41:455層に行きます

 そしてクランが本格的に稼働した初日。

 俺は自分の到達階層である450層にきていた。


 クラン用のチャンネルで初めての配信だ。

 まだ一本も出してないのに、登録者が30万人もいる。

 それだけ注目度が高いということだろう。


 そして配信をつけると、すぐにコメントが打ち込まれた。


——おっ! ついにきた!

——ようやく始まった!

——これからどう成長していくのか、楽しみ!


 そんなふうにたくさんコメントがつく。

 同接は現在4万。

 登録者数30万にしては多い方だろう。


「さて、今日は到達階層を更新していこうと思う」


 そう言うと、コメント欄は盛り上がっていく。


——おおっ! いいね!

——ついに人類が450層を超えるのか。

——こいつが人類の未到の地を切り開いていくのかと思うと不思議だな。


 確かに自分でもまだ思う。

 俺が最先端でいいのだろうかと。


 でもアカネとのやり取りで俺は自覚をした。

 自分のことを客観的に見るようになった。


 そして自分が多少は特別な存在であることを認識した。

 まあ認めたくはないけどね。


「それじゃあ、早速いくぞ〜」


 俺はそういうと、ドンドンと深みへ潜っていくのだった。



   ***



——やっぱり頭おかしいな。

——強すぎる。これ、人類未到の地なんだよな……?

——455層とは思えない安心感。


 俺が魔物を一刀両断し続けているとそうコメントがつく。


「いや、俺だって結構本気出してるぞ。最初から破壊神を憑依させてるし」


 まあ生死をかけた戦闘とまではいかないけど。

 そして同接も10万を超えた。

 やっぱり人類未到の地を攻略しているということで、注目度はドンドンと上がっている。


——まだ余裕があるように見えるのですが……。

——そんなことを言いながら400層のボスを5体同時に相手しないでください。

——こいつ、片手間に【伝説ゴーレム】を葬ってやがる……。


 まあ何度も倒してる相手だしな。

 しかし450層と455層はあまり変わらないらしい。

 出てくる数が少し増えたくらいか。


 1時間後——。

 俺はようやくボス部屋を見つけていた。


——ボス部屋まで来るの早過ぎな。

——どんなボスが出てくるんだろう。

——ワクワクするな。


 俺はそんなコメントたちに応えるように扉を開ける。

 そこには前に戦った【エンシェント・ドラゴン】の色違いがいた。

 ちなみに450層のボスドラゴンの名前は、初めて出てきた魔物だったからあの時はなかったが。

 お偉い方が色々と協議して【エンシェント・ドラゴン】に決まったらしい。


——また強そうな……。

——450層のボスの色違いか。


「まあこれなら一度戦ってるし、いけるでしょ」


 そういうと、敵はそんなことないと言わんばかりに吠えた。


「グギャァアアアアアアアアアアアア!!」


 どうやらやる気はバッチリらしい。

 俺は大剣を体の前で構えると、腰を捻る。


 絶妙な間合いの中、最初に攻撃を仕掛けてきたのはドラゴンの方だった。


 口を大きく開けると——。


 ゴウッ!!


 一瞬光ったかと思ったら地面が抉れていた。

 危ねぇ……もう少しで当たるところだった。


 前のやつよりも速度が速い。

 威力はそこそこかな。


——なんだ今の速さ!?

——全く見えなかったぞ!

——これ、速過ぎて映像のフレームにも入ってないような……。

——この配信は120FPSだったはずだから、0.008秒は超えてるのか。


 確かにこの速度だと映像にも入り切らないのかも。

 そんなことを思っていると、もう一度ドラゴンが口を開けた。

 予備動作があるから、避けるのは簡単だな。


「【神話の書・出典:魔術反射】」


 しかし今回は避けることはせず、反射してみる。

 意外とこの目論見は上手くいったのか、次の瞬間にはドラゴンは悶えていた。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 うん、ちゃんと効いているらしい。

 そして俺は【創造の書・出典:破壊神憑依】を使ったまま地面を蹴る。


 一瞬で近づいた俺は大剣を思い切り振り下ろすが……。


「あれ、いない……」


 振り下ろした先にはもうドラゴンはいなくなっていた。

 ふむ……こいつは速度重視のドラゴンらしい。


 周囲を見たわしてみると、離れた場所で再びドラゴンは口を開いていた。


 ——あ、まずいかも。


 ゴウッ!!


 俺がそう思うと同時に、立っていた場所が抉れる。

 …………ふう、危なかった。

 一歩でも判断が遅れていたら、俺は跡形もなく消えていたかも。


 俺は空中に飛び上がりながらそう考える。

 そして【達人の書・出典:瞬間伝達】と【達人の書・出典:空中加速】を組み合わせて空から奇襲する。


 ドラゴンは俺が空にいることに気がついていないみたいで——。


 ザンッ!!


 思い切りドラゴンに空からの剣戟を浴びせる。

 流石に思ってもいない場所からの攻撃は避けられなかったようだ。

 簡単に真っ二つに引き裂かれて、結晶となって消えた。


 どうやら速度に全振りで耐久性はないらしい。


——か、勝った……。

——結構呆気なかったな……。


 なんだかコメント欄にドン引かれている気がする。

 まあ、いいか。

 現在の視聴数は25万。

 まあそこそこだな。


 チャンネル登録者数も30万から50万に増えてるし、いい感じに成長している。


「とうわけで、今日の配信は終わりだ。見にきてくれてありがとう」


 そういうと配信を終えて地上に戻る。

 明日は立て続けにリンたち三人の200層攻略の配信がある。


 俺はそれを楽しみに思いつつ、家に帰るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る