第7話 女友達の彼氏を探れ、114514。


  待ち合わせの場所は生徒会室にほど近い空き教室だった。

 鍵は開いているようで、周りに一目がないのを確認してから教室に入ると舞花ちゃんは先に中で待っていた。


「ごめん、お待たせ?」


「ううん、今来たところ…ってこれだとデートの待ち合わせみたいじゃないですか」


 そう言って2人でははは、と笑い合ったあとで、スッと真面目な顔に戻して話を続ける。


「―――で、何をするつもりなんだい?」


俺の質問に、舞花ちゃんは無言でポケットから小さなUSBメモリを取り出した。スモーククリアカラーのUSBで、何かステッカーも貼ってある。


「それはUSB?」


「はい。―――会長はいつもノートパソコンを持ち歩いて使っているんですが、これを使って会長のPCの中身をひっこ抜きます。

 会長は生徒会活動がある日はそれが終わった後、大体30分から1時間程度生徒会室で活動しています。

 その間はパソコンをつけっぱなしにしているのは以前から生徒会室を窓からのぞき見してたので確認済みで、もちろんパスワードも盗さ……チェック済みです。

 なので、タロー君には生徒会長を連れ出すのをお願いしたいんです。その間に、私がパソコンのデータをコピーします。」


「それって犯罪じゃないのか?」


「いえ、情報だけなら窃盗罪にはあたりません。あくまで中のデータをコピーするだけです。それを売却したりするわけでもありませんし―――多分、大丈夫です」


 え~、本当でござるかぁ?と思うが深く考えるのはいったん横においておこう、そうしよう。


「勿論、タロー君が気乗りしないのであれば無理強いはできません。他の方法を考えますが―――今日は、今、生徒会室に会長が一人、絶好のチャンスなんです」


 そう言う事か。なら迷ってる時間は無いじゃないか。


「わかった。協力するって言ったのは俺だしな。やるよ、任せろ」


 もしかしたら、手をこまねいている間にあきらが何かよからぬことに巻き込まれるかもしれない。後悔先に立たず、覆水盆に返らず、ついでに兵は神速を尊ぶ。ならやるっきゃないじゃないか!!


「そう言ってくれると思っていました!タロー君は友達のためなら無茶しますもんね」


「え?」


「あっと……いえ、そういうタイプにみえるなって思っただけです!ではこれを」


 そう言って舞花ちゃんからハンズフリーのイヤホンを渡される。そうだよなぁ、俺舞花ちゃんとはこの間が初対面の筈だし、俺の事知ってるはずないもんなぁ。


「スマホは通話中でつけっぱなしにしておいてください、これで連絡を取り合いながらいきましょう」


 そう言う舞花ちゃんの言葉に頷き教室を出て、生徒会室に向かってドアを叩く。


「こんにちは、生徒会長いらっしゃいますか?」


「―――はい、どなたでしょうか?どうぞお入りください」


 俺の声に対して、中から男子の返事が返ってきた。恐らく生徒会長だろう。


「失礼します」


 そう言って生徒会室のドアを開くと、確かに中は生徒会長1人だった。背が高く、髪も整えられたさっぱりとした雰囲気のイケメンだ。


「生徒会長おひとりですか」


 これは舞花ちゃんに伝えるためにあえて言葉に出したのだが、恐らく通じているだろう。

 ノートパソコンで作業をしているようで丁度良い。

 ここは作業中のままで強引に連れ出して、パソコンのデータを吸い出しやすくなるようにしよう。


「君は?初めてみる子だけど一年生かい?僕に何の用かな」


 そりゃそうだ、初対面の一年生の男子がいきなり訪ねてきたら誰だってそんな反応になるし、俺も同じような反応をするだろう。怪訝そうな顔をしているが、勢いで押し切るしかない。


「すみません会長、大変なんです。トラブルが起きまして、すぐに来てください」


 そう言って俺は会長に駆け寄り、手首を掴んで早足で歩きだした。


「何だって、トラブル?それは放ってはおけないが、待ってくれ、いま作業の最中で―――」


 流石生徒会長、見知らぬ生徒とはいえトラブルと聞いたら一応対応してくれるようだ。しかしここでパソコンを閉じられてはいけない。考えろ、考えるんだ桃園太郎!!いや、考えてもしょうがないから勢いで押し切れ!!


「一刻の猶予もならないような事態なんです!このままだと大変な事になってしまうかも―――」


 そんな俺の凄みに押し切られ、会長は作業を投げ出し俺に手を引かれるままに駆け足でついてきてくれた。

 途中何人かの生徒とすれ違ったが、皆会長に挨拶しながら俺を怪訝な目で見ている。

 正直ノープランで連れ出したが、稲妻のように閃いたアイデアがある。……これも友達のためだ甘んじて受けろ覚悟を決めろ桃園太郎…!!

