61:開幕直前のできごと

 調査を終えた次の日、俺たちはロンドン迷宮の第43層に来ていた。


 第43層はダンジョン内でも特殊な階層で、大きな闘技場があり、魔物もほとんど湧かない階層だ。

 闘技場の周辺にはすでにたくさんの探索者たちが来ていて、とても賑わっていた。

 今日は開幕式だけで直接的な試合はないので、みな軽装だ。

 たくさんの出店も並び、あちこちでテレビのリポーターやら配信者やらがカメラに向かって話していた。


「俺たちも配信するのか?」


 周りのその様子を見て、俺はユイに尋ねた。

 するとユイは首を横に振り、ニヤリと笑みを浮かべた。


「いえ、まだ配信はしないです。配信は決勝前と優勝後にとっておきましょう」


 なるほど、それまでは情報を制限して、視聴者の想像に任せるつもりなのか。

 すでにファンもついているので、ここで情報を制限すれば、あちこちでどうなっているかと話題になる……かもしれない。

 試合内容は公式での配信やテレビでの放送があるだろうから、内容を追えないってことにはならないはずだし。


 俺は納得したように頷いた。


「そんなことより! まだ開幕式まで時間があるから、出店でいろいろ食べ物を買いましょ!」


 そんな会話をしていると、アーシャが待ちきれないといった感じでそわそわしながらそう言った。

 他のみんなもアーシャほどではないが、この場の空気に当てられて出店を興味深そうに眺めている。


「確かに時間までいろいろ見て回るか」

「そうこなくっちゃ! ロンドン名物、フィッシュアンドチップスを食べに行くわよ!」


 そう言って意気揚々と歩き出すアーシャ。

 そういえばイギリスってメシマズって聞いたことあるけど、大丈夫なのだろうか……?


 俺は不安になりながらもアーシャに続く。

 他のみんなも俺に続いて、先に出店で店長に絡み始めているアーシャに近づいた。


「ヘイヘイ! フィッシュアンドチップスはあるかしら!」

「……っ!? お嬢ちゃん、もしかしてアーシャさんか!?」

「あら、私のこと知ってるの?」


 店長のおっさんはアーシャを見て目を見開き、大声を上げた。

 その大声は思ったより大きく、周囲に響き渡る。

 それを聞きつけた参加予定の探索者たちは、血走ったような目でこちらを見てきた。


「……うっ、これはマズそうですね」


 その様子に気がついたリンが口元を引きつらせながら言った。

 確かにこのままここに居たら、すぐに揉みくちゃにされそうだ。

 フィッシュアンドチップスを買いたくてウズウズしていたアーシャの手を取って、俺たちは人気のないところまで逃げるのだった。

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