第25話 普通のレイド戦
▽第二十五話 普通のレイド戦
地面から生えだしたのは、巨大な樹木でした。生い茂る夥しい量の果実には、すべて顔があって気色が悪いです。
いわゆる胸部の中央付近には、どでかい洞があり、そこに巨大な果実が詰まっています。そこにあるのは苦しそうな老爺の顔面でした。唇からは果汁が滝の如く垂れています。
鑑定します。
名前【ジャスパー】 性別【男性】
レベル【120】 種族【邪世界樹】
魔法【闇魔法100】【常闇魔法50】
生産【悪意の林檎】
スキル【爆撃術100】【耐久上昇】
【物魔障壁】【林檎爆撃】【体力上昇】
【再生100】【指揮強化】
【鞭術100】【生成・蔦犬】
ステータス 攻撃【600】 魔法攻撃【600】
耐久【2400】 敏捷【120】
幸運【600】
固有スキル【禁忌の果実】
敵のレベル上限って100じゃないのですか……エンペラー・オークさんは第一ウェイブの敵だった、という感じでしょうかね。
アトリ、最初の敵に全力を出しちゃったんですけど。
ちょっと恥ずかしい……
アトリは気にした風もなく、大鎌を油断なく構えているようです。先程のような無茶な突撃はさせません。
次は【ダーク・リージョン】はないですからね。
今度の戦いは順当なレイド戦になりそうです。
「いけええええええええええ!」
誰かの叫びと同時、タンク部隊が前に飛び出します。
アトリも遅れて【口寄せ術】にてシヲを呼び出しました。さっきも呼んでいれば経験値が入ったのに、もったいないことをしましたね。
「アトリ、まずは魔法で様子見ですね」
「はい。ですっ!」
「私は一応援護として【敵耐性減少】を使わせてもらいますね」
武器に状態異常を仕込んでいるNPCもいるだろう。それが通るようになったら万々歳です。貢献度、稼げていますかね?
アトリは【殺生刃】を適用しながら【シャイニング・スラッシュ】を放っていきます。【詠唱延長】効果によって、最低限、魔法火力を叩き出していきます。十秒ほどの詠唱延長中に、消費したHPは【HP自動回復】と【リジェネ】で回復します。
隣で杖を掲げている魔法使いが、アトリをギョッとした顔で見てきます。
アトリの攻撃は次々と邪世界樹の枝葉を剪定しています。じつに良い切れ味ですね。十分な後方火力役ができています。
ここで新技も披露しちゃいましょう。
もうさっきので色々見せてしまいました。ここまで来れば貢献度最上位を狙わなくては損してしまうことでしょう。
「【クリエイト・ダーク】モード・サブアーム」
アトリの背骨付近から、闇色の二本腕が生えだしてきます。このアーツは私がかなり時間を費やして完成させました、新しい補助魔法です。
二本の腕はそれぞれ杖を握り締めています。
この両腕はアトリと接続されており、握った杖はアトリの装備状態となります。
残念ながら腕を動かすことはできません。
ですが、武器をふたつ余分に持てるようになるのは強力無比と言えるでしょう。
ただし、腕一本あたり最大MPの三割を持って行かれます。使用中は失っている分のMPが回復しないので無条件に強いアーツではありませんね。
「受け止めろおおお!」
邪世界樹が枝を鞭のように使い、地面のNPCたちを薙ぎ払います。タンク職たちは盾や大剣、あるいは防衛用の魔法で枝を受け止めます。
その隙に近接攻撃職が走り、後衛魔法職が魔法を撃ち込んでいきます。
爆炎の中、潜り抜けた猛者どもが雄叫びと共に、世界樹に猛撃を加えていきます。爆風と爆炎、怒声と雄叫び――これこそがレイド・ボス戦!
ヒーラーやバッファーがタンクを補助します。
「野郎ども! 一旦、引くみゅん!」
大天使みゅうみゅさんの号令により、まるで一つの生きた生物のように前衛たちが引いていきます。
それにしてもみゅうみゅさんは【顕現】の効果が長いですね。何かしらの固有スキルなり、補助装備なりを手に入れていると見るべきでしょうか?
