ストーカー令嬢、共同作業


「それじゃあ、ちょっと待ってて」


 そう言ってモレスタ様は先生の所に行ってしまった。


 ちょっと待って、早速練習を始めようってなったのは良いけど何をすればいいのか分からない。さっきは授業どころじゃなくて全然先生の話を聞いていなかったし……。周りを見ても何をしているのかよく分からない。


 そもそも、私は魔法はあんまり得意ではない、というか正直言って苦手だ。モレスタ様の足を引っ張るんじゃないかと思ったら、急に不安になってきた。


「お待たせ、ストレイカ嬢」


 焦っていると直ぐにモレスタ様が戻って来た。


 お待たせって、なんか、で、デートの時みたい…………って、き、気持ち悪い!私、気持ち悪すぎる!まだストーカー思考が抜けないの?さっきも変な事考えたばっかりだって言うのに、いい加減にしなさい私!!


 というか、あれだけ決意したのに次の日にこうやって話してるのはダメなんじゃ……。で、でも、私から近づいたわけじゃないし、授業だし、大丈夫……だよね?


「ストレイカ嬢、始めてもいいかな?」

「あっ、は、はい!!」


 考え込んでいた所に、モレスタ様の声が聞こえて急いで返事をする。挙動不審だろう私にも「じゃあ、始めようか」と優しく声を掛けてくれるモレスタ様にまた、ドキドキしてしまう。


 この直ぐに自分の世界に入り込んじゃう癖、直さないとな……。


「じゃあ、この水晶にお互いの魔力を流し込んで行こうか」


 手に持っていた透明な水晶を上に持ち上げてモレスタ様がそう言うけれど、申し訳ない事に私は何をするのか分かっていない。


「水晶?」

「この水晶に、2人の魔力を流し込んで混ぜ合わせる。上手くできると、属性に沿った反応が現れるからってさっき先生が言ってたけど……さては、聞いていなかったね?」


 まるで悪戯っ子みたいな表情で私を見てくるモレスタ様。


「も、申し訳ありません!その、少し考え事をしていて……」

「ははっ、大丈夫だよ。まあ要はこの水晶に魔力を込めるだけ、魔法を使う為の簡単な魔力操作の練習だから」

「は、はい、頑張りますっ」


 これ以上迷惑は掛けられない、死ぬ気でやらないと。モレスタ様の悪戯っ子顔も可愛い、なんて思ってる場合じゃ無い……!


 モレスタ様の持ってる水晶に私も手をかざして、魔力を込める。凄い魔法や派手な事は出来ないけれど、こういう細かい魔力操作や基礎的な事は比較的得意だ。


「そう言えば、ストレイカ嬢の属性は何なの?」


 魔力を込めながら、私に話しかけてくれる。これ結構集中力いるのに、これくらいモレスタ様程の方なら余裕なんだろうな、凄い。


「えっと、地属性です」

「地属性か……じゃあ、相性いいかもね。俺は水属性だから」


 大地に水は必要でしょ?と笑いかけてくれるモレスタ様。その言葉に、笑顔に、また一つ胸が鳴った。


「そ、そうなんですね。モレスタ様に水属性なんてとてもお似合いですね!!」


 知ってる、知ってます。ずっと貴方だけを、見て来たから。モレスタ様は知らないのに、私はこっそり付き纏っていて知っている事に、今度は罪悪感からチクリと胸が痛んだ。


 何だかモレスタ様の顔を見ていられずに下を向いた時、


「あっ、出来たみたいだね」

「っ!」


 思わず顔を上げると、水晶の中に小さな芽が出ていた。これは、成功で良いのかな……?


「多分、ストレイカ嬢の地属性で出来た種に俺の水属性が混ざって、芽が出たんじゃないかな?」

「な、なるほど……」


 不安が顔に出ていたのか、丁寧にモレスタ様が説明してくれた。


「じゃあ、これを先生に渡しに行こうか」

「はい!」


 モレスタ様の少し後ろをついて行く。前まではあり得なかった光景に、何だかふわふわする。しかも、初めてモレスタ様と力を合わせて作った芽。


 チラリとモレスタ様を見ると、手元の水晶に目がいく。


 あれ、欲しいな……。


 いや、流石に授業で使ったものはダメだよね。そもそも、モレスタ様の目の前でこれ下さい!なんて言えるような度胸あったら、ストーカーなんてやってない。前までの私なら何とか人目を盗んで手に入れようとしただろうけど、もうそんな事絶対出来ないし……。


 諦めるしかないか……。


 仕方がない、と我慢しようとした時、訓練所中に凄まじい光が広がった。

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