第25章 神器会談編

第245話 神器会談の前に

   ▽第二百四十五話 神器会談の前に

 あれから私たちは試練迷宮アモルヘイアに再アタックしました。

 次の試練は大したことがなく、そのお陰でたくさんのオリハルコンが手に入りました。パーティメンバーに配っても十分な量ですね。


 ただし、大型ゴーレム作りには不足しています。


 仮にメンバーに配らなかったとしても全然足りていませんでした。

 仕方がないので二メートルサイズに抑えます。メッキがまったくない大型ゴーレムというのは、かなりの予算とコネがなければ作れなさそうですね。


 一番の問題はゴーレムコアでした。


 セックの【錬金術】があれば、ゴーレムコアを錬金することが可能のようです。最下級をいくつもより集めて下級に、下級を中級へ、中級を上級へ、上級を最上級へ……ということが可能のようでした。


 失敗すればゴーレムコアは掻き消えます。


「数は居ますし……量よりも質ですね、このゲームは。最上級チャレンジをさせてみましょう」

「マスター」


 とセックは複雑そうな顔をします。


「完璧なわたくしが作ったゴーレムは完璧でしょうけれど、完璧なゴーレムが他にいたら完璧ではないのではないでしょうか」

「ああ、でも造形はセックのほうが良いですよ」

「……かんぺき」


 セックは並々ならぬ完璧への執着があるようです。

 おそらくオリハルコンを使った最上級ゴーレムを作れば、その戦闘スペックはセックを大きく上回ることでしょう。


 だってセックって粘土と私産の闇で作られていますし。


 素材としての格が桁違いです。

 その代わりにセックは人型としてスムーズに動けていますし小回りも効きます。人よりも一応は小回りが効いて動きやすいと思いますしね。


 生産やお手伝いをするなら、セックがもっとも適していることでしょう。


「とりあえず最上級ゴーレムコアがなければ意味がありません。作ってくれますか?」

「はい、マスター。試しましょう」


 我々は手持ちのゴーレムコアを錬金していきます。

 結果、ひとつも成功しませんでした。すべての上級ゴーレムコアが消失し、いくつかの中級ゴーレムコアだけが残りました。


「……今後ともゴーレムコアは課題ですね。あれでしたら冒険者ギルドに依頼として出しておきましょうか」


 ジョッジーノが優先的に集めてくれています。

 しかし、私たちくらいでなければゴーレムを集める意義は薄いです。依頼などがなければ冒険者はゴーレムコアをわざわざ冒険から持って帰ったりしないでしょう。

 この世界のゴーレムって便利ですけれど、とても優秀だとは言えません。下級ゴーレムってレベル低すぎますからね。


 生産を任せることは難しいです。


 理想のアトリエなどで品質を問わぬモノを大量生産させる分には便利ですけどね。スキルレベルが高くなければ意味のないお仕事などは、どうしても最上級コアが必要となってきます。

 その最上級コアがあっても、レベルは70と物足りなくはありますけれど。


 戦力としても信頼できる力はありません。

 数を揃えてようやく……というところはありますね。理想のアトリエがある私たちでなければ、数を揃えても置き場所がなかったりもするみたいですし。


 レベルアップしないことがゴーレムの弱点です。


 ずっと私を抱えていたアトリが首を傾げました。


「戦闘用ゴーレム、要る、です、か?」

「セックとロゥロ、シヲで足りているのは事実ですね」

「……ボク」

「アトリは大前提ですよ。言ってしまえばアトリが居れば十分ですしね」

「ボクが居れば十分。です!」


 これは気分の問題と言えるでしょう。

 作りたいから作る、これ以上の理由はありません。

 あとアトリ、セック以外の戦力があれば便利という面もあります。それこそダンジョン攻略をひたすら何度もしてもらう、ということも可能でしょう。


 ……オリハルコンで作ったら誘拐されて武器に作り替えられたりしそうですね。


「この件はゆっくり進めていきましょうか。少なくとももっとゴーレムコアが必須です」

「わたくしが冒険者ギルドに依頼を出してまいります」


 セックは綺麗なお辞儀をしてから、冒険者ギルドに向かいました。

 残された我々はといえば……


       ▽

 ここは第四フィールドの集落のひとつです。

 狼王族の集落……【王都フェンル】でした。

 山猫族の村とは異なり、じつに大きく発展しているようでした。魔法建築によって縦方向に長い、ビルのような建物がたくさん建築されています。


 最適最高率を求めていけば、どうしても建築物はビルの形になるのでしょう。


 この世界には【建築】スキルなどがあります。使える素材も魔法素材や魔物素材などがあるので、強度面については現実よりも上回っているようですね。


 そのようなビル街の中、高級ホテルの最上階にて私たちは宿泊しています。


 第四フィールドの帝王。

 狼王族【暴帝】ダドリーの計らいです。今回の会談は存在が発覚している全神器使い、それから第四フィールドの皇帝であるダドリーが参加者となっております。


 議題は「第四フィールドで封印されている神器について」です。


 どの国が所持するのか、という話になるのでしょう。

 基本は第四フィールドの誰かでしょうけれど、自国の利益になるかもしれないお話です。一枚噛んであわよくばを狙わぬのならば、今後、国として舐められてしまいますからね。


 意欲を見せることは国として重要なことです。


「よく発展していますねー、この街は」

「発展。です」


 リゾートホテルの最上階。

 ガラス越しに映り込むのは摩天楼の夜景。ふんだんに魔道具が作られ、なおかつそれが維持できているのでしょう。


「獣人はー」後ろのソファに倒れ込んでいるペニーが、顔だけ上げて言いました。「他の種族よりも単純ですからねー」

「どういうこと?」

「他の国でこの規模の発展を認めたらー、力をつけて謀反しかねませんー。あとドラゴンの襲撃もあるでしょ? けれど、この国は『負けた奴が悪い』ですから。クーデター上等、ドラゴン上等なので発展についての規制がありません」

