第5話 女友達の彼氏には悪い噂があるらしい
舞花ちゃんとの話もひと段落氏、ファミレスを出て少し歩いたところで何かに気づいた様子の舞花ちゃんが足を止めた。
「あれは生徒会長?」
そんな声と共に首から下げたカメラを操作しようとする舞花ちゃん。……流れるように写真を撮ろうとするのはブン屋さん(自称)っぽいが、カメラを操作した後に首を傾げて困った様子を見せる。
「あやや、動きません」
呻きながらカメラをあれこれと触りはじめる舞花ちゃんだが、今しがた視ていた視線の先をたどると、大通りを挟んだ向かいに背が高い男子の後ろ姿が見えた。
……隣には、パーマをかけた亜麻色の髪を腰まで伸ばした女子の姿もある。
私服だからというのもあるけど、後ろ姿を見る限りどちらも見覚えがないから多分俺とは面識がない人だろう。
しかし生徒会長っていったらあきらの彼氏じゃなかったっけ?そんな人がなんでまたあきらじゃない女子と歩いてるんだろう。知り合い?家族?生徒会の仕事だろうか。
「タロー君を追いかけてたたときにタロー君に壁ドンされた衝撃でしょうか?
カメラが不調になっちゃいました……決定的な瞬間を取り逃すとは不覚です!」
そう言って舞花ちゃんはグギギ……と悔しそうにしている。
「……何があったの?」
「今、生徒会長と思しき男子があの隣の女子とラブホテルから出てきたんですよ。ほら、あの建物です」
……ラブホテル?穏やかじゃないわね。
舞花ちゃんの言葉によく見てみれば、そこは確かにラブホテルだ。でもあきらは生徒会長から告白されて付き合いだしたって言っていたよな。どういう事だ?
「二股?」
思わず零した俺の言葉を、舞花ちゃんは聞き逃さなかった。
「え、どういう事ですかタロー君!詳しく、詳しく教えてください!私じゃなきゃ聞き逃していましたね!!」
ガバッと顔をあげて両肩を掴み揺さぶる舞花ちゃん。しまった、迂闊な事を言ったか?!
「あの生徒会長に纏わる噂話も私が追いはじめたネタの一つなんですよ。
生徒会長と付き合った後の女子が不登校になった、とかそう言う噂話もあって―――」
「待て待て、なんだって?その話こそ詳しく聞きたい」
今度は逆に俺が舞花ちゃんの肩を掴んで揺さぶる。
「わっ!タロー君?」
急に真剣な反応になってしまったので舞花ちゃんがびっくりしている。あ、しまったつい――
「何あれみてみてー、学生カップルかなー?」
「わー、アオハルー?いいなー」
通りすがりのOLっぽいお姉さんたちにくすくすと笑われてしまったり周囲の注目を集めてしまったので、気恥しさもあって2人で一旦近くの公園に移動することにした。
……去り際、改めて生徒会長たちがいた方を見るとそこにはもう2人の姿は無かった。
寂れた公園に就いた俺達はブランコに腰かけ、キィキィと音をたてながら話の続きを始める
「生徒会長の蟹沢柿久先輩、3年生です。
文武両道成績優秀、ルックスもイケメンで先生たちのおぼえも良い優等生ですが―――まことしとやかに囁かれてるんです、悪い噂も。
女の子を弄んで捨てた、とか、怪しいサイトの運営をしている、とかそんな話が。
勿論、出来る人だからやっかみだって一蹴する人もいます。
蟹沢先輩がそんな事するはずない、って思ってる人が生徒の大半みたいですし。
それに生徒会長はやっぱ立場が強いですから、新聞部の先輩たちは下手な事をして予算を減らされたらって腰が引けちゃってました」
「―――成程、そんな噂があったのか。それで、さっき蟹沢先輩が女子とラブホから出てきた、と」
「はい。さっきのは蟹沢先輩だと思います。
ここの通りはうちの学生もほとんど来ませんし、別のファミレスを皆使っていますからね。人が来ないと踏んでここで“ご休憩”されたという可能性はあります。でも表向きは蟹沢先輩は彼女がいないフリーになっていて、今も彼女はいないはずです」
―――何だって?何だそれ。あきらは蟹沢先輩から告白された、って言ってなかったか?まだその話が広まってないだけだろうか。
「私は、噂が流れるのって何か理由があると思います。
だから蟹沢先輩がそう言う事を言われるようになったのにも何かの原因があるんだと思って調べ始めていたんですが、さっきラブホテルから出てきたのは蟹沢先輩だと思います」
「それは、やっぱりなんか違和感があるな」
さっきの男子が蟹沢先輩だとしたら、あきらの言葉とかみ合わない。
二股をかけられている?それとも―――。
人の恋路だしわざわざ首を突っ込むのをあきらは望んでいないかもしれないし、ただでさえともちゃんやまゆ姉からの恋愛相談もある。
だけど、悪いなあきら……俺はお節介なんだ。
友達が悪い男に傷つけられる可能性があるのなら、ほんの少しでもあるのなら―――放っておくわけにはいかないんだよなぁ!
「誰か、お知り合いが蟹沢先輩に関わってるんですか?」
遠慮しがちに聞いてくる舞花ちゃんに静かにうなずく。
「わかりました、深くは聞きません。それじゃあ―――蟹沢先輩の事、一緒に調べてみませんか?」
そう言って差し出された右手を見る。
「極力人に迷惑をかけないようにしていきたいんだけどいいかな」
「努力します!よろしく、タロー君」
「あぁ、宜しく舞花ちゃん」
これがもし俺の勘違いだったら、後であきらには説明してきちんと詫びをいれなきゃな―――、と思いつつ、俺は舞花ちゃんと握手を交わすのだった。
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