第5話 運命の歯車
「忍はもう少し、忍ぶもんだと思ってたんだが....目立ちたがり屋もいるんだな」
僕は喋りながら、相手と自分達の戦力差を図る。
「あぁ、だって可哀想だろ?殺してくる奴の、姿が見れないなんて」
余りに分が悪すぎる。
相手との戦力差は、こちらが圧倒的に不利な人数と武力だった。
転移石は魔法を唱える詠唱時間が長くて、使えない、となると....
この状況を打破するために、僕は思考を巡らせる。
(リーダーを倒せば?)
(逃げれる可能性は?)
(スイだけでも逃がせるか?)
(誰から戦闘を仕掛けてくる?)
(この戦況で勝てる方法は?また、負けた際の算段は?)
様々な思考を巡らせていた。
しかし....
クナイが飛んでくる
スイの顔をめがけて
それを、僕はキャッチする
「おい、まだ考えて....」
僕が、言い終える前にリーダーの隣に居た、忍が僕に短剣を向けて、インファイトを仕掛けてくる。
「随分....卑怯じゃないか....」
いきなりではあったが、僕も刀を素早く抜き応戦する。
技術こそ強くはないが、圧倒的なパワーで圧される。
「....生きるか、死ぬか、殺すか殺されるかの状況下で、卑怯も糞もあるか?」
「ご最もだッ....な!」
インファイト中で、睨みあってた奴の腹を蹴り、上手くいなす。
(何だ....?)
(魔法を使ってないのに....)
自身の魔力が消費されていることに気付く。
「ライト様!」
スイの声で、無数のクナイが四方八方から、銃弾のような速さで投げられるのが分かる。
(....避けきれない!)
すると僕の目の前が真っ黒になる。
「スイ!」
スイがドーム状に体を変形させ、スキルを使い、身を挺して守ってくれる。
スライムは様々な特性を持っており、その一つとして、体を伸縮自在に変身させることができる。
「ライト様!作戦を練っていて下さい!私がその間、お守りしてみせます!」
「すまない!ありがとう!」
僕はスイに感謝する。
「何分ぐらい持ちそうだ?」
「ダイヤに鉱石化してるので、恐らく10分程しか持たなさそうです....」
と、スイは苦しそうに言う。
(スイのためにも早く考えなくては....!)
思考をまた巡らせる。
3分程たった辺りで、僕の真っ黒だった世界が明るくなる。
「スイ!」
驚いて辺りを見回すと、スイが力が抜けたように、ぐったりとして横たわっていた。
そこで、ようやく気付いた
目の前からクナイが飛んでくる。
僕は、そのクナイをいなす。
グサッ!
僕の横腹の部分に、刀が刺さっている。
「やはり、クナイに目がいったな?」
視界がグラつく。
「魔人は頭が良くて助かるよ、考えてくれるからな」
自身の魔力が、大幅に消費されている。
「頭が良いってことは、単純な作戦に引っ掛かりやすいってことだ」
動悸がする。
息が荒くなる。
「気付いたのか?まぁ、今更気付いたところで遅いのだが」
「お前の....スキルか....?」
全身の力が抜ける。
「あぁ、ご名答」
忍の男は続けて話す。
「今使われた武器、全て俺の能力から作り出したものだ」
もう魔力は残っていない。
「最初はよ、木を生み出すだけの能力だったんだが....スキルが覚醒してな、能力が“木の出来る事全て”に、変わったんだ」
「まぁ、要はよ?要は....俺の作り出した武器に当たると、魔力を大幅に消費する」
「それはまるで、木の根っこが水分を一気に、吸収するようにな?」
「木のクナイが堅かったのは、妖術で性質変化させたんだ、鉄と同等の堅さにな」
僕の魔力が大幅に消費されたのも、スイの計算が狂ってしまったのも、相手のスキルの特性を理解していなかったからだ。
僕は刀を、腹から抜かれ倒れる。
「終わりました」
「ご苦労、スキルで檻を作っておいてくれ」
「はい」
倒れて、うつ伏せになっていた僕に、忍の一人が跨がり、髪を持ち上げ、無理矢理顔を上げさせる。
「ほら、良く見ろ」
檻をみせられ、そこにスイが入っていく。
「おい、新人良く見とけ?」
リーダーらしき忍が、新人らしき奴に教育を始める。
「魔物ってのはな?基本、俺ら人間と体の作りが一緒なんだ」
「はい」
「だが、魔人は違う、魔人は魔結晶ってのがあって、それが心臓の役目だ」
メモを取りながらコクコク頷く
「魔結晶は一時間に一回、体の何処かにワープする、そうやって致命傷を避けようと、進化してきたんだ」
