34:捨てられたレイジ

「……なっ! トオルさん、どうしてここに?」


 狼狽えたようなレイに俺は首を傾げる。


「どうしてって、俺はこのレイジ君にダンジョンについて教えてたんだけど……」


 するとレイはレイジを射殺さんばかりに睨みつける。

 そして低い声でレイジに言った。


「お前……どうやってトオルさんに取り入った? お前みたいな才なしが」


 レイの言葉に俺はムッとして思わずこう返してしまう。


「いやいや、レイジ君は才なしじゃないぞ。もともと足かせがあったけど、才能はあると思うぞ」


 俺はそう言ったが、レイジは俯きながらポツポツと言葉を零す。


「いえ……いいんです。僕に才能がないのは本当のことですから」

「そんなことないと思うけどなぁ……。すぐに俺も教えることがなくなると思うよ」


 そう励ましてもレイジの表情は暗いままだ。

 何が起こっているのかよくわからんが、いいことじゃないのはよく分かる。


 俺はアカネの件で自分が鈍感なんだと自覚した。

 そのおかげで、なんとなく俺はこのレイジとレイの間にある確執らしきものを感じ取った。


 どうしようかと悩んでいると、ユイが核心を突く疑問を放った。


「レイジ君はレイさんに怯えているようだけど、どうしたの? 何かあったんでしょう?」


 その問いにレイジは答えなかった。

 しかしレイがつまらなそうに答える。


「それはこのレイジが私の子供だということです。まあ、才能がなかったので捨てましたが」


 ……なっ!?

 す、捨てた……?


 一瞬、俺はその言葉を信じられなかった。

 才能がないというだけで、子供を捨てられるものなのか。


 隣を見てみると、ユイも驚きの表情をしている。

 レイジは暗い表情で俯いたままで、嘘ではなさそうだった。


「なんてことを……。自分の子供をそう簡単に捨てていいわけありません」

「ふんっ、そんなの各家庭の勝手でしょう。それにこいつに才能がないのが悪いのです」


 開き直ったようにレイが言った。

 俺はこれ以上、レイとレイジを一緒に居させるのは不味いと思い言った。


「レイジ君、今日は帰ろう」


 俺の言葉にレイジは小さく頷いた。

 レイはそんなレイジをもう一度睨みつけてこう言う。


「レイジ、お前が何をしようと勝手だが、私の邪魔だけはしないでくれよ」


 それは決して子供に話す内容のセリフじゃなかった。

 俺はレイジとユイを連れてその場を去る。


 ちなみにレイのそばにいた少年たちは困惑した様子で突っ立っているだけだった。

 そして帰り道、レイジはゆっくりと口を開いた。


「トオルさん……すいません。これ以上、あなたに教わるわけにはいきません」

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