「便利。他も真似すべき」

「一年で平均して、四つ以上の都市が滅びますからねー。めちゃくちゃですよー。山猫族みたいな獣原理主義なところなら長生きですけどー」


 この世界は油断すると個が国を相手取れるようになります。

 それを安易に許せば「国は成り立たず、同時、民は困る」ことになってしまいます。ですから、あえて文明レベルを維持している部分もあるようでした。


 ギースが暮らしていたスラム街のほうが発展していたのも、おそらくはそういうカラクリがあるのでしょう。ゴーレムや魔剣が作れる世界で、建物が作れないわけがありませんからね。制限されていた、と考えるのが普通でしょう。


 アトリとぼうっと夜景を眺め、成功者のような気持ちに浸っていると、豪奢な扉をコンコンと硬質な音が打ちました。

 ペニーがクッションに顔を埋め、面倒そうに欠伸を零しました。


「ギースさんですねえ」

「入れ」

「っすー」


 扉が開かれた向こう、パジャマを着たギースが居ました。

 ギースはスリッパをぺちぺち言わせながら、ペニーが横になっているソファの端にどかりと腰掛けました。


「姉御、ここ面倒ですぜ」

「?」

「俺様の部屋、さっきから引っ切りなしに美人局が着やがる」

「何を持たせてくれるの?」

「? そりゃあ、もちろん――」


 部屋の隅で体育座りしていたミャーが、突如としてギースの顔面に矢を射かけました。寝る前にも防御系アイテムを仕込んでいたギースは、ギリギリのところで防いだようでした。

 思わずギースがソファを蹴っ飛ばして立ち上がります。


「てめえ、いきなり何のつもりだあこら!」

「アトリ隊長の耳にくだんねえ情報吹き込むんじゃねえよ」

「はあ!? 美人局くらいでばしゃばしゃ騒ぐな、ど雑魚! 俺様のシマのガキなら生まれた瞬間には知ってるわ」

「アトリ隊長があんたのシマのガキに見えんのかよ?」


 バチバチと両者の視線の間だに火花が散ります。

 ソファを蹴っ飛ばされた勢いで吹き飛び、顔を床に打ったペニーが鼻血を流しながら言います。


「美人局というのは、己が肉体で男を籠絡し、言うことを聞くようにする女性のことを言いますよー」

「ペニー! 貴女を先に狩るべきだったっすか?」

「まあまあー? アトリ隊長は元々娼婦として売られる寸前だったみたいですしー、これくらいでしたら構わぬでしょう。危機から遠ざけることは性教育ではよくありませんよー。知らない間に出来ちゃったりしますからねー」

「……まあ、それなら」


 ギースが鬼の首を獲ったかのように嗤い、ミャーのことを指さしました。


「ほらみろや! 俺様が全面的に正しいだろうが! 恥じろ!」

「お前、今夜から眠れると思うな?」

「はっ、夜のお相手してくれるってかあ? 残念ながら俺様はグルメでな!」

「はあ!? あたしの何処がグルメじゃないって言うんすか。眼鏡かけてるのに視力ねえんじゃねえすか。実力だけじゃなくて視力と見る目も雑魚雑魚っすか?」

「は、俺様の【暴虐】がてめえに破れるかよ」

「いやだからあ、何日もかけて狩れば寝た瞬間殺せるって言ってるでしょうが。雑魚はすぐに忘れるから強くなれねえんすよ」


 今にも殺し合いが始まる寸前です。

 先程からの煽り間、そのすべてが殺し合いを始めるための挑発でした。仲良くふざけて軽口を叩き合っているわけではないようです。


 ペニーは鼻血を流しながらも楽しそう。

 アトリがウンザリしたように威圧を出します。


「うるさい」


 その威圧でギースとミャーが押し黙ります。なお、ペニーだけはむしろテンションを跳ね上げて「やっちゃってくださいー、アトリ隊長」と盛り上がっております。


「ちゃんと部屋を汚しても大丈夫なように取りはからってますからー」

「なんで俺様らが血祭りにあげられる前提なんだよ……」

「それにしてもギースさん、美人局の件ですがー?」

「あ?」

「よく我慢できましたねー」


 露骨にギースが舌打ちを零しました。


「俺様は獣じゃねえぞ。こんな場所で『そういうもてなし』を受けることがどういうことかは理解してる」

「正直なところ、ダドリーさんがそこまで考えているとは思えませんけどねー。単純に強い固有能力持ちと縁を繋ぎたい一部の人、あるいは固有スキルの遺伝を狙ってのことでしょ?」

「受けても良いってか?」

「まあ、それでアトリ隊長を裏切らないなら良いでしょー」

「ま、辞めとくがな。ガキができたら面倒だ。俺様は女にゃ困ってねえ」

「ですかー?」


 敵対した女は犯して殺すことで有名なギースです。

 マジでやっているのかは知りませんけれど……ギースの悪名は広く高く轟きすぎて真偽がつきません。


 ちなみに服装を馬鹿にしたら、顔面を掴んで爆破してくる噂は本当です。


「良かったですー。念の為にギースさんの情事を『視ておく』必要がなくなりましたからねー」

「……姉御、こいつを近くに置いとくのはマジでオススメしねえっすわ」

「それはあたしもそう思うっすよ?」


 こうして私たち神器会談参加者アトリ陣営の夜は更けていくのでした。

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