64:想定された最悪の展開

 俺たちが所定の位置に立ち、試合が開始された。

 ちなみにステージの地形と相手の開始地点だけは情報が共有される。

 その少ない情報を頼りに、相手を探し、潰していかなければならない。


「では早速、作戦通りに行きますよ!」


 パンッと手を叩いてユイが合図した。

 俺たちはそれぞれ、事前に話し合って決めた作戦通りに行動を開始する。

 ちなみに俺に役割は相手の主力を足止めすることだった。


 昨日、ホテルの部屋でステージのマップを皆で囲みながら話し合ったことを思い出す。


『おそらく相手チームは定石通り、このルートの中のどれかを通ってこちら側に攻撃を仕掛けてくるはずです。トオルさんは一番可能性の高い、ここを押さえてください。ここからの突破を押さえられれば、一気に私たちが有利になります』


 そう言ってユイが指さしたのはこちら側が荒野となり開けていて、向こう側から来る方向が森になっていて障害物が多い、という場所だった。

 つまりこちら側の荒野にいると、森に隠れながら一方的に攻撃される可能性が出てくるということだ。


『事前調査だと、相手チームのメンバーは、近距離が得意な人が4人の遠距離系が2人の構成でした。つまり森に遠距離系のメンバーを中心に配置すると思われます。もしかすると、その中にリーダーがいるかもしれません』


 まあ、普通に考えたらそうだろうな。

 そう単純に進むかは分からないが、一応いくつかの可能性も考えて、対策も練ってあった。

 そんなことを思い出しながら、俺はその荒野に辿り着いた。


「……気配は、ないな」


 俺は森に、相手からの攻撃が届かなそうなギリギリまで近づいたが、全く気配を感じなかった。

 隠れている可能性を考慮して少し様子を見たが、顔を出してくる感じはない。


「もう少し近づいてみるか」


 その頃にはもう、この相手陣地からの有利ポジを放棄した可能性を考慮していた。

 が、ここで逃すのもマズいし、実は隠れていて、気が付かず後ろを取られる、なんてのが一番マズい。

 俺は慎重に探るように森の方に近づいていった。


「……やっぱりいない」


 どれだけ近づいても、相手が攻撃を仕掛けてくることはなかった。

 俺は森の中まで入り、探してみたが、敵はどこにもいなかった。


 瞬間、会場にブザーが鳴り、アキハがやられたことを知らせるアナウンスが流れた。


「――っ!? くそ、やっぱり一番最悪のパターンか!」


 一応、この展開は想定していたが、その中でも一番最悪の展開だった。

 俺はこの展開になったときの対処法を思い出しながら、荒野を全力で突っ切るのだった。

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