「逃げろ! 退却っ! 攻撃やめ!」
一部の前衛アタッカーは指示をガン無視で、狂ったように攻撃を仕掛けています。アトリがやったようにリソースガン無視の強打の嵐。
撤退支援を行うため、スピードキャラが邪世界樹を翻弄します。
『――あああああああああああああああああああ』
ダメージに耐えかねた邪世界樹が、自身の葉っぱを揺らすように振動を始めます。直後、樹から林檎が落下し、林檎型の爆弾が地面を爆撃していきます。
大天使みゅうみゅさんの読みが的中しましたね。
無視したアタッカーが数名、デスしてしまいました。
『――あああああああああああああ』
邪世界樹が叫ぶと同時、地面から大量の犬が産まれます。その犬はすべてが蔦で構築されており、奴が所持している【生成・蔦犬】と【指揮強化】が発動したことを理解させられます。
出現した蔦犬の数は五十を超えているようです。
さすがに後方で火力支援している場合ではないでしょう。
基本的にタンクは前に出ていますし、前線アタッカーも前です。
ヒーラーと魔術師、弓師などの後方職に向け、蔦犬たちが突撃を仕掛けてきます。綺麗に整列した突撃は、もはや犬型の壁が押し寄せてくるようでした。
「アトリ、出ますよ!」
「うん。ですっ、神様っ! シヲも来る!」
『――』
シヲが猛ダッシュした後、その姿をヒトガタから変貌させました。その姿は私がどうにか説明して実現した、新たなシヲの擬態形態です。
その姿は巨大な――タコ。
モード・クラーケン。
タコの大きさは15メートル級。触腕に関しては十メートルと世界最大サイズを大きく上回っておりますとも!
あと触腕の数は十本もあります。
タコを知らなかったシヲを騙して、偽りの情報を参考に擬態させましたからね。頑張って模型を【クリエイト・ダーク】で作りましたとも。
動いている様子を見ること、が条件でしたからね。
(私の技術不足で触腕百本は実現できませんでした……ですが強力な形態ですよ、これは)
五十を超える蔦犬に対し、突如として出現した大タコが肉体でぶつかります。一撃でシヲはHPの六割を削られますが、アトリの【リジェネ】が良い味を出します。
また、
「みゅうみゅの奇跡を喰らうと良いみゅんっ! みゅんみゅんビーム!」
ヒーラーである大天使みゅうみゅさんがシヲを回復してくれます。回復に特化しているみたいですね。
直後、みゅうみゅと契約しているであろうNPC――エルフのノワールが矢継ぎ早に弓を射かけます。一射ごとに蔦犬が減っていきます。
また第二陣のアタッカーたちも蔦犬に仕掛けます。
まだレベル不足ゆえに真の前線に立てなかった人々が、どうにか蔦犬を撃退していきます。まあ《スゴ》は契約NPC次第では最初から強いこともありますけどね。
アトリも参戦したことにより、後衛を守ることは成功しました。ならば、
「第二タンク、前へ! メインタンクは回復。ヒーラーはタンク優先。ヘイト買わないように大きい魔法じゃなくて、小さい魔法で回復を続行! みゅん!」
「継続火力、行くぞ!」
弓師や遠距離攻撃を持つ前衛アタッカーがダメージを出していきます。
魔法使いたちはMPを回復しつつ、次の火力を出すタイミングを合わせるようですね。レイドボス戦の鉄則として、火力の徐々出しは危険というモノがあります。
いわゆるHPトリガーの大技が来るからです。
あるていどダメージが蓄積すると放たれる一撃。これを火力を一瞬で集中させることにより、一気に飛ばしてしまう、というテクニックがあります。
大技を三回撃ってくる敵なら、それを二回に減らす、というような感覚です。まあ、初めて戦うボスなのでHPトリガーがあるのかは定かではありませんが、初見であるからこそ、オーソドックスな討伐方法を試しているのでしょう。
大天使みゅうみゅさんは相当にゲーム慣れしていますね。
邪世界樹との戦いが佳境に突入します。
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