ストーカー令嬢、悲し嬉し
訓練所中に広がった光は、少しして直ぐに収まった。何事かと、光の出所を見ると
「アンジェロ様……」
「と、殿下だね」
そこには、まだほんのり光る水晶を2人で持っている殿下とアンジェロ様がいた。
「今のって」
「2人の魔法のせいだろうね。魔力が多い上に属性も一緒だから、水晶の反応が大きく出たんだと思うよ」
確か殿下は光属性だったはずだから、アンジェロ様も光属性なんだ。凄い凄いとは聞いていたけど、国内でも数え切れるほどしかいない光属性を使えるなんて、アンジェロ様はやっぱり凄いんだな……。
それに引き換え私なんて、精々小さな芽を生やすので精一杯。それも、ほとんどモレスタ様の力。
きっと、アンジェロ様とやっていたらもっと凄い反応が水晶に出たんだろうな。モレスタ様も2人に負けないくらい魔法が使えるって聞いた事あるし。
私なんかと組まなきゃ……。
さっきまで輝いて見えた芽が、急にとても貧相な物に見えた。
暗い気持ちのままモレスタ様と先生に水晶を渡しに行くと、無事「合格」を貰う事が出来た。
良かった……私のせいでモレスタ様の足を引っ張ったりしなくて。
ほっと安心すると、モレスタ様に名前を呼ばれた。まだ呼ばれる事に慣れなくてついビクッとしてしまう。すると、モレスタ様が私の顔を覗き込んで来た。
「どうしたの?」
「へ?」
「さっきから暗い顔をしているように見えたから」
俺の気のせいだった?と言って私に目線を合わせてくれるモレスタ様。
「え、あっ、な、何も、何でもありません!」
思ったよりも近い距離に焦ってそう言っても、本当に?と更に聞いてくる。凄い、どうして分かったの。そんなにあからさまな顔をしてたのかな私。
「あの、えっと、その……」
「ストレイカ嬢は思っている事が表情に出るから、隠してもバレるよ」
「うっ!」
ズバッと言われて思わず落ち込む。やっぱり顔に出てたんだ……。
でも、嬉しい。あのモレスタ様が、ずって見ていたモレスタ様が、私の事を見て落ち込んでいることに気付いてくれた。
さっきまでの沈んだ気持ちが、モレスタ様の一言であっという間に無くなった。
「その、どうして私なんかと……あ、アンジェロ様や殿下じゃなくて良かったのですか?」
「ああ、魔法の実技練習の時はあの2人はいつもペアを組むからね。属性が同じだから、良く一緒に練習しているんだよ」
そう言うことか。それで、丁度良く昨日見かけた私がいたから声をかけてくれたのかな。
「それに、ストレイカ嬢とは昨日あまりちゃんと話せなかったから話してみたくて」
は、話してみたくて?私と!?話してみたくて!?モ、モレスタ様が私と話してみたかったって事!?何それ、何それぇえええええ!!
…………もう私、今日が命日でいい。
このまま死んでも満足だと幸せに浸ろうとした時、はっと大事なことを思い出した。
そう言えば、昨日の事謝らないと!
昨日はせっかく声をかけて下さったのに、失礼致しますの一言で逃げるように去っていってしまったから、謝らないとと思っていたんだった。
「も、モレスタ様、昨日は申し訳ありませんでした。まともに挨拶もせずに失礼致しました!」
「あぁ、全然大丈夫だよ。俺こそ急に声を掛けて驚かせてしまってごめんね?」
だから顔を上げて、と優しい声を掛けてくれるモレスタ様。モレスタ様が謝る必要なんて全然、これっぽっちも無いのに。
こういうところが、他のご令嬢達にも人気なんだろうな。
モレスタ様はこの美しさに加えて、女性に優しく気軽に声を掛けてくれ、細かい所にもよく気づいてくれると良く噂されている。その唯一無二の魅力に、あの殿下にも負けないくらいの人気がある。
まさかその優しさが自分に向けられるなんて思ってもいなかったから、どう反応したらいいのか分からなくなってしまう。
「い、いえ、モレスタ様は何も悪くありません!えっと、その、遅くなりましたが、私はアーネシー・ストレイカと申します。昨日は挨拶もせずに失礼な態度をとってしまい、本当に申し訳ありませんでした」
私が改めて挨拶と謝罪を伝えると、モレスタ様は本当に気にしなくていいのに、とすこしだけ困ったように笑った。
「それじゃあ、改めまして。俺はアシュレイ・モレスタ。せっかくこうして話せたし、昨日の今日で会えたのも何かの縁だと思うから、良かったら仲良くしてね」
にっこりと効果音が付きそうなくらいの笑顔で言われて、思わず「は、はいっ」と言ってしまった。
本当は仲良くなんて出来ないのに。覚悟決めた途端に、どうしてこんなに色々起きるの。今まで散々ストーカーしてた私が、こんなご褒美みたいな事ばかり起こって拒否出来るわけない!!
もう、どうしてこうなるの~~~~!!!!
私が1人心の中で叫んでいる間に鐘が鳴り、合同授業は無事?終わった。
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