第111話 邪神

▽第百十一話 邪神

 まったく困ったものです。

 この私がゲームにかまけて日常生活を破綻させてしまうとは。これではお隣さんを嘲笑えません。


 結局、一日をかけて色々してきました。


 買い物に行って物資を買い漁りました。ちなみに、大量の荷物は陽村に持ってもらいました。彼女は熊と互角に殴り合えるという漫画スペックの持ち主です。筋肉の質が変わっているようです。その所為か、ルックスが中学生から成長しないのです。


 中学生くらいの女の子(成人済み)に大量の荷物を持たせる私。

 おそらく、ネットでは画像が拡散されていることでしょう。まあ、陽村が私の護衛であることは有名なのでよろしいでしょう。


 私も大概ですが、陽村は異常です。


 この時代、私とは異なりながらも匹敵しうる、異常なまでの才能持ちが何人かいます。なんだか世界が終わりを防ぐために、スペックの高い人物を慌てて作ったみたいな時代です。


 それから、色々な手続きもしてきました。

 本当に疲れます。

 その後、軽く外食をするなどしてから、夜は久しぶりに絵を描きました。


 素晴らしい傑作!


 売れば稼げることでしょう。しかし、私はあまり作品を売るのは好きではありません。かつては次の作品を作るための資金のため、渋々と販売しておりましたけどね。

 今の創作意欲は乏しいです。

 月宮が死に、彼が残した会社のためにサラリーマンとして過ごし、なんだか絵を描く気分にもなれませんでした。


 ちょっとだけアトリには救われているかもしれません。


 不本意ながらも、月宮たちと最後に行った会食で、彼が言っていたことを実感させられます。結局、いつも月宮の言う通りになるんですよね。

 ほんとにきらいですよ。

 私は一日ぶりに《スゴ》にログインしました。


       ▽

 目覚めればアトリが土下座をしていました。

 もしかしてずっとやっていましたか? いつもなら私のログインを察知して動くところ、すでに土下座の状態でした。


 純粋なる困惑です。


 何処かの都市の宿の中。幼女が全力で床に頭を付けております。


「神様……ごめんなさい、ですっ! ボクはいけない子です……」


 アトリからのメッセージによって、ある程度の状況は把握しているつもりです。どうやら、素材探しに行った先で面倒事に首を突っ込んだとのこと。

 こういうのが《スゴ》の厄介さであり、醍醐味ですよね。

 AIが勝手に判断するので、自分が望むプレイをしてくれないのです。勝手に戦いに行ってログアウト中にロストすることもあるとか。


 正直、私がそのプレイヤーだったら引退ですね。


《スゴ》のそういうところはかなりの荒れ要素です。が、運営は強気なのでしょう。まったくプレイヤーにおもねりません。


 初めてレベルで《スゴ》の醍醐味を味わえました。

 けれども、いつもアトリは私のためによくやってくれています。やっていて良かった邪神RPです。ゆえに、これくらいであれば許せてしまいます。


 ここで「何やってんだお前!」とか言い出したら邪悪すぎます。


 私は土下座する幼女の頭部にポンと乗りました。リアルでやったら正気を疑う行為です。ゲームでしかできない行為なので、今、私はもっとも《スゴ》を実感しております。


「気にすることはないですよ、アトリ」

「貴族も敵に回した……です。たぶんギルドも追放……です……」

「ですが、アトリは強くなったでしょう? もはや、どうとでもできる次元にあります」

「?」

「もう貴族もギルドも怖くない、ということです」


 もちろん、真正面から戦えば敗北するでしょうし、ジリジリと不自由なことでしょう。けれども、すでにアトリは最強格たるギースすら葬れます。

 トップクラス以外には簡単に負けないでしょう。

 今回の件、伝聞ではありますがアトリに正義ありです。これでアトリと敵対するような無能ならば、いくらでも敵に回して怖くありませんとも。


 理想を言えば貴族や商人、ギルドとは友好関係で行きたいです。


 私の目的はお金稼ぎ。最高効率は「ギルドなどで素材を換金し、得た金をリアルで換金する」というコースです。

 ですが、《スゴ》は素材もリアルで換金できます。


 それでもアトリのスペックと殺害ペースなら平均的なサラリーマンの月収は得られます。世界樹の素材だって換金できますしね、最悪。

 ある意味、私の《スゴ》はクリアしたようなもの。

 あとはアトリが害される可能性を潰して、ゲームが詰むシナリオを破壊していくゲームとなっております。


 強さを自覚するためにも、久しぶりにステータスを確認していきましょう。


名前【ネロ】 性別【男性】

 レベル【68】 種族【ダーク・スピリット】

 魔法【闇魔法75】

 生産【錬金術77】

 スキル【再生79】【鑑定35】

    【クリエイト・ダーク78】【ダーク・オーラ56】

    【敵耐性減少】【アイテムボックス31】

    【逆境強化】【致命回避】【敏捷強化60】

    【罠術34】

 ステータス 攻撃【340】 魔法攻撃【340】

       耐久【340】 敏捷【340】

       幸運【340】

 称号【偽る神の声】

 固有スキル【神威顕現】


 このような具合です。

 魔法は新たに【ダーク・ネイル】を取得しました。私にしては珍しい純粋な攻撃アーツとなっております。


 これで私も攻撃に参加できますし、【神威顕現】の時に魔法でも戦えるようになりました。


 また、【ダーク・オーラ】も強化されています。

