ストーカー令嬢、ライバル遭遇



 どうして今日に限ってこうも色んな人に会うの。普段は、1人こっそりモレスタ様を眺めているだけなのに。


「嫌われたらって……もしかして、モレスタ様の事ですか?」

「っ!」


 さっきの聞かれてたんだ、最悪だ。

 アンジェロ様は、私にこんな風に絡んで来る事が多い。正直私はこの人が苦手だから近づきたくも無いんだけど、そんな事直接言える訳もない。


「またモレスタ様の事追いかけていたんですか?」


 眉を顰めながら、聞かれる。この人のこの目が苦手だ。真っ直ぐ逸らす事なくこちらを見て来て、私はいつもその目を見れなくて、そっと視線を逸らす。


「……ストレイカ様、幾ら好きでも後をつけたり周りの物を持って行ったりするのは、良くないと思いますよ」


 また始まった、いつもいつも同じことばかり。


「ストレイカ様にはもっと他に、相応しい方がいらっしゃると思うんです」


 ……だから、モレスタ様には貴方が相応しいとでも言いたいの。別に、私だって自分がモレスタ様には不釣り合いな事くらい分かってる。でもどうして、関係ない貴方にそんな事言われないといけないの……っ!




 ……って、そういえば私ストーカーなんだった。


 モレスタ様との事ですっかり頭から抜けてた。悪いのは私だ。寧ろアンジェロ様は、厄介なストーカーをモレスタ様から遠ざけようと勇気を出して行動する女の子。


 確か彼女は貴族ではないけれど、魔法の実力を認められてこの学園に入学した異例の天才だったはず。ただでさえ慣れない場所で、こんなのとはいえ一応伯爵令嬢の私にこうも言ってくるなんて、相当勇気がいると思う。


 それだけモレスタ様が好きなんだろうな……。


 ……ライバルなんて、馬鹿みたい。自惚れもいいとこだ。こんなに可愛らしくて、実力もあって、勇気もある子に勝てる訳がない。そもそも、ストーカーの私に勝負する資格もないのだろうけど。


 きっと周りから見たら、私はお話でよく見る悪役で、アンジェロ様がヒロイン。


 悪役は、さっさといなくならないと。


「大丈夫です」

「え?」

「モレスタ様には、もう……近づきません」


 そう言うとアンジェロ様はとても驚いたように目を見開いて、固まってしまった。


「?アンジェロ様……?」

「っど、どうしたんですか急に……」


 今度は困惑しながら聞いてくる。まあ今までの私は、何度アンジェロ様に言われても止めることは無かったから、驚くのも当然なんだろう。


「やっと、気付いたんです……自分が何をしているのか」

「え?」

「今まで何度も注意して下さっていたのに、申し訳ありませんでした。もうモレスタ様には近づきませんので、ご安心下さい」


 そう言って、私はそこから逃げ出した。




 これでいい、良くやった私。もうモレスタ様に迷惑をかけるのはやめないと。


 それに、アンジェロ様はモレスタ様を好きだろうし、モレスタ様も多分……。2人は同じクラスで、よく話しているのを見るし、何よりあんな可愛らしい人とストーカーの私じゃ比べるまでもない。


 うん、大丈夫。時間が経てば忘れられるはず。明日からは、付き纏わないで静かに過ごすの。


 直ぐには無理でも、きっといつか素敵な人に出会える。モレスタ様の事も忘れられちゃうくらい、とっても素敵な人に。


「よし、頑張るぞーー!!」


 無我夢中で走っていたら、いつのまにか居た周りの人達に聞こえていたみたいで、変な目で見られたけど気にしない。


 頬が濡れてるのも、漏れそうになる嗚咽も、全部全部、気にしない。



 モレスタ様より素敵な人、いるかなぁ……

 

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