 そうして生徒会長と共に校舎の外にある階段の踊り場に移動する。ここは周りからは死角になっているサボりスポットと聞いていたが、確かに他からは見えない。

 ここなら多少の恥ずかしい事を言っても大丈夫だろう。


「ここなのかい?その、トラブルが起きているのは―――何もないじゃないか」


会長はそう言って周囲を見渡しているが、ここで俺が何もしなければすぐに生徒会室に戻ってしまうだろう。


『今コピーを始めました!そのまま時間を稼いでください、お願いします!』


 耳につけたハンズフリーイヤホンから聞こえる舞花ちゃんの声に、腹を括る。

 男は度胸、なんでもやってみるもんさ!!なんかそんな台詞あったよね……、さぁ――――やらないか。


 さっきすれ違った男子生徒達が語っていた、一部でまことしとやかに使われているネットミームを思い出す。

 眼差しと目力に定評があり、ブラインド窓を背に座る黒いTシャツの男の姿を思い浮かべる。

 言え!言え早く!行動が止まったら会長は戻る。どんな言葉でもいいから放て、会長を止めろ。頼む動いてくれ俺の身体。先輩頼む、先輩、先輩、とってもビーストな先輩!!俺の背中を蹴っ飛ばしてくれ!!


「―――お前のことが好きだったんだよ!」


 俺は生徒会長を逃がさないように腕を掴みながらそう言う。


「えっ」


 予想しなかったであろう言葉に完全にフリーズしている生徒会長。そうだよね、そうなる。俺の誉れは浜で死にやがりましたーッ!!!


「わけがわからないよ……いや、何を言っているんだ、トラブルじゃなかったのか?!」


「暴れんなよ、暴れんな……!!」


 困惑している会長を宥めるように言うと、会長が怯え始めた。


「アイスティーしかなかったけど、いいかな?」


 鞄には丁度おあつらえ向きに未開封で飲んでないアイスティーがあったのでサッと出す。


「そ、それは飲むと眠くなる紅茶ではないのかい?!

 ハッ……トラブルってそういう?!そうか、君は僕に惚れてもう辛抱たまらんっ!!ってなってしまったという事だったのか!!いや、もちろんそういうものがあるのも知識としてしているし理解してはいるが―――日本には衆道という文化も古くから―――」


 俺は既に内心泣きたくなってきているが、生徒会長は動揺しながらもなんかいい感じに理解と誤解をループしてくれているので大変助かる。結果オーライだ!!俺の尊厳と引き換えだけどな!!


「いいよ!来いよ!」


 会長を逃さないように片手を掴んだまま迫真の演技を見せ、壁ドンする。そんな俺に、会長は完全に気圧されてしまっている。……まだか、まだなのか舞花ちゃん!正直もうどうしたらいいか俺にもわからないんだ!!!!!!


「ま、待ってくれ!突然そんな事を言われても困る!」


 会長がそんな事を言った瞬間、踊り場のドアが音を立てて開かれた。


「―――あきら?」


「猿渡君?」


 俺と会長の言葉がシンクロする。


「う、嘘……蟹沢さんと男子が踊り場に向かって走って行ったって聞いたから見に来た、んだけど、そんな、タローと蟹沢さん何してるの?!」


 突然の乱入者にフリーズしてしまった俺達のその様子―――会長の腕を掴みながら壁ドンしている俺と、赤面している会長の光景を見て、あきらが瞳を潤ませる。


「そんな、私、私っ、蟹沢さんに好きって言って貰えて、この人とならって、おもったのに、それなのにタローと、う、うわああああああん…!!」


 そう言って踵を返して走り去っていくあきら。


「あきら誤解だッ!!」


「ま、待ってくれ猿渡君?!」


 俺達の悲鳴が重なるがあきらの姿は小さくなっていく、

 いやいやいや、嘘だろお前この最悪の状況を見られた?!こんな事あるぅ?!どんな悪夢だよこれ!!!


『いけました!データの保存完了です、それで今データみていだんですけれど……これすぐにでもお話しした方がいいと思います!!昨日のファミレスで合流しましょう野獣先ぱ……タロー君!!』


 舞花ちゃん今俺の事なんか変な名前で呼ぼうとしたよねぇ?!オオン!アオン!


「すみません、つい熱くなりました!失礼しました!!」


「あっ、君ィ……?!」


 そう言って会長の手を放し、走り出す。

舞花ちゃんの言葉だと何か進展か発見があったようだけど、代わりに俺は色々なものを失った気がする、はっきり分かんだね。だって涙が出ちゃう……男の子だもの。ンアッー!

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