第118話 三騎士・司令官
▽第百十八話 三騎士・司令官
私たちがサモナーのペニーから見せてもらったのは、第七遊撃部隊の敗北する様子でした。明確な仲間のロストは初めてのことです。
ややショッキングでしたね。
しかし、ガノの最期は不思議が極まっています。
あの老人が恐怖で自害を選択するとは思えません。ですが、恐怖以外の要因で以て、あのタイミングで自害するメリットが理解できないんですよね。
何らかの意図があるようでしたが……
何度がペニーに映像を見せてもらいます。そして、私が気づいたのは……ガノではなく、ゼラクの最期の攻撃についてでした。
「なるほど。ガノはこれを隠すために自害をしたのでしょうね」
「かみさま……」
「どうしますか、アトリ。ここで撤退しても良いですし、ヨヨに挑みに行く手もございます。貴女の自由を優先しましょう」
「……ボクは」
いくらNPCとはいえ、幼女に背負わせる選択ではないでしょう。
しかし、今回の選択はすべてアトリに委ねるしかありません。心がダメージを負っている状態で戦わせるのも、かといって敵を見逃すのも、どちらも辛い選択肢ですからね。
いくら崇められる神とはいえ、これを独断するのは憚られます。
アトリは狂信以外の要因で以て揺れる瞳を向けてきます。ですが、やがて意を決したように、恐る恐ると呟きました。
「ボクは戦う……です」
「よろしい。でしたら戦争を続けましょう」
私たちの再度の参戦が確定された時でした。
▽
すでにアレックス王子は撤退の準備に入っていました。アトリがヨヨ暗殺を受けるなら耐える、という話でしたが途中で離脱しましたからね。
ペニーがアレックスに伝令してくれます。
その間、私たちは【理想のアトリエ】にて物資の補充を行いました。また、今回は戦力として最上級ゴーレムのセックも連れてきました。
絶対にヨヨを殺害する覚悟です。とはいえ、いざという時は逃げるつもりですけどね。
すべての準備を終えると、ジャックジャックたちもやって来ました。
「アトリ殿」
鋭い目をした老爺が豊かな髭をサーベルにて切断しました。はらり、と風に巻かれて飛んでいく白い体毛を尻目に、ジャックジャックが低い声を出します。
「ヨヨの城に乗り込むというのでしたら、儂も連れて行ってもらいますぞ。ヨヨは儂の手で殺さねばならぬのですじゃ」
「……好きにすれば良い。ボクはボクの使命を果たすだけ」
「ヨヨに仲間を奪われたのですな? が、アトリ殿。慣れぬ復讐に取り憑かれぬようにしてくだされ」
「……ボクは行って殺すだけ」
「ふむ」
髭を剃ってサッパリしたジャックジャックは、困ったように髭を撫でようとして虚空を撫でました。
苦笑しています。
ちょうどその時。
夜空に火花が上がりました。それは王子のアレックスが作戦に協力してくれる合図でした。その合図を元に私たちは敵陣に乗り込むのでした。
▽
三騎士の吸血鬼レンは、元王子だった男性のようでした。彼はアレックスと同じエデンの名を有していたのですが、跡取りになれぬことを苦に謀反。
撃退されたようです。
そこをヨヨに拾われて吸血鬼にしてもらった……そういう経緯があるようですね。
レンはアレックスと同様に指揮特化のスキル構成のようです。
見事な軍勢による押し引きが繰り広げられています。軍勢が一つの生き物のように連携し、敵を喰らおうと自在に蠢いております。
その激戦を横に、私たちは秘密裏にヨヨの屋敷へ侵入しました。
突入したのは、アトリとジャックジャック、遅れてセックです。この三人以外は隠密能力的に侵入しても見つかったことでしょう。
ジャックジャックには【隠密機動100】のスキルがありますからね。
ちなみにセックにはチートスキル【お手伝い】があります。
この【お手伝い】は筆頭メイドの専用スキルとなっております。
効果は「他者からスキルをコピーする」というモノです。一応、条件として「相手から使用許可を得る」という工程が必要となります。
が、セックはゴーレムなので私の命により「【お手伝い】してよろしいですか?」と問うた際、敵が「否定の声でも呻き声でも、なんらかの返事をくれた場合、すべて肯定されたと処理」するように設定されています。
