ストーカー令嬢、寂しい
「今日もいい天気」
ふあ~っと欠伸をしながら、朝の準備を始める。
あれから数日。私は必死にモレスタ様に関わらないようにしていた。習慣づいたストーカー行為をいきなり完璧に止めるのは難しくて、つい見たり、追いかけそうになっては必死に我慢する日々を送っている。
でも、その意思を砕かれそうになるくらいな出来事が起こっていた。
あの合同授業の日、これから仲良くしてねと言って下さったモレスタ様。ああは言っても、そうそう殿下とよくいるモレスタ様と話す事は無いだろうと思っていた。これで最後、もう話すどころか会う事もないと思った。
それなのに……当の本人のモレスタ様が、めちゃくちゃ話しかけてくれるんだけど!!!
嬉しい、とっても嬉しいの!前の私からしたら考えられない大進歩!踊り狂って大喜びしたいくらい嬉しいの!!…………前までの、私だったら。
でも今の私はモレスタ様に近づかないと決めているから、物凄く困る。会わない所か、凄い会話してしまっているんですが!!
朝も昼も夕方も、私を見かけた時には必ずと言っていい程声を掛けて下さる。有言実行とはまさにこの事。そんな律儀に仲良くしようとしてくれなくていいんですよモレスタ様……っ!
何が一番厄介かって、それを心底嬉しいって思ってしまう私。話しかけられるとつい嬉しくて、断れない。
こんな所アンジェロ様に見られたら何て言われるか。あれだけもう会いません!って言っといてこの現状。
「はぁ、今日はちゃんとしないと……」
重いため息と共に、私は部屋を出た。
※※※※
先生の一言の後に丁度鐘が鳴る。今日1日の終わりの合図。
「今日は平和だったなぁ」
朝の心配はどこへやら、ここ数日は何だったのかってくらいにモレスタ様とは一言も話す事のない1日だった。話すどころか、会うことすらなかった。
モレスタ様、何してるのかな……。
「っ!」
ふと浮かんだ考えを焦ってかき消す。本来はこれが正しい形。これからは毎日こうなんだから、寂しいなんて思っちゃダメだ。
ここ数日がどうかしてたんだ。本来あんなにモレスタ様と話す事なんてできる訳がないのに、短い時間で欲張りになってしまった。
「……早く帰ろう」
私は余計な事を考えない様に、帰りの準備をして早々に教室を出て寮へと向かった。
筈だった────。
「何をしてるの私は…………」
寮に帰ろうとしていた私は何故か、中庭の花壇のある場所に居た。
歩いている途中にふと中庭が頭によぎって、気づいたら目の前にお花が綺麗に咲いていた。モレスタ様の育てている大事なお花。初めてモレスタ様と会って話した場所。
今日は会えなくて寂しかったからかわからないけれど、自然と足が向かっていた。
「本当にいい加減にしないと」
別にモレスタ様に会えるとは思っていなかった。ただ何となく、無性にお花が見たくなって来てしまった。
色とりどりのお花に顔を近づけると、ふわっと香りが鼻に届く。正直、特別お花が好きとかではないけれど、モレスタ様が育てていると思うだけで凄くいい匂いな気がする。
「私って単純だなぁ」
少しだけと思ったのに、あっという間に時間は経って空が赤く染まっていた。
頭ではダメだと分かっているのに、もう少し、もう少しだけここに居たら、モレスタ様に会えるんじゃないかという気持ちが抑えられない。
「……帰らないと」
夕陽に染まる空に流石に帰らないとと思い、今度こそ本当に寮へと向かおうと歩き出した。
少し歩くと、前から誰かが歩いて来るのが見えた。
思わず胸がなった。そんな都合の良いことがそうそう起きる訳無いと思いながらも、無意識に期待はしていた。だって、あの花壇の所に行くのはモレスタ様くらいしかいない。
皮肉にも、今までのストーカー経験が証拠だ。
しかしよく見ると、モレスタ様では無かった。夜空の様な髪色はしていなかったし、髪も彼より短い。
モレスタ様以外にも来る人いたんだ……。
なんだ、と少し残念に思いながら歩いてくる人を観察する。離れた所からでも分かるくらいに輝く髪は、殿下にも負けないくらいの金色だ。
あんな綺麗な髪の人居たんだ、とどんどん近づいて来る人を眺めてふと気づく。
え、ちょ、ちょっと待って。なんか、見覚えのある感じがするような……。
いよいよ顔の見えるくらい近くなって、ようやく私は気付いた。何で今まで気づかなかったのか。あんなに輝く金色、他にいるはずも無いのに。
いや、殿下本人だーーーー!!
綺麗な髪だなと呑気に思っていたのは、この国の第一王子のリスト・フォウス殿下だった。
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