32:レイジに隠された才能

 レイジの戦い方を見てみて思ったことが二つある。

 一つは彼が本質的にであるということだった。


 普通、直剣での戦い方の基礎は右利き用に作られたものだ。

 だから左利きのレイジにとってその戦い方を強いられるともどかしく感じる。

 それがレイジの不器用さにつながっているのだと思われた。


 しかしレイジはおそらく自分が左利きであることに気がついていない。

 どうしてかは分からないが、さしずめ子供のころに無理やり強制させられたのだろう。


 そして二つ目は左目が利き目である、ということだ。


 利き目というのは戦いにおいて意外と重要で、利き目を知っておかないと距離感がつかみにくくなる。

 世の中の七割以上が右目が利き目だと言われているように、教わるのも右の利き目に合わせた戦い方だ。


 つまりその部分でレイジはハンディキャップを背負っている。

 それを一括で解決してくれるのが、双剣である。


 本質的に左利きだったレイジだが、ずっと右を使ってきたからいきなり左手を使う戦い方はできない。

 ので、俺は彼に双剣を提案したのだ。


 双剣は二つのことを同時に行う必要があるから難しいが、できないことをやり続けるよりはましだろう。

 まあ、その分自由度が増している、とも言えるわけだし。


 レイジはユイから得物を受け取ると恐る恐る構えてみた。


「す、すごい……。しっくりくる」

「だろう? レイジ君は左利きだからな。そっちのほうが合うと思ったんだ」


 それから俺たちの前で軽く剣を振るうが、やっぱりこっちのほうが洗練されている気がする。


「流石はトオルさんです。私ならそんな単純なことにも気が付きませんでした」


 反省するようにユイは言った。

 まあ、こればっかりは経験だからな。

 仕方がない部分もある。


「……僕って左利きなんですか?」

「多分ね。ほら、右を使おうとしていろいろ失敗したことあるだろう?」


 俺の言葉にレイジは思い返すように遠い目をして頷いた。

 やっぱり彼は自分が左利きだということに気が付いていなかったみたいだ。


「僕は……自分がただ要領が悪いだけだと思っていました。だからバイトでも皿を割ったりと失敗続きだったのだと」


 でも、と彼は言って言葉を続ける。


「もっと根本的なところに解決方法が眠っていたんですね。……トオルさん。本当にありがとうございます」

「いいや、これはまだ始まりに過ぎないよ。ここからどう成長していくかは君次第だ」


 言うと彼はじっとこっちを見てきて。思い切り頭を下げた。


「それでも、本当に、ありがとうございます! これで僕も一歩を踏み出せそうです!」


 それじゃあまずは、その小型ゴブリンたちを倒してみようか。

 俺の言葉と同時に、目の前に三匹の小型ゴブリンが出てくるのだった。

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