 追加アーツは【MP超吸収】効果を取得しました。最初に投入するMPが増えるのですが、敵に近づくだけでどんどんMPを奪えます。

 また【MP吸収】と効果が重複するのも強いです。ようやく育ってきました。


 次はアトリです。


名前【アトリ】 性別【女性】

 レベル【72】 種族【ハイ・ヒューマン】 ジョブ【聖女】

 魔法【閃光魔法63】【光魔法75】

 生産【造園80】

 スキル【孤独耐性88】【鎌術80】【口寄せ60】

    【神楽71】【詠唱延長59】【月光鎌術58】

    【天使の因子53】【狂化】【聖女の息吹】

 ステータス 攻撃【198】 魔法攻撃【565】

       耐久【387】 敏捷【549】

       幸運【496】

 称号【死を振りまく者】

 固有スキル【殺生刃】


 ダンジョン走破や吸血鬼狩りでレベルも上がりました。

 この《スゴ》の仕様として人類種を殺しても経験値は微妙です。けれど、吸血鬼は魔物寄りの経験値効率となっているようです。


 アトリも良いレベル帯までやって来ました。

 すでに世界上位のレベル帯のはずです。


 ロストがある世界。

 NPCたちは自分の命を大事にしております。通常でしたら、自分に合った敵をゆっくり倒してレベリングするのです。レベル60付近で満足する冒険者も多いようですしね。


 ですが、アトリは常に格上。

 それを長時間、休むこともなく戦い続けてきたのです。他者からすれば異常なペースでしょうね。アトリが「異常」とされる最たる要因ですね。


 ジョブについては特殊職業【聖女】が解放されていたので変更しました。取得条件は不明のままでした。

 このジョブはHPとMP、魔法攻撃を高めてくれるジョブのようですね。


 取得したジョブ限定スキルは【聖女の息吹】です。


 このスキルは「光属性系の魔法」と「回復効果」を上昇させるバフスキルとのこと。【聖女】の限定スキルなので獲っちゃいました。

 あと何か隠し効果もあるっぽいテキストがあります。


「それと【天使の因子】も順調に増えていますからね」

「羽たくさん……ですっ!」

「やはりMMOの装備と言ったら羽ですよね」


 アトリの背には五枚の羽根があります。

 それぞれ【コクマーの一翼】【ケセドの一翼】【ホドの一翼】【イェソドの一翼】【ティファレトの一翼】となっています。


 新アーツ【ティファレトの一翼】の常時バフは「特定部位の耐久力上昇バフ」です。たとえば、右腕を指定してバフを発動させれば、右腕だけ耐久度が上昇するわけです。

 己が肉体を盾にできるわけです。

 とはいえ、アトリの元の耐久値が平均的なので完全には防げませんがね。


 使用効果は「ダメージ判定を消失させる」ことです。

 予備の【ダーク・リージョン】だと思ってくだされば幸いです。タイミングは難しいですが、敵の大技を無効化できたりする強いアーツとなっております。


 次はシヲですね。

 正直、テイムモンスターのステータスはそんなに重視していません。ですから、こういう機会に確認しておきましょう。


名前【シヲ】 性別【無】

 レベル【64】 種族【パンドラ・ミミック】

 魔法【土魔法35】

 生産【木工88】

 スキル【擬態62】【奇襲53】【拘束53】【行動阻害耐性】

    【音波57】【鉄壁53】【触手強化71】

    【盾術38】【技巧補正】

 ステータス 攻撃【64】 魔法攻撃【64】

       耐久【640】 敏捷【640】

       幸運【64】


 地味にシヲも育ってきております。

 さいきんは触手に盾を持たせているので【盾術】スキルも取得しました。かなりタンクとして使いやすくなりましたね。


 ちなみに【技巧補正】は本人の希望を採用する形となりました。


 どうやら【木工】のために触手をより良く動かしたかったご様子。彼女の【木工】への熱意は中々のモノです。下手をすれば妨害タンクを辞めて生産特化になりたがっているくらいです。まあ、さすがに許可できませんでしたが……


 最後にロゥロですが……プラス要素として【致命回避】を取得させました。

 これで一日に一度ですが、敵の攻撃を防げます。破壊活動が捗りますね。あと、咄嗟に盾として使うような運用も可能かもしれません。


 じつは【口寄せ】スキルのアーツでテイムモンスターたちのレベル上限を増やしました。意外とテイム系のスキルは取得アーツのバランス管理が重要のようです。

 ゆえに、テイムモンスターたちのスキル枠は増やし切れておりません。


「まだ伸びしろがある現時点で、このクオリティは頼もしい限りです。権力攻撃は厄介ですけれども、今のアトリでしたら乗り切れることでしょう。ですから気にしなくても良いですよ。そもそもアトリの自主性に任せたのは私です」

「頑張る……ですっ! 神様の期待、絶対に裏切らないです……絶対」

「期待していますよ、アトリ」

「!! はい、ですっ!」


 高揚に薄ら頬に朱を差す幼女。

 無邪気に万歳しております。やる気のようです。邪神の使徒が無邪気というのは、果たしてどうなのでしょう?


 とりあえず、我々の方針は決まりました。


 まずは吸血鬼を討滅。

 それから、今後はもっと精力的に活動することにしました。変な自重はなしです。やりたいことをやっていきましょう。


 といっても、世界にとっての朗報ですが、私もアトリも害悪プレイをするつもりはあんまりありません。

 楽しんでいきましょう。

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