第6話 家族を殺しに行こう!

▽第六話 家族を殺しに行こう!

 アトリの勤勉によって、かなり強化することができていますね。


 私はレベル10を越えたことにより、新しいスキルをひとつ取得できます。

 また、私もアトリも新しいアーツが入手できるようですね。とくにアトリの魔法は【フラッシュ】だけなので追加はありがたいです。


「何か希望はありますか、アトリ?」

「すべて神様の御心のままに、です……」

「解りました。最善を尽くしましょうとも」


 アトリの新魔法は光魔法の【リジェネ】にします。せっかく神官なので回復魔法を覚えてほしいのと【HP自動回復】とのシナジーを狙いました。

 なんと同居可能なのですよ。

 まあ、普通の【ヒール】を覚えて即時回復取得も魅力的でしたが。どうせ覚えるなら上位の【ハイ・ヒール】かなと考えた次第です。


 鎌術もレベルが10を越えて、もうひとつアーツを獲得できるようです。

 選択したのは『奪命刃』です。これはいわゆるドレイン系のアーツであり、鎌に使用すれば「斬った対象からHPを簒奪する」効果を得られます。


 リジェネ二重に+回復リソース追加です。

 私は契約補正にHPを選択しているので、ゆくゆくはアトリは不沈艦と化す恐れがありますね。リジェネ系は割合回復なので効果が上昇しています。


「次は私ですが……」

「楽しみ、です神様。もっと神様がお力を取り戻されるのですね」


 アトリはけっこう陰気な幼女であるが、私に期待を寄せる時だけは咲き誇るような笑みを浮かべてくれます。

 期待は裏切れませんね……


「私が追加可能なのは闇魔法のアーツがひとつ。『クリエイト・ダーク』がひとつ。レベル十になったので生産もひとつだけ覚えられるようですね」


 決めました。

 闇魔法のアーツは『プレゼント・ポイズン』という対象を毒状態にする魔法です。アトリが持久型なので毒との相性は抜群でしょう。

 あのモンスターをボールから出し入れして戦わせるゲームで覚えましたとも。


 追加で余っているスキル枠に【敵耐性減少】も取得しておきます。毒は強力な分、対策されやすいと想定しての選択でした。


 あとは【クリエイト・ダーク】が10レベルになったことによる、アーツの取得です。このスキルはどういうアーツが発現するのかと思えば、なんと物質の造形を固定するようです。


 ちょっと解りづらいですね?

 やってみましょう。


 私が選択した形状は――シールドでした。

 今後【クリエイト・ダーク】にはモード・シールドが追加されます。ふつうに闇を生み出すよりも強度が高く、発動速度も短くなったようです。


 消費MPも盾にする時だけは減るようですね。便利です。


「生産については保留ですね……さてアトリ」


 私は真剣な声を作り、アトリに覚悟を問います。


「本当によろしいんですね? 私は神。あくまでも貴女の自由意志を尊重します。導きはしますが、行く道を決めるのは――貴女自身です」

「お、お願い、します、です神様。……ボクを売ろうとした両親は、敵、です」


 アトリは病気になった母のため、薬草を探して山に入ったらしい。

 その献身は愛情ゆえではない。

 真白の髪に深紅の瞳。驚くほどの白い肌。


 それらは知識のない村人たちには劇薬でした。アトリのことを恐怖の対象とみて、排斥しても良いのだと、冷遇しても良いのだと錯覚させてしまった。

 アトリは壊れています。

 そのような中でも、少しでも愛されようと――無駄だと解って努力をしたのだから。


 でも、その努力は一度も報われたことがない。

 たとえ命を賭けて薬草を届けようとも、愛されない。

 存在するだけで疎まれ、すでに娼館に売り飛ばされることが決定しているようです。彼女が今の歳まで育てられたのだって、珍しい容姿の少女が高く売れるから……それだけです。


(私は大人です。本来でしたらば、アトリのことを止めるのが正しい大人なのでしょう。ですが、それはあくまでも私たちと同レベルの社会構造であれば、の話です。少なくとも、このゲームでアトリを止めることは、彼女にとっては残酷だと考えます)


