33:父との再会

――レイジ視点――


 それから一週間ほど、僕はトオルさんとユイさんの指導を受けながら過ごした。

 もちろんバイトをしながらだったのですごく忙しかったが、この一週間はとても充実していた。


 二刀流になってからとても戦いやすく、成長がとても感じられるようになった。

 それが楽しくて、嬉しかった。

 今までのくすぶっていた時代が嘘のように輝いていった。


「今日もありがとうございます!」

「いやいや、こちらこそいつも応援してくれていてありがとう」


 トオルさんに言われ、僕は照れたように頭をかく。


 ちなみに、明日は一緒に動画に出てほしいと言われている。

 僕なんかが出てもいいのかと思ったが、トオルさん曰くダンジョンを精一杯楽しんでもらいたいとのことだ。


 その厚意に感謝しつつ、僕は帰り道を歩いていた。


「おい、レイジ。また四層でスライムと戯れてたのかァ?」


 その時、俺はばったりと出会ってしまった。

 声をかけてきた彼は以前に僕を木刀でぼこぼこにした同級生――ユウジだった。


 彼はパーティーメンバーを引き連れて、ニタニタと笑みを浮かべている。


「ち、違う。今日は十層まで潜ったんだ……」

「ハンッ! お前が十層まで潜れるわけないだろ! 嘘をつくにしてももう少しマシな嘘をつきな!」


 ケタケタと笑い出すユウジたち。


 でも僕なんかじゃあまだ彼らに逆らえない。

 彼らは超大手クラン『黄金破滅群』のメンバーなのだから。


 高校生で『黄金破滅群』に所属しているのは彼らだけだ。

 それだけ彼らの実力は群を抜ていたし、有望株として名を上げていた。


 そんな彼らが僕を弄って笑っていると、後ろから男が近づいてくる。

 彼は好青年風の柔らかな笑みを浮かべてユウジたちに言った。


「こらこら、弱い者イジメはよくないですよ」


 そこに立っていたのは、『黄金破滅群』のリーダーであり、探索者ランキング四位の人間で。

 僕のでもある、レイだった。


 彼は蔑むような視線を僕に向けてくると、見下してきながら言った。


「久しぶりだな、レイジ」

「……久しぶり、父さん」


 僕は思わず視線を逸らしながら言った。

 そのやり取りを傍から眺めていたユウジが首をかしげて尋ねてくる。


「レイさん。こいつと知り合いなんですか?」

「いいや、知り合いって程じゃないよ」


 きっぱりとレイは言った。

 やっぱり彼にとって僕は子供ですらないみたいだ。


 もう悲しいとも思えない。

 諦めと悔しさだけが襲ってくる。


 こいつのせいで僕のお母さんは体調を崩し、僕たちは苦しい生活を送っている。

 そのことが、とても悔しく思うだけだった。


「そうですよね。レイさんがこんな奴と知り合いなわけないですよね!」


 そう必死にゴマをすろうとするユウジ。

 そのこともどこか白々しく、気分が悪くなってくる。


「じゃあ、僕はこれで……」


 そう立ち去ろうとするが、ユウジに呼び止められた。


「おい、レイジ。まだ話が終わってないぞ」

「……話って何さ」


 そう尋ねると彼はにやっと笑みを浮かべる。


「決まってるだろ。お前が十層まで潜ったっていう嘘についての話さ!」


 そんな時、彼らの後ろから再び二人の人影がやってくる。


「おーい! レイジ君。まだ帰ってなかったのか!」


 その声は気楽で、場の重たい空気を壊すような朗らかさだった。

 その声は、僕に戦い方を教えてくれたトオルさんのものだったのだ。

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