ストーカー令嬢、供給過多
最悪だ……あと少し遅く来てくれたら、あと少し早く思い出していたら、鉢合わせずに済んだのに。
「俺以外にも、ここに来る人がいるとは」
す、すいません、あなたを待ち伏せていたんです、偶然なんかじゃないんです。だからそんな綺麗な目でじっと見ないで……っ!
せっかく、初めて直接お話できるのに、もう罪悪感やら何やらでとてもモレスタ様を見れない。
「ストレイカ嬢は、花が好きなのかな?」
全然!花じゃなくて貴方が好きです!!……なんて言えるわけない。どうやってここにいる言い訳しよう…………て、え?今、ストレイカ嬢って言った?待って、聞き間違いじゃないよね!?
「っ、い、今っ──」
思わず顔を勢いよく上げると、それはそれは綺麗なお顔が微笑んでおられました……。
「ぐぅっ!!」
「ストレイカ嬢!?」
あまりの美しさに思わずふらつくと、モレスタ様が心配して肩を支えてくれる。しかし、更に縮まる距離と触れる手、聞き間違いでは無いとばかりにもう一度名前を呼ばれた私は、もう限界だった。
待って、本当に待って!手が、肩が!名前が!ス、ストレイカって、ストレイカ!わたし、ストレイカ!!
「し、」
「……し?」
「死ぬ!!」
自分の死を悟った私はそのまま「失礼致します!!」と何とか挨拶だけをしてその場から逃げ去った。とても令嬢、いや、人間とは思えない速さで。
本当に、何なの!もう、何であんなに格好良くて優しいの!?何で私の名前知ってるの!!何であんなに、あんなに……っもう、もう!
「好きぃいいい!!!」
モレスタ様の過剰摂取に訳もわからず叫びながら走っていると、見覚えのない所まで来てしまっていた。周りを見渡しても人は見当たらない。
「もう……ここどこ」
この学園、本当に広過ぎる。新入生でも無いのに未だに迷うなんて思わなかった。叫んで走って疲れた私は、取り敢えず見つけたベンチに座って一息つくことにした。
落ち着くと、ふと先程のやりとりを思い出してじっとしていられなくなる。
初めて、話した。あんなに近くで、直接、ふ、2人きりで……!あんなに近くで声を聞いたのは初めてだった。私だけに向けられる声、顔、あと……手。て、手が、モレスタ様の手が、肩に触れた。長くて、綺麗で、でも男らしい手が……
「好きぃぃぃ……」
思い出して、顔が熱くなる。顔どころか全身燃えちゃったんじゃ無いかってくらい熱い。
伊達にずっとストーカーやっていない。ずっと遠くからひっそりと見ていたのに、こんな急に色々起きるなんて……嬉しいけど、嬉しいけど、もう頭と心の処理が追いつかない。
というか、あまりの限界に逃げてきちゃったけどすっごく失礼な事しちゃったんじゃ……。
「ど、どうしよう……」
せっかく、モレスタ様が私の事心配してくれていたのに、私ったら自分が限界だからって「失礼致します」の一言で逃げ出してしまった。
「嫌われてたらどうしよう、生きていけないよぉ……」
「何かあったの?」
突然降ってきた声に下げていた顔を上げると、1人の女の子が立っていた。
肩まであるふわふわした金色の髪に白い肌、髪と同じ色の瞳はキラキラ輝いてる。まるで空から降りて来た天使みたい……誰もがそう言うだろう美しさ。そして、この学園で1.2を争う魔法の使い手。
「シンリー・アンジェロ様」
私のライバルで、苦手な人だ。
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