第2話
――――バァン!
一発の銃声で過去の夢から目を覚ました。
ゆったりと重たい瞼を開き、見知らぬ天井から周囲を見渡して大仰にため息をこぼした。
「あー、昨日また違う場所に移動してきたんだったっけ」
重たくなる朝の気分におかされながらゆっくりとベットから足を下ろす。
さっさと支度をしないといつものように父からの叱りの声がくるのをわかっていた。
部屋着からトレーニング用ウェアに袖を通して着替えて汚く安いコテージから外へ出る。
「ようやく起きたか。今すぐ狩りの練習をするからさっさと顔を洗ってこい」
本来キャンプ地として使われている庭先で父が銃を片手に準備をせかした。
周囲を見渡してある一人の人物を探した。
「父さん、さんは?」
「もう訓練をしている。森の中で今はウサギでも追いかけてるだろう」
「ウサギねぇ」
今日の朝食はウサギ肉であるのが確定したのを理解しながら顔を洗面台で洗う。
背後から妙な気配を感じて拳を放つとその腕をぎゅっとつかまれて身体を抱きしめられた。
「やっぱり勇気はまぁだ甘いなぁ」
「アリスさん、急に背後から迫ってこないでください。それと抱き着かないでください。暑苦しいです」
「もう、勇気ってばやっぱり冷たいなぁ」
背後から抱き着いてきた如何にも存在すらその目を奪われそうなくらいのモデル並みのスタイル抜群の美女を突き放して、平静をよそおった冷たい対応をした。
その実は、彼女のような美女に抱きつかれでもした男としての自分が抑えが効かないところであるからだった。
いくら義理とはいえ彼女は姉であるということを忘れてはならない。
「それと、勇気ってばもう少し心を開いてくれてもいいんじゃない? あれから10年の付き合いになるのにいつまでたってもお姉ちゃんって呼んでくれないし敬語だし」
「これでも心を開いているつもりですよ。それに目上の人を敬う発言をするのは当たり前です」
「じゃあ、お姉ちゃんってくらいは呼んでくれてもいいんじゃない?」
「それは僕のプライドが許せないので」
「何よそのプライドって?」
「それは……」
言いよどむ。
(この義姉を異性として見ている自分がいるまではこの人を心から姉と呼べない)
なんて言えなかった。
「おい! 二人とも何をそこで話し込んでるんだ。さっさとこっちへ来い! 勇気はさっさと銃を持て」
「ごめんなさい、源蔵さん。今すぐ行きます」
父親からの怒声が聞こえ慌ててそちらへと向かい走った。
正確には義父ではあるけれど。
******
10年前のあの日、一人の両親に甘やかされて育てられた一人の少年、安生勇気という少年は人生のどん底を味わって、名前を変えた。
その名前は星城勇気である。
名前を変える理由に至ったのは言わずもがな、両親が変わり引き取られたに他ならない。
その両親といっても、引き取ったのは現在は妻を数年前に亡くした一児の子を持つ男性で名前を星城源蔵といった。
彼は有名なカトリック教会に努める神父でありつつ政府の職務にも努めるいわゆる国家公務員。
そんな彼に勇気が引き取られたのも源蔵が勇気の両親と知り合いだったためであり、勇気の両親が遺言で自らの身に何かあったときに勇気を頼まれていたからに他ならなかった。
勇気を引き取った源蔵は責任をもって勇気を育てることを決意したと同時にあらゆる真実と厳しい教育を施して身を守るすべを身に着けさせた。
自分の実の子と同じように。
その実の子である星城アリスは彼女なりに勇気を気に入って、姉としての存在をアピールして彼に必要に構っていた。
「あいもかわらず、あのバカ娘」
目の前でドックレースなる訓練を施していた。
ペイント弾の入った拳銃を用いて、犬役同志の人間が追いかあうという訓練方法。
ペイントが3発着弾したら負けというルール。
二人はこの森を縦横無尽に駆け回るが、森には源蔵自身が仕掛けたあらゆるトラップがある。
それは中には命の危険さえ伴うものでさえあるが源蔵にはそれを軽く超えてほしいという意思があった。
だから、撤去することもなく二人にそのもりをっけ回せていた。
「うゎああ!」
勇気は仕掛けてあった足掛けのロープの罠に足を取られ宙づりになるが腰鞘のナイフを素早く取り出しロープを斬り、地面へとうまく着地したがすぐそばにアリスが迫っていた。
アリスの銃弾は彼に向け発射されたが彼は素早くそれを横へと回避して、自らの右わきに挟んだ拳銃の引き金を引いてアリスに着弾させた。
「動きがよくなったな」
息子の成長に感心をしながら二人の次なる行動へと着目をすると同時にアラームが鳴る。
「二人ともストップだ」
二人が動きを止めてこちらへと駆け寄ってきた。
二人ともペイントが命中していた。
どちらも急所を外れている。
「今回は引き分けだ。勇気、今回はよかった」
「ありがとうございます」
「それと、アリス。お前は遊びすぎだ。本番でもし油断したらどうする?」
「なによー、私は本気だったよ」
「本気には見えなかったぞ。お前ならいつもはすべてよけているだろう」
「それは勇気が強くなったという証拠だよ」
「勇気は確かに強くなったがそれでもお前はまだ上だ」
源蔵のその叱りに文句があるようにふてくされたようにどこかへと言ってしまう。
「おい、アリス! まだこの後に術の訓練が……」
「私は一人でやるから!」
「アリス、遠くまではいくなよ」
困ったような表情をした勇気がこちらを見ていたことに気づく。
「なに心配はない。アリスはお前も知っているだろう。強い。だから、放っておいても問題はないだろう。夕方までには帰るだろう。それよりも勇気はこの後は術の訓練だ」
「この前の祓いの続きでしたよね?」
「そうだ。大丈夫か?」
「だいたいは覚えてますので大丈夫です」
「そうか。夜にはれっきとした本番を行うから覚悟をしておけ」
「わかりました」
息子の拳銃を預かって二人でコテージのほうへと歩いて戻った。
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