 まあ、私は私で正常な人間ではありません。

 正しく生きようだなんて微塵も考えていないのです。ましてやこれはゲームの中。そこまで深く考える必要は、本来でしたらば皆無のはずなのですよ。


 リアリティーが高いので考えすぎてしまいますね、このゲーム。


「では、今夜――決行です。無論、止めたくなったらいつでも言ってくださいね。あくまでも重要なのはアトリ、貴女ですから」

「ありがとうございます、神様……」


 ふふ、とアトリが嬉しそうに幸せそうに微笑みました。

 きっとアトリは止まりません。

 むしろ、ここで無理にでも止めてしまった場合、アトリは一生、前に進むことができなくなるか、完全に壊れてしまうことでしょう。


 ならば。

 幼いアトリが壊れてしまうくらいならば。



「お前たちが、社会」


 私たちの戦いが始まろうとしています。


       ▽

 深夜。

 当然のように街灯もないので、夜の村は静まり返っている。山のほうから虫の音がするものの、不思議なくらい、その声は世界に溶け込んで煩くは感じません。


 事前に三時間ほど眠ったアトリは万全でした。


 我が村のように闊歩するアトリ。

 我が家に侵入するのもお手の物。何処に誰がいるのかも、当たり前ではありますが熟知しております。


「まずは父です。この家でもっともレベルが高く、農民ながらに戦闘系のスキルも有しているようですし……寝ているところを鎌で殺します」

「はい、です、かみさま……」


 父の部屋に侵入した途端、ムクリと男が起き上がります。農作業で鍛えた身体は細身ながらも引き締まり、現実で出会ったら「こわ」となるタイプの人でした。


「ちっ、生きてたかアトリ。売るつもりで育ててたから死なれても困るがな……まあ死んだら死んだで、あの娼館のことだ。アンデッドにでもして売れるだろうが……」

「っ! 死ねっ!」

「え」


 一閃。

 しかしながら、その一撃は対ゴブリンの時とは異なり、鋭さはございませんでした。恐怖からではございません。


 そこにあったのは抑えきれぬほどの憎悪。

 興奮。


 ぶれた剣筋から辛くも逃れた父は、ベッド付近の斧を手に立ち上がります。


「おまええええええええええええええええええ!」


 躊躇のない振り下ろし。

 アトリは避けることもできず、その一撃を真っ向から喰らいそうになります。が、私がそのようなことを見逃すわけもなく。


「【クリエイト・ダーク】――モード・シールド」


 斧を闇盾で受け止め、威力を減衰。

 突破されましたが、斧はアトリの肩を砕くに留めます。血を流しながらも、アトリは諦める様子もなく、手が白くなるほどに鎌を握り込んでいます。


 もう止めるのも無粋な領域。

 なによりも、実際にアトリ父を見たことにより、私も決意を強くしました。


「アトリ」

「神さま!」


 フラッシュ・バン!

 目を押さえて蹲るアトリ父が叫びます。


「育ててやっただろうがっ! 恩を忘れたのか恥知らずが!」

「……村の掟で子どもは殺せなかっただけ。十歳未満は神の子で親がどうこうできない。それからは娼館に高く売るために手元に置いただけ」

「餌もやっただろ! 寝床も! 父を殺すつもりか!?」

「ボクは魔物の子。でしょ?」


 アトリの鎌が父の首を吹き飛ばした。

 事前に鎌に【奪命刃】を付与していたアトリは、肩の傷さえも瞬時に癒える。彼女は震えるように、己が身体を抱き締めます。


「ずっと」


 幸せそうな幼女の吐息。妙な夜の色気。


「ずっとずっと! こうしたかった!」


 ありがとうございます、神様。

 涙を流し、恍惚した様子で熱狂する幼女の姿。

 そう叫びながら、鎖を引き千切ったかのようにアトリが飛び出します。父の肉片のことなんて最初からなかったかのように忘却し、次に目指すのは――この日、アトリの一家は全滅した。


 忌み子とされた、アトリを残して。


【ネロが称号を獲得しました。『狂言の支配者』】

【アトリが称号を獲得しました。『大罪・親殺し』】

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