第363話 最終確認
▽第三百四十八話 最終確認
この準備期間、私たちは全力を尽くしました。
多くのNPC、プレイヤーたちが心のどこかで諦念しています。どうせジークハルトには敵わない。
だからこそ、掲示板などによればアトリは気遣われる立場にありました。
時折、ギルドなどに顔を出してみても、アトリがジークハルトに「蹂躙される」運命の幼女なのだ、と。
あの死神と呼ばれて恐れられるアトリが同情されているのです。
哀れまれている。
普通の人ならば、きっと傷ついたことでしょう。
しかしながら、アトリだけは違いました。他の誰かが哀れんできたとしても、たった一人、私が「勝てる」そう言ったから信じているようです。
私は現時点に於いても、じつのところアトリに「今勝てる」とは言いませんでした。
やはりジークハルトはどうやったって格上で。
必ず勝てるような相手ではなくて。
ゆえに私は断言してやることができません。
でも、いずれは勝てる。そう言いました。
アトリにとって、今がその時。
ならば、断言してやることのできない私は全力でアトリを勝たせられるように準備させるだけでした。
すでに準備は万端……とは言い切れませんけれど。
できることはやり切りました。
あとは結果を待つだけです。
▽
「なんや変や」
そう言うのは汗だくのドワーフ少女・メメでした。
アトリとメメはここ数日、一緒に訓練しています。互いに初戦が最強レベル……アトリはジークハルトに対し、メメはあのエルフ最強のユークリスですよ。
秘密特訓に付き合うのは、互いにとっての利益となります。
大盾を地面に突き刺し、ポーチからボトルを取り出して一飲みするメメ。喉を鳴らしての水分補給。グッと口元を拭い、
「アトリ、どうしたん? 不調か? 前のほうが強かったけど」
「すべては作戦通りなのだ……」
「なんやの、奥の手? うちにだけこっそり教えてくれへん?」
「教えても良いけど、どうせすぐに解る」
「まあ、それはそやな。けど、うちが勝ち続けたら見るの遅くならへん?」
「その時は実戦で見れば良い」
「……いじわるやなー! ま、うちが勝てるわけないけどな。うちは純タンクやで」
今回のトーナメント、すべての試合が同時に始まります。
つまり、他の試合を見たければ、さっさと勝つか負けるかせねばならない、ということでした。
メメは性能上、かなり持久戦になりますからね。
負けねばアトリの試合は見られないでしょう。基本、アトリのスタンスは速攻ですし。
メメも勝つつもりです。
口では軽いことを言いながらも、心が屈していないことが解ります。タンクというのは不利な状況でも倒れない者。敵がユークリスでもやることは同じなのでしょう。
メメが投げてきた飴をキャッチし、アトリが口の中へ放り込みます。それをころころと口内で遊ばせています。
「ま、うちらはもう友達や」
ぱん、とメメがアトリの肩を軽く殴りました。
アトリは避けることもなく、その叩きを肩で受け止めています。その時、生じた衝撃についてメメは違和感を持ったらしく、やや目を見開いてくつくつと肩で笑います。
アトリは頷きました。
「お友達」
「やるときは全力でやるけど、基本は仲間みたいなもんやろ、うちら。やから、うちだけはあんたが勝つに賭けさせてもらうわ……全額は賭けへんよ?」
「賭けたほうが儲かる」
「はっ! やる気やな。自分もうちに賭けてええで」
「それはしない」
「ひどい! 旦那はん、この幼女がいけず言うの!」
全力でジークハルトを仕留めましょう。
のどかな時は終わり。
明日からはジークハルトを含めた強敵との殺し合いです。本当に死ぬことこそありませんけれど、アトリの誇りを賭けた負けられぬ戦いではあることは真実。
目指すは最強の座でした。
―――――――
作者からのお知らせです。
本日より限定ノートにて番外編『
見なくても問題は皆無です。
IFルートを見ていなかったかと言って解らないネタなども本編には出ません。
だいたい月1くらいの更新にしたいなと思っていますが、テンション次第でなかったりもします。ゆえにどうしても読みたい場合は『鎖縛のアトリルート』が完結後に一気見することをおすすめします。
簡単に内容を説明すると「オウジンが介入しなかったのでアトリとネロが出会わず、アトリが魔教に入って、ネロとコーバスに敵対する」という感じです。
重ねて申し上げますが、読んでいないからといって本編への問題は皆無だと思われます。まあ関係ないからこその限定ノートですしね。
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