57:最上階のスイートルーム

 ファンから解放された後、タクシーでホテルまで移動する。

 凄く立派なホテルだ。

 見上げると首が痛くなりそうなくらい背の高いホテルだった。


「このホテル、かなり高かったんじゃない?」

「確かに高かったですけど、クランのチャンネルの収益がかなり入ってきているので」


 俺の問いにユイがそう答える。


 そういえば、どれくらいの収益が入ってきているのか把握していなかった。

 そこら辺の管理も全部ユイにやってもらってたからな。

 ユイが優秀だからって、ついつい仕事を任せっぱなしにしちゃうけど、良くないよな。

 うん、帰ったらちゃんと労ってあげて、仕事も代われそうなのはやってみるか。


 俺たちはロビーで受付を済ませ、ホテルマンに部屋まで案内してもらう。

 エレベーターに乗り、ホテルマンが最上階のボタンを押した。

 ……最上階って、もしかしてスイートルームとかか?

 なんかチャンネルの収益を後で確認するのが怖くなってきた。

 一体どれだけ稼いでるんだ……。


 チンッと音が鳴り、エレベーターが止まる。

 その階には扉が一つしかなく、おそらくこの部屋のために作られた階なのだろう。


「こちらがカードキーになりますね」


 ホテルマンがカード型の鍵を見せながら、扉を開けた。

 拙いがちゃんと日本語である。

 流石、高級ホテルのホテルマンは多言語に対応しているらしい。


 扉が開き、部屋の中が俺たちの目に晒される。

 シックだけど質の良い家具たち。

 大きなリビングがあり、その周囲にいくつかの扉がある。

 そして、リビングの一面を覆うガラス張りの窓からは、夕暮れに染まるロンドンが一望できた。


「きれい……」


 思わずといった感じでアキハが感嘆の言葉をこぼした。

 良いところの生まれのリンや、探索者として死ぬほど稼いでそうなアーシャでさえも、そのロンドンの街並みに感動している。


「みんなのこの表情が見られるなんて、スイートルームを予約できて良かったです」


 いたずらが成功したような顔でユイが言った。


「これは流石になかなか見られる光景ではないと思うわ……」


 世界中を飛び回っているアーシャでさえもそう言うのだから、やっぱり凄いのだろう。

 そしてホテルマンが荷物を置いて退出し、俺たちは部屋の探索をすることになった。


「おおっ、寝室が広いですよ!」


 各々扉を開いたりして広い部屋を楽しんでいると、アキハの嬉しそうな声が聞こえる。

 俺たちはゾロゾロとその部屋に集まった。


「このベッド、メチャクチャいいやつじゃない」

「……そうですね。このランクのやつは五年待ちとかだったはずです」


 アーシャとリンがそう言いながら目を輝かせている。

 ユイも広々としていて、ゆっくり疲れを癒やせそうな寝室に思わず本音をこぼす。


「この部屋に一生住みたい……。そうすれば肩こりとも腰痛ともおさらばできそう……」


 うっ……罪悪感が……。

 その肩こりとか腰痛って、俺がデスク仕事を任せてたからな気がするぞ……。

 マジですまん……。


 各々そうして寝室に感動していたが、その中に一石を投じるようにレイジ君がボソッと。


「この寝室、ベッドが三つなんですね?」


 ……確かに。

 男は俺とレイジ君の二人。

 女性はユイ、リン、アキハ、アーシャの四人。

 数が合わない。


 瞬間、一気に緊張感が高まる。

 レイジ君はともかく、俺みたいなおっさんと一緒に女性が寝るのは良くないと思うからな。


「いったん、ロビーに電話でもするk——」

「いえ、電話する必要はないですよ。私たちの誰かがトオルさんたちと寝れば良いだけですから」


 俺の言葉を遮るように、前のめりにユイが言った。

 ……む?

 ちょい待ち、それが良くないって話なのでは……?

 一瞬、俺の思考が固まってしまっていたうちに、話がどんどん進んでいく。


「で、誰が向こうに行くかですよね」

「どうやって決めるの?」

「ふふふっ、こういうときは全身全霊で勝負するのが常というもの! 私の持ってきたボードゲームで勝敗を決めましょう!」


 アキハ、ボードゲームなんて持ってきていたのか。

 完全に遊ぶ気満々じゃないか。


「アキハ、よくボードゲームなんて持ってましたね」


 呆れたようにユイが言った。

 それにアキハは胸を張って少しずれた返事をする。


「私の家は兄弟姉妹が多いですからね! こういったパーティーゲームはお手の物ですよ!」


 早速リビングに戻ってボードゲームの準備をしようとするアキハたちに、俺は待ったの声をかけた。


「ちょいちょい。夕飯を食べてお風呂に入ってからの方が良いんじゃないか?」

「確かにそれもそうですね! それでは夕飯を待ちますか!」


 俺の制止の言葉にアキハは頷くと、ボードゲームを仕舞い直した。

 そして俺たちは三〇分くらい各々好きに過ごして、ロビーから夕飯に呼ばれるのを待つのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る