53:最も重要な才能

 レイジ君を引き連れて、第10層のボス部屋の前まで来た。

 第10層のボスは【スローリー・ピッグ】。

 攻撃力はなく頭もそこまで良くないが、半径10メートル以内の敵対者を強制的に遅くするフィールドを作り出すので、ひたすらウザい相手だ。


 そもそも攻撃が当たらない、当たっても威力が出ない、ってことで躓く初心者も多いのだとか。

 だが逆にレイジ君を鍛えるにはとてもいい環境だとも言えた。


「とりあえずアドバイスはなしだ。自分で考えて戦ってみてくれ」

「はい、分かりました! 頑張ってみます!」


 元気よくレイジ君が返事をして、早速ボス部屋の扉を開ける。

 中にはピンク色の豚型の魔物【スローリー・ピッグ】が待ち構えていた。


「うっ……!」


 ボス部屋の中はほぼほぼフィールド内だ。

 入った途端、身体が重くなったような感覚を受ける。


——このフィールド、やっぱり面倒だよなぁ。

——流石は初心者の大きな壁。

——ここで躓くやつ、かなり多いからな。


 コメントたちもレイジ君の反応を見て、懐かしそうな感じになっている。

 うちの視聴者たちはそこそこ進んでる人たちが多いみたいだし。

 この10層ボスの壁を超えてきた人たちもたくさんいるのだろう。


「さあ、レイジ君。頑張って」


 俺が言うと、彼は頷いて双剣を握った。

 いつもの三分の一ほどの速度で【スローリー・ピッグ】に接近していく。


「ピギュッ!」


 ボスは甲高い鳴き声を上げると、レイジ君に向かって突進していった。

 やつだけが唯一このフィールド内で自由に動き回れる。

 このフィールド内では素早い動きでレイジ君に迫っていった。


「くっ……!」


 それをレイジ君はギリギリのところで身をよじって躱す。

 しかし慣れない速度のせいか、足を絡ませて転けてしまった。


 その好機を逃す【スローリー・ピッグ】ではない。

 再びレイジ君の方に向き直り、突進を開始する。


「ピギュゥウウゥウッ!」


——これは駄目かもな。

——まあ、まだ一回目だし。

——最初にしてはよくやった方でしょ。


 コメント欄はすでに諦めムードだ。

 しかし俺はレイジ君の様子を黙ってじっと見ていた。


 彼もまた、諦めずに立ち上がった。

 しかしすでに【スローリー・ピッグ】は直前まで迫っており、避ける暇はない。

 どうするのかと思っていると——。


 腰を下げ、受け止めるように目の前で双剣をクロスさせた。

 瞬間、【スローリー・ピッグ】の鼻先が双剣にぶつかり、ザクッと裂ける。


「ピギュゥウウウウゥッ!」


 悲鳴が上がった。

 単純な答えだが、迫ってくる魔物を正面から受け止められる初心者は少ない。

 意外と怖くなって足がすくんだりしてしまうものだ。

 だが、レイジ君はしっかりと【スローリー・ピッグ】を見つめ、正面から全力で受け止めた。

 十七歳の初心者の胆力ではない。


——おおっ、なかなかやるね。

——俺でも最初から魔物の突進を受けるなんてできなかったぞ。

——意外と彼、才能あるのかもな。


 コメント欄もかなり好意的だ。

 しかし受け止めたのは良いものの、それ以降は反撃もままならず、最終的に俺が倒して今日の特訓を終えるのだった。

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