ストーカー令嬢、気まずい

 どんどんとこちらに近づいて来るモレスタ様。何だか久しぶりに会う様な気がして緊張する。


「何だ、早かったな」

「思ったより早く終わったので、急いで戻ってきました」


 親しそうに話すお二人。モレスタ様も殿下も私が話した時とはまた違う雰囲気で話していて、本当に2人は仲が良いんだなと微笑ましく思う。


「それで?何でストレイカ嬢と一緒にいるんですか」


 突然、話題が私に切り替わって驚く。ど、どうしよう、何て説明しよう……。


「水やりをしに行こうとしたら、たまたま、偶然あってな。少し話をしていただけだ」


 何と言ったら良いのか分からずオロオロしている私に代わって、殿下が説明してくれた。


「……そうですか、少し話を…………」


モレスタ様はそう言いながらチラリと私を見る。何となく気まずくなりながらも頭を下げて挨拶をすると、微笑まれてつい顔が赤くなる。



「…………はぁ、お前は本当に面倒臭いな」


 ……へ?い、今、殿下、面倒臭いって言った?モレスタ様に向かって!?


「それはどうも、殿下程ではありませんけど」


 ぇえ!?そんな言い方して大丈夫なの、相手は殿下、この国の王子だよ!?


 私が驚いている間も、何やら2人で話している。殿下はたいして気にした様子もないから、これが2人のいつも通りのやりとりなんだろう。


 想像していた殿下の人物像からはかけ離れた発言に驚きながらも、殿下って思っていたよりも親しみやすい人なのかもしれないと思った。


 それと同時に、そんな事を言い合える仲が少し羨ましくなった。



「それじゃあ、まだ水やりはしていないって事ですよね」

「ああ。だが、お前が来たならもういいだろ?俺は帰るぞ」

「はい、ありがとうございました」


 殿下はそのまま帰るのかと思いきや、くるりとこちらを向いた。


「ストレイカ嬢も、引き留めて悪かった。ただ、散歩をするならこれからは、もう少し明るい時間にするようにしたほうがいい」

「はっ、はい!!」


 それじゃあ、と言ってモレスタ様をチラリと見た後、殿下は颯爽と去って行った。



 ……やっぱり威厳があるなぁ。


 姿勢良く歩いていく殿下を見てしみじみと思う。殿下と話すのは、モレスタ様とはまた違うドキドキがあって緊張した。安堵からこっそりと息を吐くと、モレスタ様が私を呼んだ。


「殿下と何を話したの」

「えっ?」

「話をしていたんでしょ」


 少しだけ、そう言って私の目をしっかりと見て来る。


 な、なんか、怒ってる?機嫌が悪いのかな……。


 微笑んでいる筈なのに何だか少し怖く感じる。でも、そんなお顔も格好良い。


「あっ、えっと、特に何か話したって訳では無いのですけれど」


 聞かれても、特にこれって話をした訳でもないから困ってしまう。それでもモレスタ様は、何を話したのか聞いて来る。どうしてそんなに気にするのだろうか。


「えっと……殿下が、学園全員の顔を覚えていて凄いとか、あと、モレスタ様に頼まれて水やりに行くとか、そんな感じの事を…………」


 そう伝えると、へぇ……と言って黙り込んでしまった。



 …………き、気まずい!!何なのこの空気は!


 黙り込んでしまったモレスタ様を横目に、凄く逃げ出したくなる。そ、そろそろ帰らないと。


「え、えっと、それじゃあ私も失礼しますね」

「え、何で?」


 ……何で?何でって何!?質問の意図が全然分からないのだけど!


「な、何でとは?」

「水やり、一緒に行かないの?」


 一緒に行くの!?何で!?殿下は帰ったのに、部外者の私が一緒に行くのは流石に意味が分からない。


「な、何故一緒に?」

「……お花、てっきり好きなんだと思ってたんだけど違った?」


 前ここで会ったよね?と言って首を傾げるモレスタ様。


 ……首を傾げるの、可愛い。


 じゃなくて!そうだった、そんな設定だった……。モレスタ様は私がお花が好きだと思って、善意で誘ってくれてるんだ。や、優し過ぎる……。


 こんな優しい人に今更、別に好きじゃないとか言えないよ。それに、じゃあ何であの時はここに居たのって聞かれたら終わる!!


 どうやってモレスタ様に不快な思いをさせずに断ろうかと、1人真剣に悩んでいると────



「本当はストレイカ嬢ともう少しいたくて誘ったんだ。嫌だったらごめんね……?」



 不安げに、まるで叱られた子供のように眉を下げてそう言ったモレスタ様。


「一緒に行かせて下さい」


 悲しそうなその顔に、私は即答した。

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