第2話

 カクヨム投稿用のPCが鎮座する座卓の自室。

 戸締りを確認。ベランダ側のカーテンを閉じ、再び念のため戸締りの『ダブルチェック』を行う。休日を過ごす家族には見て欲しくない。

 手にはクスリ箱から持ち込んだ、商品名『プリ座S・軟膏』。

 飾らない銀色パッケージが、いかにも玄人っぽい。


 そう、これは『医療行為』である。

 私は自分に言い聞かせる。

 血行促進、便通の改善、切れ痔の予防。

 消毒の意味もだろう。スムーズな挿入も手助けしてくれる、かもしれない。

 決してで肛門に指を入れるのが怖い訳ではない。


「頼むぞ、プリ座!」


 部屋の中央に下着を脱いだ『おむつ替え』の姿勢で仰向ける私は、左手中指に白色クリーム状の薬剤を、たっぷりと乗せた。


 小指では心許ない。

 結婚指輪はしない私だが、薬指は愛する妻に対して申し訳ない気がする。

 人差し指の技巧テクニックは充分なのだが、この子は『鼻くそ』専用にしたい。他の事、特に『臭い』関係に使う事は少々躊躇ためらわれる。

 親指の頼もしい太さには、その逞しさ故に『依存性』への恐怖が勝ちすぎた。

 その『中太り』のシルエットには、もう二度と子供たちと無邪気に笑い合う日々に戻れない、修羅の旅路へ誘う征服者の威厳と悪意が強く感じ取られる。


 ベストチョイスである中指の腹を菊門へ当て、にゅるんと少し刺してみた。

 意外と抵抗しないぞ。

 私はもっと慎み深い方だと己惚うぬぼれていたが、自分の身持ちのゆるさに少々ガッカリする。

 それでも薬液のメンソール刺激が、一方通行出口からの進入を許した背徳感に心地よい。


 おそらく勇者『中指』は今、爪が隠れるぐらいの第一関節あたりまで進んでいるのだろう。

 痔の治療の際には、この辺りで事は足りる。


 だが私の冒険はまだ、始まったばかりだ。

 まずエントランス付近を軽く探索。

 ぐりぐり。


「……いない」


 それは探索前から、ある程度予測していた事だった。奴はもう出口の辺りには居ないだろう。

 デンジャラスモードの水流に恐れを成して、ダンジョンの奥深くに身を潜め、虎視眈々、反撃の機会チャンスを窺っている筈だ。

 このまま慎重に進んで行けば、ひょっとしたら奴の隠れ家アジトを突き止めることが出来るかも知れない。

 果たしてそこには『ダンジョン・マスター』への褒章、お宝が眠っているのだろうか?


「よし第二関節まで、進めてみよう」


 私は更なる危険を求めて勇気を振り絞り、未知の領域へ『指』を踏み入れる決断をした。



 にゅにゅにゅにゅ……。


 頼もしいぞ『盛りだくプリ座』よ。潤滑効果がまだまだ続くではないか。

 直腸内で味わうミントの清涼感。


 にゅにゅにゅにゅ……。


 慎重に辺りの様子を伺いながら『指』を進めて行く中、恐ろしい考えが頭をよぎった。


(道が二股に分かれていたら、どうしよう)


 それは『有り得ない』話しじゃない。

 先日奴は『後続の新人』に道を譲ったのだ。

 何処か別な通路、追い越し車両をやり過ごす『登坂車線』が私に有っても不思議ではない。


(或いは『弾倉』が腸内に存在するとか)


 リボルバー拳銃のように回転式の蓮根ロータス構造の穴の中に弾丸が装填されていて、次に発射される者が『薬室』へと送り込まれる。


(薬室……今いるこの直腸内では、『勇者指』の全身を包む締まり具合から見て、一列縦隊だと思うのだが、はたしてこの先には……)



 にゅにゅにゅにゅ……。


 ついに第二関節まで進入に成功する。

 おめでとう私。

 此処は既に『私史上』未踏の、暗黒大陸だ。


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