ストーカー令嬢、前途多難



 カーテンの隙間から降り注ぐ光で、自然と目が覚める。


「先行き不安だな……」


 モレスタ様のストーカーを止めようと決めて迎えた朝は、いつも通りの時間に目が覚めた。今まではモレスタ様を朝から待つ為に早く起きて準備していたけれど、今日からはもうしなくていいのに。


「習慣って怖い……」


 起きてしまったものは仕方がない、いつもよりゆっくり時間をかけて準備をする。




 この学園は全寮制だから、家みたいに侍女はいない。使用人を連れて来ている人もいるみたいだけれど、私は両親に言われた時に断った。


 今だけはそんな過去の自分を褒め称えたい。


「真っ赤……」


 お風呂上がり、鏡に映る自分の顔を見て、思わず呟く。


 何かありました、と言わんばかりに腫れた目は自分で見ても痛々しい。昨日は走っていたらいつの間にか見覚えのある所にいて、そのまま部屋に戻って寝た。


 せめて、顔を洗うくらいはして寝たらもう少しマシになっていただろうに。取り敢えず温かいタオルで抑えるが、どれくらい効果があるのか。


「いつも通り起きたのが、不幸中の幸いってやつかな」


 もっと遅く起きていたら、間違いなく真っ赤な目で外に出る事になっていただろう。いっその事、この目を理由に今日は休んでしまえば良かったかな。


 「ん、大分マシになった」


 最初に比べたら大分腫れは引いたと思う。近づいて見られない限りは、バレないだろう。


 昨日あんな事言っておきながら、真っ赤な目で一日過ごすなんて格好つかないしね。万が一アンジェロ様にでも見られたら、恥ずかしすぎるし。


「よし、昨日までの私とはさよなら!ストーカー卒業!モレスタ様卒業だ!!」


 1人部屋で意気込んだ私は、気合を入れて部屋を出た。






※※※※



 ……はずだった。


「……どうしてこうなるの」


 朝部屋で意気込んだのは何だったのか。私の目の前には、モレスタ様と殿下、そして、アンジェロ様が揃って立っていた。




 おかしい、どうなっているの本当に。順調だったはずなのに。


 朝、ついいつもの癖でモレスタ様の事を探しそうになったけれど、ちゃんと自分の教室に向かった。授業合間の時間も、ついいつもの癖でモレスタ様の教室まで行きそうになったけれど、1人席でじっとしていた。お昼休み、ついいつもの癖でモレスタ様を追いかけそうになったけれど、思い止まって静かに1人でご飯を食べた。


 じゅ、順調とはいえないかもしれないけれど……。でもまあ、今まで毎日ずーーっとしていた事を急に変えるって難しいもん!ちゃんと我慢しているんだから、頑張っている方だよね!……多分。




 それなのに、こんなに震える体を押さえ付けて頑張っているのに!何で、今日に限って急に……合同授業なんてするの!?


 先生は「急に思いついたから」とか適当な事言ってたけれど、もし本当にそうならいい迷惑もいい所だ。何で、このタイミングで、先生の気まぐれに付き合わされなきゃ行けないの!!


 なんて、先生の急な一声で移動させられた魔法訓練所で、私は1人考えていた。


 周りを見ても人、人、人。2クラス分の人の数に私は埋もれそうになる。急に決まった合同授業はまさかのモレスタ様のクラスとだった。モレスタ様は殿下とアンジェロ様と同じクラスだから必然的にその2人とも一緒な訳で────

 

 き、気まずすぎる……!


 特にアンジェロ様とは、あんな会話しといて次の日にもう会うなんて……。別にこれは偶然なんだから、大丈夫だよね。それに、隠れていれば見つからないだろうし。


「それじゃあ、近くのやつと組んで練習を始めろ~」


 なんて、気の抜けた先生の声で私の焦りは別のものに変わった。


 ち、近くのやつと組めって、誰と!?あいにく私は今までストーカー行為に忙しくしていたせいで、これと言って仲のいい子がいない。特にそれを苦に思った事はなかったけれど、まさかそれが仇になるなんて。


「ど、どうしよう……」


 取り敢えず周りを見渡すと、早速練習を始めている人がいて焦る。知らない人に気軽に声をかけられるほど私は口が上手くはないし、そんな度胸もない。


 もういっその事隠れてやり過ごそうかな……。


 これだけ人がいたら1人くらいサボっててもバレないよね。うん、そうしよう。


 そう決意した私は、早速バレないように隅っこの方に隠れようとした時──


「ストレイカ嬢」


 な、なんかこの状況、凄く覚えがあるような……。


 聞こえてきた声に恐る恐る振り向くと、綺麗な笑顔でモレスタ様がお立ちになっていました。

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