を見て目を輝かせる戸成。好物は別腹、わかるよー。


「そうなんだ!と、戸成君もひとつどう?私が作ったんだけど!!大した物じゃ、ないけどよければ!!」


 そんな事を言うともちゃん。

 エーッ?!百歩譲って自分が作ったって嘘つくのは女の子の見栄もあるだろうからスルーしておくけど……ともちゃんさぁ、人が作ってきたものを大したものじゃないとかいうなよな。次から作ってくるのやめるぞぅ?

 そんな事を考えている間に自分の分の弁当箱を戸成に差し出すともちゃん。

 からあげさんを2つずつピックにさしてミニからあげ棒にしているので手に取って食べやすくしてあるのだが、戸成はそのミニからあげ棒を一本取って食べた。


「ウッマッ!!パネッ、マジパネッ!なにこれめっちゃ味しみていてウマいじゃん!」


 そう言ってもらえると作った側は嬉しいよね、味も手間をかけて仕込んでるだし。タローさん特製からあげ棒さんだ、フハハ美味かろう!!


「そ、そう?ほんとササッと作っただけの簡単なものだけど…」


 謙遜してるのかそう言うともちゃん。いやそれかなり手間がかかってるんだぞぅ??


「いやいやこれマジでうめーよ!またわけてくれよな!」


 そんな上機嫌の戸成の様子に、ともちゃんはまんざらでもない様子でいいよー!なんて返事をしている。

 まぁ状況が状況だしともちゃんには何も言うまい。

 恋は盲目というけど、なんか爆速でともちゃんが我儘に……子供みたいになっていっている気がするなぁ……恋心がゆっくりと逃げ出していくのを感じる。

 100年の恋も一時に冷める、なんて上手いこと言ってるよねぇ……それでも幼馴染としての情はあるけどね。

 ともちゃんはそんな事思ってもみないんだろうけど、人の愛情は無条件で与えられ続けるものではないのである。アディオス初恋。

 そうして戸成と少し喋った後、戸成は先に戻ってやりたいことがあるからと先に戻って行った。


「それじゃ桃園がバスケ部に入ってくれるの待ってるからなー!」


 戸成はそんな事を言いながら、手を振って去って行った。

 そんな俺と戸成の様子に、じとーっとした目で聞いてくるともちゃん。


「え、バスケ部に入るって何の話?」

 

 そうか、それも説明しなきゃいけないんだっけ。

 戸成と仲良くなるきっかけにバスケ部の見学に行った話をする。大人しく聞いていたともちゃんだが、話が終わるとうんうんと頷きながら口を開いた。


「じゃあはやくバスケ部に入って戸成君と仲良くなってきてよー。

 タローの大事な幼馴染がこーんなに悩んでるんだよ?もっと頑張ってよね、上手くいかなかったらタローのせいなんだから!」


「いや、俺は俺で予定も都合もあるからそう簡単にバスケ部に入るとか決めれないよ」


 俺には俺の都合もあるので、そう言ってともちゃんの叱責を受け流す……ともちゃんは納得していないのか不満顔だが。


 ―――今はあきらの事、生徒会長の蟹沢先輩の事もある。


 ともちゃんには申し訳ないが、可及的速やかに動くべきはあきらの事の方だと思う。もし蟹沢先輩に噂通りの面があって、あきらになにかあってからでは遅いのだ。


「えー?なにそれ意味わかんないよー。私のお願いを最優先してよタローゥ」


 むすーっと頬を膨らませて不機嫌になるともちゃん。

 高校生になって随分落ち着いたと思ったけど、子供の頃にもどったみたいに我儘になっている。ううむ、困ったなぁ。

 そうやって駄々っ子と化ししてしまったともちゃんを宥めながら、昼休みの終わりも近づいてきたので2人で教室に戻った。

 丁度教室に入ったタイミングで、ピコン、とスマホが音をたてたので見てみると、舞花ちゃんからだった。


『昨日の件です。放課後、合流できますか?』


 この言い方だと何か動くのだろうか?それなら一も二もない。


『大丈夫。何時にどこで?』


 俺は迷わず、端的に返信するのだった。

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