第7話 ライトと魔王

「....?」

真っ黒な空間

足元には少量の水が、あたり一面に広がっている

僕は死んだのか?

そう思っていた矢先に、後ろから声をかけられる


「・・・おはよう」

声のした方を向くと、真っ黒な空間ではあるが手が見える

恐らく声の主だろう

手からは火の玉が出されている

どうやら、その火の玉を灯りのように声の主は、使っているようだ

手から出ている、火の玉から徐々に前進してくる

手から始まり、次に足、その次に胴体、その次に顔と、全体像が明らかになる

正直驚いた

そこにいたのは自分と瓜二つの存在なのだから


「初めましてだな」


「誰だお前は?」

僕は、冷や汗を書きながら声の主に問う


「我は、貴様のもう1つの心だ」

「....心?」

「あぁ、貴様がこの世に生を宿した瞬間、同時に我も生まれたのだ」

意味不明なことを言われ理解が追い付かない


何を言っているんだ?


正直な感想だった


「理解が追い付かないか・・・ならば説明してやろう」


「あぁ、頼む」

こいつが何者かを突き止めなくては

今、僕の心はその一心だった


「貴様は“スキル“が無いと焦っていたな?」

「あぁ」

「我々は、そのスキルそのものなのだ」


「どういう意味だ?」


「では、スキルの能力から説明していこうか」

そう言い、僕の心を名乗る人物は指パッチンをする


水が広がり地面から椅子が出てくる

僕の記憶の中で、あの椅子は祖父の座っていた魔王の椅子だ


「まず、後ろを見ろ」

椅子に座りながら奴は言う


後ろを振り向くと、そこには様々な人が日常生活を行っている、まるで都のような場所だった


しかし、僕はあることに気付く

正直気付きたくなかった

気付いた途端


少し....というかだいぶ気持ち悪くなる


「気付いたか?あやつらと貴様、そして我は全て同じ顔だ」


そう、生活している人々、全員が僕の顔と瓜二つだった

「顔が、皆一緒ではあるが奴らと我には決定的な違いがある」


「....違い?」


「我という人格は貴様から生まれたのだ」

「ここはな、貴様の頭の中・・・正確には感情、心の中だな」


声の主は喋り続ける

「この“スキル”は、貴様の感情、人格を利用する”スキル“だ」


「自己紹介が遅れたな、我の名は....


――魔王だ


よろしく頼む」

「魔王....?」

「あぁ、貴様の主人格だ」

やはり理解が追い付かない

「このスキルを理解するには、このスキルの歴史を話さなくてはならない」

魔王と名乗る人物は、この“スキルの歴史”を話始めた


―――――――――――


その昔、強大な力を持っていた一人の男がいた


しかし、男は強大な力を封印しようとした


余りに強大過ぎるがゆえに、自身では扱えないと感じたからだ


封印する前に、男はあることを思った

いつか、この力を扱える人物が現れるかもしれない、この力が必要とされるかもしれない


そう思い、封印を解く方法も設けた。


封印された力、それこそがこのスキルだ


このスキルは魂のような物でな


この世に生を宿した瞬間に、このスキルの封印を、その時代で最も封印を解きや

すい奴の魂に入り込む


そして、そこでの魂で最も強い感情を主人格とした


このスキルを持っているものが死ぬと、次に封印を解けそうな魂に入り込む

その際に、前の主人格は消えない仕組みだ


そこからは繰り返し



――――――――――

「繰り返された結果、今ではここまで増え、人格達が心の世界で生活している」

「顔つきや体つきは、その際の主人格と一緒の顔になる」

「そして、封印した男の人格を第一人格とし、そこから様々な人格が派生していったのがこの”スキル”の歴史だ」

「つまり、このスキルは強大な力になる可能性があるってことか?」

「あぁ、封印を解ければの話だがな」


「このスキルの目標....ゴールは、このスキルを最終段階まで“覚醒”させること」

「ある程度は分かったが....」

少しの疑問が残る

「なんだ?」


「何故、人格ではなく魔王なんだ?」


魔王はフッと鼻で笑い「簡単な話だ」と説明を始める

「このスキルの第一段階、このスキルの使用条件は心の昂りだ、貴様があの忍達と戦い敗北した時、貴様の心は昂り、我を目覚めさせた」


力を欲しがる貪欲さ

奴らを殺すという復讐心

仲間を守りたいという庇護欲

生への執着心

人に対する怒り

自身の弱さに対する恨み

そして、自身も含めた絶望


「その他にもあったが、これら全てを総合しドロドロとした闇の感情を抱いた」

「結果的に、それが切っ掛けとなり心の奥底にいたお前、魔王の心が目を醒ましたってことか?」

「その通り、分かってきた様で嬉しいぞ」

魔王は、薄気味悪い笑みを浮かべる


「我を呼び出すには、貴様の心が負に満ち溢れなくてはならない、他の人格達はそうではないんだがな」

自分は特別だ、という風な面持ちで魔王は足を組む

「心が昂ると、それに呼応した人格が出てくる、そして貴様....ライトという人格を乗っ取る」

「はた迷惑な力だな」

冗談を言うと魔王は鼻で笑う

王の威厳という奴だろうか

「このスキルはな、進化が何通りも何段階にも枝分かれしているのだ、どの枝にするかは貴様が決めろ」

「ただ、どの進化の枝を選んでもこのスキルの強化に繋がる、安心して好きな枝を掴むがいい」

まるで全てを見透かしているような、こちらをためしている様な話し方をしてくる


「....分かった、何をすればいいんだ?」

「進化する方法は何通りもあってな、しかし、“覚醒”までの仕方は一通りしかない」

「それは?」

「それはな、我と人格の長達に貴様の力を認めさせることだ」

「人格の長?」

「喜怒哀楽である、喜び、怒り、哀しみ、楽しみ、こ奴等に貴様の力を認めさせなくてはならない」

「どうやって?」

「知らんな」

「そうか....」

やる事が山積みだ

「順序は逆でも構わんが、我も認めさせなくてはならない」

「・・・」

現状、僕はこいつより弱い

僕はこいつを、魔王に力を認めさせることが出来るのだろうか?

しかも、自分の主人格にすら認められないのに、他の人格達に認められるのだろうか?

――――――

「この話し合いは終いらしい」

「何故だ?」

魔王は椅子に座りながら人差し指で上を指差す

「じゃあな」



(次回は27日に更新予定です。ご意見ご感想お待ちしております)

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