「その上、移動した魔結晶は自分で何処にあるか分かるし、魔結晶を破壊しない限り、少しずつではあるが、頭を切られようが腕を切られようが再生する、それが厄介だ」
「おい!」
顎で指示し、スイと共に檻の中に一人の人が入っていく。
「良く見とけ?....やれ!」
檻の中に居た奴は、刀を抜き、スイを
切った
「今、腹から下を切ったのだが、叫び声が聞こえなかったろ?てことは魔結晶は体の部位から遠いってことだ」
次に、刀は右腕を狙っている。
「やれ」
スイの腕が切られる
「ア゛ァァァァァ!」
スイの叫び声が、森の中全体に広がる。
「今叫んだろ?ということは魔結晶が近いってことだ」
「見分け方が二つ程かあってな、痛みを感じたと思った部分を集中的に攻撃するか、もしくは、戦闘中庇ってる部分を集中的に攻撃するんだ」
「おい!魔結晶の場所は分かったか?」
「はい、恐らく頭かと」
「よし、首から下は全部切っていいぞ」
「はい」
「正直、指名手配書の魔人君だけ殺れれば良かったんだが....スライムの魔人種が居たのは想定外....まぁ、新人教育もできたし今日は運がいい」
そう言いながら、忍のリーダーらしき男は、僕に近付いてくる。
「おい、良く見とけ?お仲間が死よりも辛い、痛みを経験しているところを」
そう言って、僕の目の前に耳栓を投げ捨てる。
「着けてやれ、せめてもの情けだ、声だけは聞こえにくくしてやる」
僕の上に跨がっていた男が、それを拾い、僕の耳に着ける。
そして....
スイの首もとに刀がいきよい良く
入る
叫び声は、耳栓を貫通する
「ア゛ァァァァァ」
痛みで、大量の涙を浮かばせ、顔を歪ませるスイの顔が見える。
耳栓が取り外される。
「安心しろ、あのスライムちゃんは、生かしておいてやる、再生し続けて、再生した所を切るんだ、スライムの体は高く売れるからな」
「使い物にならなくなったら、処分する、あそこまで可愛いと使い物にならなくなっても、売れるかもな....」
「まぁ、くたばるのは当分先だ、良かったな」
そう、言うと
僕の体にクナイを刺し、抵抗できなくなったところで、檻の前まで髪を引っ張りながら連れていく。
「さぁ、最後のご対面だ」
「おい、首も切れ」
「はい」
僕にスイの首元から顔までを切ろうとする
「た゛ずけ....ライ゛ド....ざま....」
スイが僕に目を向けながら助けの声を上げる。
スイの悲痛な、痛くて痛くてどうしようもない、そんな苦痛にかられた声が、僕の耳に届く。
「スイ!」
僕が叫ぶ。
「頼むよ!スイを逃がしてやってくれ!お前らの目的は俺だろ!」
そう伝えるとリーダーらしき男は笑う。
「あのな、こいつを逃がした所で他の奴に狩られて終わりだぜ?」
忍の仲間と思われる人間が話す。
「ここら一帯は、上級冒険者が多くてな、まぁ、生き残って逃げるのは無理だろうな....」
どうすることも出来ない僕を、僕自身....
恨んだ
「それでも....それでも頼むよ!延命でも何でもいい!スイを....スイを逃がしてやってくれ!」
そう伝えるも、忍のリーダーらしき男は、
「無理だ」と、そう僕に告げる。
どうすることも出来ない
こんな無能な僕を、殺したくなる
そして、スイの首が切られる
もう、壊れたおもちゃのように、動かなくなり叫び声もしない。
僕は、それを見て絶望を感じる。
僕に様々な感情が押し寄せる。
そして....
僕の中にある“なにか”が....
壊れた
この時から、僕の、いや、僕達の運命が大きく動き出す。
しかし、そんなことを知らない僕は、意識がなくなった....
「ス....イ....」そう呟いて
忍のリーダーらしき人物はライトを頬り投げ話す。
「さて、次はお前の番だ、お前は殺すぞ」
そう言い終えると、何かに気付いたように、ライトから距離をとる。
黒く丸い物が物凄い速さで、リーダーらしき男の横を通る。
その黒く丸い“何か”が、木に当たる。
木が消える
「おい!何が起きてやがる!」
宙に、我は浮く
「流石だな、距離をとるとは....頭を吹き飛ばそうとしたのに」
一人の忍が、我にクナイを投げる
それを首をかしげて躱す。
「さぁ、第2ラウンドと行こうか?」
(次回は2月23日に更新予定です。第2ラウンド開始!ご意見、ご感想の程よろしくお願いいたします)
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