51:呆気なさすぎるボス戦

「久しぶりだな、幻影ヘビ」


 俺は数年ぶりに再開するボスにそう挨拶をする。

 290層はあまり美味しいドロップとかもないので攻略して以来、全然足を運んでいなかった。


「一応、貴方以外の人にとっては未到の地なんだけどね!」

「……確かに言われてみればそうか」

「290層のボスに久しぶりだなんて言えるのは貴方くらいね!」

「と、ともかくさっさと倒してしまおう」


 俺はすぐさま意識をボスに向けさせる。

 うん、これについては考えない方針で行こうか。


「そうね! 早く終わらせて銭湯に行くんだから!」


 どうやらアーシャは日本の銭湯に憧れを持っていたらしい。

 ダンジョンに来る前に行けばと言ったのだが、どうやらちゃんと汗をかいた後に行きたいみたいだ。


 悠長にそんな話をしていると、放置されていた幻影ヘビが怒りの叫びを上げる。


「シャァアアアアアアアアアアアア!」


 そしてアーシャに向かって催眠のスキルをかけてこようとするが……。


「あっ……」


 次の瞬間には幻影ヘビは事前にかけておいた【魔術反射】によって自分の催眠にかかってしまった。

 そしてスヤスヤと眠り始める幻影ヘビ。


「ええと……」


 困ったなぁ、これでは血湧き肉躍る戦いなんてありゃしない。

 てかこのスキルがあればこんな楽に攻略できるのか、このボス。


「……起こす?」

「いや、わざわざ起こす必要もないだろう。——せいっ」


 俺は首を横に振ると眠っている幻影ヘビに近づいて大剣を振り下ろした。

 斬ッと真っ二つになり粒子となって消えていく。


「呆気なさすぎない……」

「ホントだよ。なんだよこれ……」


 思わず俺とアーシャはポカンとした顔を合わせると、小さく笑った。


「まあ銭湯に行くか」

「そうね! ようやく銭湯に行けるのね!」


 やっとアーシャのテンションも戻り、俺たちは290層のエレベーターに乗り込んでダンジョンを後にするのだった。



   ***



「ふう……久々に銭湯に来たけどやっぱり良いな」


 若い頃、お金がなかったときは銭湯に随分とお世話になっていたが、ダンジョンのドロップ品で稼げるようになってからご無沙汰していた。


 しかし久しぶりに来るとやはり良いものだ。

 くたびれたおっさんやお爺ちゃんしかいないが、これもまた一興。

 俺もこの場では自然と溶け込めている。


 そして俺はしばらく浸かったのち、待合室に出てコーヒー牛乳を飲みながらアーシャを待っていると、テンションが異常に高いアーシャが出てきて、コーヒー牛乳を見た途端さらにテンションを上げるのだった。

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