この【お手伝い】は自分の認識が優先されます。
ゆえに好き勝手にスキルを使えるスキルとなっております。セックのスキルレベルは70なので、すべてのスキルが70レベルで再現されるようですね。
まあ、スキルレベル70もあれば実戦級です。
ゆえに我々は見つかることなく、軍勢を囮に侵入できたわけです。アトリは外技ですね。
屋敷の中は閑散としております。
ほとんど全員が外へ攻めに行っているからでしょう。
現在、私たちの調べによればヨヨは屋敷の最奥で休んでいるようです。そこを奇襲したいのですが……どうやらそう簡単にはいかないようです。
ちょうど曲がり角から現れたのは、貴族風の吸血鬼でした。
「む」とジャックジャックが目を細めました。「三騎士のレンですじゃ。が、あやつは指揮の真っ最中のはずですがのう」
「簡単なことだ」
とレンが呟きました。
その陰気ながらに圧力がある様子はアレックスに似ているようです。
「これは俺の固有スキルだ。劣化した分身をここに配置していただけのこと」
「ほう、己が手札を明かすとは愚かな吸血鬼じゃのう」
「ふ。そうかもしれないな」
鼻で笑ったレンは、美しい頭髪を手で梳いて微笑みます。
「さて、この肉体が分身であるという前提での交渉だ。帰ってくれないか? キミたちがヨヨ様に勝てるとは思えない。無駄なこと。俺も無駄な戦いはしたくない」
「ならば貴様が引くのじゃな、レン」
「一応、俺も仕えている身なんだ。敵を見つけておいてタダで通すわけにはいかない。が、俺と戦っても無駄だ。これは分身なのだからな。互いに無駄だ。無駄は嫌いだ」
「かつて王位を狙った男の言とは思えぬのう」
「王位など狙ってはいない。アレは王族としての義務を果たしたまで……まあもう良い。キミたちは頑なだ。戦おう」
レンが肩をすくめ、己が影から部下たちを生み出していきます。どうやら仲間を運ぶ能力も持っていたようです。
レンの背後には五体の吸血鬼が構えています。
「アトリ殿」
ジャックジャックが横目で見てきます。
「ここはお任せしても? アレックス殿の囮にも時間制限がありますからのう」
そう、この戦闘には時間制限があります。
なるべく迅速にヨヨを殺害せねばなりません。ゆえに、この分身だというレンの存在は厄介極まりないのです。
誰かを置いて先へ進むのはアリです。
アトリもそれは理解しているのでしょう。頬を膨らませてジャックジャックを睨みます。どうやら、レンと戦うよりもまずジャックジャックとの論戦が始まる勢いでした。
ゆえに、私はアトリに命じます。
「アトリ、シヲを出してください。ここはシヲとセックに任せます」
「シヲ……セックと一緒に敵を倒す」
『――』
こくり、とアトリが頷きました。
シヲとセックが前に出ます。対するレンは困ったように肩をすくめてから、美しい頭髪を指で梳きました。
「分身の俺では止められないか。まあ、働いたという実績は残せる。そこのエルフの少女とゴーレムだけ残ると良い」
アッサリとレンは言います。
アトリとジャックジャックが駆け出します。ちょうどレンとすれ違う瞬間、レンが凄まじい勢いで蹴りを放ってきました。
アトリの顔面を破壊する軌道での一撃。
それをシヲが触手で以て受け止めます。
「マスターお先にどうぞ」とセックが言いました。
シヲがあまりにも煩いので仕方なく着せたメイド服。セックはそのスカートを使ってカーテシーして見せて、私たちに道を作ってくれました。優美ですけど、やはり脱がせたいところ。
ともかく、ここは任せましょう。
セックの戦闘能力は中々に高いです。相手が劣化した分身だというのでしたら、十二分に勝利の芽はあるでしょう。
まあ劣化している、という情報は嘘の可能性もありますけれど。
セックでしたら最悪の場合でも相打ちに持って行けます。
こうしてシヲとセックを残し、我々は屋敷の奥へ走り出しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます